高齢者の骨軟骨疾患の発症病理及び再生医学的治療に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000255A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の骨軟骨疾患の発症病理及び再生医学的治療に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
渡辺 研(国立療養所中部病院長寿医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 澁谷浩司(東京医科歯科大学難治疾患研究所)
  • 南 康博(神戸大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
21世紀を迎える現在、我が国はすでに先進各国の中でもいち早く超高齢者社会へと突入しつつある。そういった中で、高齢者の運動能力を著しく阻害する骨軟骨疾患は、「寝たきり」の引き金であり、また、臥床状態の持続はさらに骨軟骨の構造的かつ機能的減衰を助長し、最悪のシナリオを作り出す原因であると考えられる。このような現状で、効果的な骨軟骨組織の機能維持・回復技術の開発により、高齢患者が完全社会復帰とは言わずとも、「寝たきり」から脱却し、家庭生活に復帰できる状態にまで回復させることは、とりもなおさず超高齢者社会において極めて重要な課題の一つであるといえる。本研究では、骨粗鬆症や変形性関節症、ならびに骨折治癒遅延等、高齢者のかかえるさまざまな骨軟骨疾患が、加齢に伴う骨軟骨形成および再生能力の低下を特徴的な病理・病態とする点で共通していることに着目する。また、酵素阻害剤等の機能抑制系が中心である薬物療法の体系において、機能回復・機能賦活化を作用とする治療法の開発は新しいカテゴリーに属し、それだけに網羅的かつ高度な分子メカニズムの理解なくして実用性は望めない。そのため、本研究課題においては、分子レベルの基礎研究に重点を置くことにより、細胞分化から組織再生に至る分子基礎についてできるだけ多くの知見を得ることをめざす。そこで、組織形態形成・再生に関する分子機構の解明をin vitroからin vivoにわたる研究体制によって進めることにより、高齢者の骨軟骨疾患の病理・病態に対する分子レベルでの理解ならびに組織機能維持・回復に関する知見を得ることを目的とする。渡辺は骨格系組織構築に必須である骨芽細胞の分化について、分子レベル・細胞レベルについて解析を行うとともに、加齢動物をもちいて、加齢と幹細胞の増殖・分化に関する知見を得ることを目的とする。澁谷は、骨軟骨組織形態形成に必須である骨形成因子(BMP)のシグナル伝達機構の解明により組織構成細胞分化の分子メカニズムを明らかにする。南は、新規の骨軟骨形態形成疾患モデルならびに骨折モデルの病理・病態解析を行い、組織形態形成に関する情報を得る。骨折モデルを用いた組織修復機構の研究は、組織再生から機能回復を導くといった新しい再生医学の基礎となることが期待される。本研究では、骨軟骨組織維持機構の解明は、予防医学的にも有効であると考えられ、超高齢社会を迎えて、高齢者の生活・医療・福祉に貢献するものと考えられる。
研究方法
1. 骨芽細胞分化に関する研究
骨芽細胞分化過程において、BMPにより発現誘導される転写因子Dlx5の機能調節のメカニズムを知るため、Dlx5を囮として、yeast two hybrid screeningにより、Dlx5と相互作用する分子群の単離を行った。また、単離したクローンについて、全長cDNAを単離し、発現ベクターに組み込み、細胞での結合試験および転写実験に用いた。また、cRNAプローブを作製し、in situ hybridization法により、組織発現部位の検索を行った。
2. BMPシグナルに関する研究
BMP受容体に結合し、BMPシグナル調節に関わっていると考えられるBRAM1について、データ* 属施設の動物実験施設指針等に則り、組織材料ならびにモデル等、動物愛護上の配慮をもって行った。
結果と考察
骨芽細胞分化に関する研究では、骨芽細胞分化および骨芽細胞機能において重要な役割を担うDlx5の機能調節因子として、新規分子Dlxin-1を単離した。Dlxin-1は、骨格系ならびに神経系に発現が限局するDlx5とは異なり、むしろ広く組織に分布しており、間葉系培養細胞株では、骨髄由来ストローマ細胞ST2, 筋芽細胞C2C12, 間葉系未分化細胞10T1/2, 軟骨細胞ATDC5, 骨芽細胞KUSA/A1, 前骨芽細胞MC3T3-E1等、調べたほとんどの細胞で発現が認められた。そこで、Dlxin-1がDlx5以外のDlx/Msxファミリーの機能調節に関わっている可能性が考えられたため、結合試験により確認したところ、やはり、Dlx7やMsx2との結合が検出され、Dlxin-1は、Dlx/Msxファミリーのホメオドメイン転写因子のユニバーサルな調節因子である可能性が示唆された。
BMPシグナルに関する研究では、データベース検索の結果、2種類のBRAM1の線虫ホモログを単離し、それぞれ、cBRA1およびcBRA2と命名した。cBRA1-GFPを用いて、組織発現分布を調べたところ、DAF-1の発現とよく一致することから、線虫TGF-bシグナルであるdafシグナルへの関与が示唆された。そこで、cBRA1 null変異体を作製し、dafシグナル経路に関わる遺伝子群の変異体との二重変異体を作製することにより、表現型からdaf/TGF-bシグナルへの関与について検討した。その結果、cBRA1は、遺伝学的に受容体下流で機能し、Smadの上流でシグナル抑制的に働いていることを見いだした。実際、生化学的にも、受容体DAF1とcBRA1 の特異的な結合も確認された。cBRA1の線虫dafシグナルでの機能について、in vivoおよびin vitroで明らかとなった。
軟骨組織形態形成に関わる因子に関する研究では、受容体型チロシンキナーゼであるRor2のノックアウトマウスを解析し、Ror2が口腔顎顔面領域の形態形成に重要であることを明らかにした。Ror1/Ror2のダブルノックアウトマウスを作製、解析し、Ror1/Ror2が協調的に骨格系の形態形成に重要な役割を担うことが明らかとなった。さらに、骨折の治癒過程でRor1/Ror2の発現誘導を見いだし、組織修復・再生における機能があることが推測された。また、未同定であったRor1/Ror2のリガンドについての検討で、Ror2のリガンド候補分子として、Wnt5aを同定した。
結論
骨軟骨形成過程において極めて重要であると考えられているBMPシグナルの下流で骨芽細胞分化に関わる新規転写調節因子を単離するとともに、そのBMPシグナルを受容体下流において制御する新規分子群cBRA1/cBRA2を見いだした。また、骨格形態形成に必要であるRor1/Ror2が、BMPシグナル同様、重要であり、また、BMPシグナルとのクロストークが見いだされているWntシグナルとの関与について見いだした。

公開日・更新日

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