在宅医療における家族関係性の解析と介護者支援プログラムの開発に関する研究(総括研究報告)

文献情報

文献番号
200000260A
報告書区分
総括
研究課題名
在宅医療における家族関係性の解析と介護者支援プログラムの開発に関する研究(総括研究報告)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
保坂 隆(東海大学医学部精神科学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 渡辺俊之(東海大学医学部精神科学教室)
  • 眞野喜洋(東京医科歯科大学医学部保健衛生学科保健計画・管理学教室)
  • 水野恵理子(聖路加看護大学精神看護学教室)
  • 荻原隆二(財団法人長寿科学振興財団)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
厚生省の統計によれば、1998年の時点で介護が必要とされている65歳以上の高齢者は約200万人存在しており、その数は2000年には280万人、2025年には520万人に達すると予想されている。こうした高齢化の進展に対応するため、わが国では2000年からの介護保険制度の導入が決定し、高齢者のQOLの向上を目的とした支援体制つくりが進行しているが、その一方で介護者の負担感や心身の疲労が今日的な問題となってきている。本研究ではまず、高齢者で介護を要する者が発生した場合に、家族内でどのような動きがあり、被介護者と介護者それぞれのQOLにどのような影響を与えるのかを明らかにする。次に、介護者の心身の負担は容易に想像できるが、心身の健康に実際どのような影響を与えているのかを明らかにするために、介護者の有病率を調査して、在宅で被介護者のいない対照群と比較検討する。最後に、介護者のストレスを軽減するような集団介入プログラムを開発・施行し、その効果を検討する。
研究方法
本研究では、まず家族内に要介護者が出た時の、被介護者と介護者のQOLと家族環境との相互作用について検討した。具体的には、某院リハビリテーション科通院中の高齢者とその家族にBarthel Index(BI)の日本語版、自己記入式QOL質問表(QUIK)、Family Environment Scale(FES)の日本語版を添えた調査表への記入を依頼した。対照群としては、老人クラブに所属してボランティアなどをしている高齢者とその家族にも同じ調査表への記入を依頼した。
2番目の研究では、介護者のストレスの状況を、さまざまな心身疾患の有病率という点から検討を始めた。具体的には、研究の目的を説明して協力の得られた神奈川県Z市の、介護者のいる931世帯と、対照群として介護者のいない1、862世帯を無作為に選び、健康度を測るために独自に作成した調査表を送付し記入を依頼した。
最後の研究では、ストレス状況にある介護者を対象とした集団介入プログラムを開発して、施行して、心理テスト上で比較検討してみた。この集団介入プログラムは、主任研究者が、乳がん患者用に開発した「乳がん患者のための構造化された介入」をベースにして、介護者用に修正したものである。具体的には1回90分で、それぞれの回は、ストレスと心身との相関に関係するテーマに関する心理社会的教育、それに関する自分自身の話を参加者が自由に話し、問題点が提示されたときには解決方法を話すという問題解決技法や、情緒的に励ますような心理的支持、それに漸進性筋弛緩法や自律訓練法などのリラクセーションなどから構成されている。本年度の準備研究では、対象20名を10名ずつのグループに分けて施行した。効果判定は、POMS(Profile of Mood States)とGHQ-30(General Health Questionnaire-30)という心理テストを使用した。
結果と考察
第1の研究では、患者家族が、互いに協力しあい(凝集性)、互いが感情を表出して自由に話し合い(表出性)、役割関係を明確にして家族のルールを決めれば(組織性)、被介護者のQOLも介護者のQOLも高まることがわかった。家族を全体としてとらえる視点が、今後の在宅医療では重要になってくることになる。
第2の有病率調査は、本年度は集計途中のため、結果は出せなかったが、来年度は興味ある結果が出せると確信している。
最後の研究に参加した20名のうち、主観的に自らを健康と評価している者は5名にすぎず、残る15名はなんらかの身体的・精神的な不調を自覚していた。介入前と直後の比較では、POMSで抑うつ、怒り-敵意、疲労、混乱で有意に得点が減少し、一方、GHQ-30でもすべての項目で減少傾向であり、特に「不安と気分障害」では有意に得点が減少していた。しかし、介入が終了してから2カ月後の結果によれば、POMSによる抑うつ、疲労、緊張-不安、などでは数値上の減少が続いているが、活気の無さ、怒り-敵意、混乱では再び介入前に近づいた数値を示している。活気の無さ、怒り-敵意、混乱という因子は、日常的な介護が続いている限りは高スコアを示すものであるためだろう。一方、GHQ-30によれば、介入が終了してから2カ月後も、すべての項目で数値上では減少が続くか、介入直後のレベルを保っていることがわかる。この準備研究をもとに、大規模な無作為比較試験に展開していきたい。
結論
患者家族は、互いに協力しあい(凝集性)、互いが感情を表出して自由に話し合い(表出性)、役割関係を明確にして家族のルールを決めれば(組織性)、在宅高齢患者のQOLも介護者のQOLも高まることがわかった。わが国でも訪問介護や訪問看護の充実が求められているが、それは単に介護者の身体的負担を減らすためだけのものではない。在宅高齢患者と介護者のQOLを維持するためには、家族全体を視野にいれた心理社会的な介護支援が重要になろう。
一方、週1回90分で5週間(5回)で終了し、各セッションの内容があらかじめ決まっており、それらがマニュアル化されているという意味で「構造化された介入」と呼ばれる介入方法を開発した。今回の結果では、介護者の心身の症状に対して、短期的な効果は明らかであったが、その効果の持続性という点に関してはすべてのサブカテゴリーの得点が減少し続けたわけではなかった。今後は、介入プログラムの内容や、5回終了後の追加的な介入を含めた修正を加えて、さらに効果を検討していきたい。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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