アグリカン遺伝子ノックインマウスの作製による軟骨破壊機序の解析(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000256A
報告書区分
総括
研究課題名
アグリカン遺伝子ノックインマウスの作製による軟骨破壊機序の解析(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
渡辺 秀人(愛知医科大学分子医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 木全弘治(愛知医科大学分子医科学研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
4,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、「軟骨破壊の決め手となるアグリカンIGDドメインの分解機序を、最先端の遺伝子操作技術の駆使により同ドメインを人為的に変化させたノックインマウスモデルを用いて解明すること」である。
慢性関節リウマチ、変形性膝関節症等の進行性関節破壊疾患に於ける最も重要な問題は関節軟骨の破壊に伴う運動機能の低下である。軟骨組織の主成分であるプロテオグリカン会合体は、水分を貯溜し硝子様形態と弾力性を軟骨に与えている。この会合体は、アグリカンのアミノ側球状ドメイン(G1)でヒアルロン酸とリンク蛋白の両者と結合し、これら三者の結合によって会合体が安定化する。会合体の保水作用に基づく軟骨の耐久性は、アグリカンの有する多数のコンドロイチン硫酸鎖によるものであるが、G1ドメインに隣接するIGDドメインの切断によって会合体の構造は破壊され、その機能は失われる。関節破壊は、蛋白分解酵素のIGDドメイン切断による会合体構造の破壊によって進むと考えられる。種々の蛋白分解酵素によるアグリカンの分解に関する研究はもっぱら生化学的手法によるものであった。今後、関節破壊の機序を解明するためには、生体内という統合的微小環境下における各分子の機能を解析していかなければならない。従って、最先端の遺伝子操作技術を駆使したマウスモデルを用いた解析が不可欠である。
本研究は3年間の事業として立案されたが、初年度となる平成12年度では、ノックインコンストラクトの作製と相同組換えES細胞株の樹立、さらに同ES細胞株を用いたキメラマウスの作製を目的とした。
研究方法
ノックインコンストラクトの作製:IGDの蛋白分解酵素による切断部位を含む部分(IGDの前半三分の一)を欠損させたノックインコンストラクトを、すでに得られているゲノムクローンを用いて作製した。
ノックインマウスの作製:上記のコンストラクトとマウスES細胞を用いて、ノックインalleleを有するES細胞株を得、胚盤胞導入法により、キメラマウスを作製した。
結果と考察
まず、129系マウス由来アグリカンゲノムDNAを用いて遺伝子置換のためのノックインコンストラクトの作製を以下の手順で行った。ゲノムDNAライブラリーより単離したアグリカン遺伝子の約8kbのゲノムDNAを用いて、IGDドメインのプロテアーゼ標的部位に対応するエクソン7内の12 bpをPCR法に基づくsite-directed mutagenesis法により欠損させ、さらに遺伝子導入クローン選択目的でloxP配列によって挟まれたネオマイシン耐性遺伝子をイントロン7に挿入して、コンストラクトを作製した。
次に、遺伝子を導入したES細胞の中で、相同組換えを起こした細胞を簡便に検出するためのPCRの条件検討を行った。相同組換え部分の外側の部分を含むポジティブコントロールベクターをゲノム内に有するマウス腫瘍細胞株をStable Transfection法により得た。次に、ネオマイシン耐性遺伝子内、および相同組換え部分の外側にそれぞれプライマーを設定し、上記細胞株より得たゲノムDNAをテンプレートとして、PCRの条件検討をおこなった。確立された条件によるPCR法はES細胞のスクリーニングの際にも有効であることを確かめた。
次に、ES細胞を用いて遺伝子ターゲッティングを行う準備段階としてES細胞培養用のフィーダー細胞を調製したのち、エレクトロポレーション法によるターゲッティングベクターの導入と相同組換えES細胞株の単離を以下の手順で行った。制限酵素処理にて直線化したノックインコンストラクトをエレクトロポレーション法によってES細胞に導入し、翌日から約6日間のG418処理によるスクリーニングを行い、280個の遺伝子導入細胞株を単離した。これらの細胞株より調製したゲノムDNAを用いて、上記のPCR法にて相同組換えを有するES細胞クローン4個を得た。さらに、挿入DNAの外側のプローブを用いたサザン・ハイブリダイゼーションによって、相同組換えを確認した。
これら4種のクローンを用いて胚盤胞導入法によるキメラマウスの作製を日本エスエルシー株式会社に委託し、キメラマウス雄一匹が得られた。
ターゲッティングベクターの作製からキメラマウスの作製まで、一連の行程はすべて滞りなく達成することができた。特にPCR 法による相同組換えクローンの同定技術により、スクリーニングの時間とサザン・ハイブリダイゼーションの手間を大幅に短縮することができ、極めて有効な手法であることが確認された。
結論
3年間の事業として立案された本研究の初年度では、ノックインコンストラクトの作製と相同組換えES細胞株の樹立、さらに同ES細胞株を用いたキメラマウスの作製を目的とした。一連の行程はすべて滞りなくほぼ予定通り終了した。作製されたマウスを用いた今後の研究によって、軟骨破壊機序が解明されるものと期待される。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-