総合的リハビリテーション及びケアシステムの連携についての研究-特に寝たきり化を防ぐための廃用症候群予防の見地から-

文献情報

文献番号
200000258A
報告書区分
総括
研究課題名
総合的リハビリテーション及びケアシステムの連携についての研究-特に寝たきり化を防ぐための廃用症候群予防の見地から-
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
石川 誠(近森会近森病院)
研究分担者(所属機関)
  • 大川弥生(国立長寿医療研究センター老人ケア研究部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
寝たきりの原因である廃用症候群に関して、その各種症候についての臨床及び基礎研究更には予防・改善のリハビリテーション及びケアの具体的技術・プログラムについては長寿科学総合研究でも優れた研究が行われてきた。しかしながら、廃用症候群予防にむけての技術・プログラムを、我が国全体の寝たきり予防にむけてどのように生かすかの観点から考えた際、介護保険制度がスタートした現在、それまでとは異なる新たなシステムのもとでの対策を作る必要がある。本研究はそのような視点から寝たきり化予防にむけてリハビリテーションとケアの連携システムを明確にすることを目的とする。
本研究初年度である本年度は特に次の2点について検討した。
1.在宅生活障害者のADL維持に向けての訪問リハビリテーションの役割(石川):介護保険施行後大きく変化した在宅患者への対応の要として訪問リハビリテーション活動をとりあげ、患者の在宅でのADL変化の面から検討した。
2.入院中の安静度及び活動性向上にむけての指導内容に関する全国調査(大川):わが国のねたきり化の大きな原因である「廃用症候群の悪循環」(大川)形成には生活活動性が最も大きく作用する。寝たきり化予防にむけたリハビリテーション・ケアシステムを構築するにあたっては、この生活活動性向上にむけての指導が徹底されることが第一の課題と考える。そこで研究初年度である本年度はまずこの生活活動性が医療の現場でどのように指導されているかの現状把握を目的として入院患者に対する「安静度」指示及び活動性向上に向けての指導状況についての全国調査を行なった。
研究方法
1.在宅生活障害者のADL維持に向けての訪問リハビリテーションの役割:東京都下の診療所を基盤として行なっている訪問リハビリテーションを継続して実施している42名を対象として訪問リハビリテーション開始初期時と調査直前最終時のADL能力についてバーセルインデックスで評価した。また生活活動性を厚生省の示した寝たきり度で比較検討した。対象者の内訳は骨関節疾患群(大腿骨頚部骨折や腰痛等)15名(年齢79.2±12.2歳、9.3±5.2ヶ月)、軽度脳卒中群(脳卒中で初期時に端座位が可能であった)15名(81.3±7.8歳、10.2±6.2ヶ月)、重度脳卒中群(初期時に端座位が不可能)12名(75.0±6.7歳,12.3±6.9ヶ月)である。
2.入院中の安静度及び活動性向上にむけての指導内容に関する全国調査:廃用症候群についての認識が高いと考えられる、リハビリテーション部門を有する病院を対象として、入院患者に対する安静度指導および活動性向上に対する指導の状況を質問紙郵送法で調査した。[全731病院中回答640病院:回答率87.6%]。
同一病院内の同一種類病棟(一般病棟、リハビリテーション病棟、療養型病棟)で、複数病棟から回答があった場合は、最も活動性向上の指導が良好な病棟を選択した。
結果と考察
1.在宅生活障害者のADL維持に向けての訪問リハビリテーションの役割:1)Barthel Indexの変化:Barthel Indexを項目別に見ると、骨関節疾患群では整容・更衣・移乗・トイレ動作・歩行・階段昇降において有意差がみられた。軽度脳卒中群では移乗と階段昇降で有意差がみられた。重度脳卒中群では有意差は認められなかった。
2)活動性の変化:骨関節疾患群では8割に改善がみられた。一方、軽度脳卒中群では約5割に改善がみられ、4割は維持傾向であった。重度脳卒中群では改善は1割弱で、ほとんどは維持傾向であった。
原因疾患による特異性をみると、骨関節疾患群では骨折や痛みをきっかけとした廃用症候群による移動障害が生活障害及び寝たきり・閉じこもりの原因である場合が多かった。このため痛みの治療や起居移動動作を中心としたアプローチにより移動能力が改善し、ADL全体の改善と活動性の向上につながったと考えられる。脳卒中群の場合、中枢性麻痺及び廃用症候群による生活動作能力の低下が生活障害及び寝たきり・閉じこもりの原因となっていた。軽度脳卒中群では訪問リハビリテーションにより移乗や階段昇降といった移動能力が有意に改善し、それがADLの改善につながったと考えられる。
2.入院中の安静度及び活動性向上にむけての指導内容に関する全国調査:1)安静度の指示を全患者もしくは一部患者に限っても行われているのは一般病棟では260病棟中233病棟(89.6%)でこの内163病棟(62.7%)は全患者について、また70病棟(26.9%)では特定の疾患についてのみで安静度が指示されていた。一方全く指示されていなかった病棟は27病棟(10.4%)であった。リハビリテーション病棟では551病棟中237病棟(43.0%)は全患者、205病棟(37.2%)では特定の疾患について指示されていた。一方全く指示されていなかった病棟は109病棟(19.8%)であった。さらに療養型病棟では292病棟中85病棟(29.1%)で全患者、119病棟(40.8%)で特定の疾患に指示され88病棟(30.1%)では全く指示されていなかった。
2)活動性向上に関する指導
活動性向上に向けて指導をしていると返答した病院は、一般病棟204病棟(78.5%)、リハビリテーション病棟428病棟(77.7%)、療養病棟208病棟(71.2%)であった。
しかしその具体的内容を再確認すると、その内容はケアプランの指導、PT・OTを行うこと、レクリエーション実施等を活動性向上にむけての指導と考えている場合が多かった。活動性向上自体を目的として綿密な指導をしているのは一般病棟では活動性向上の指導ありと返答をした204病院中25病院(12.3%:全260病院中9.6%)、リハビリテーション病棟では17病院(4.0%:全551病院中3.1%)、療養型病棟では38病院(18.3%:全292病院中19.0%)であった。
結論
1.在宅生活障害者のADL維持に向けての訪問リハビリテーションの役割(石川):訪問リハビリテーションによって単に機能(ADL)維持だけではなく、ADL向上をはかることができた。しかし、その原因としては訪問リハビリテーション開始前の、すなわち自宅退院前のリハビリテーションの不十分さの影響も大きい。今後入院中のリハビリテーションの徹底とともに、入院リハビリテーションの不十分なまま退院した患者への訪問リハビリテーションの実施によるまさに水際におけるADL向上の必要性が示唆された。
2.入院中の安静度及び活動性向上にむけての指導内容に関する全国調査(大川)入院中の安静についての指導は十分に行われているが、一方で生活活動性向上に向けての指導が極めて不十分なことが判明した。医療機関全般に廃用症候群の重要性についての普及と、その改善にむけての具体的方策である「活動度」の指導が望まれる。

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