加齢に伴う脊柱変形の危険因子の解明と防止法の開発に関する研究(総合研究報告書)

文献情報

文献番号
200000253A
報告書区分
総括
研究課題名
加齢に伴う脊柱変形の危険因子の解明と防止法の開発に関する研究(総合研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
中村 利孝(産業医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 星野雄一(自治医科大学)
  • 福永仁夫(川崎医科大学)
  • 高岡邦夫(信州大学)
  • 白木正孝(成人病診療研究所)
  • 藤原佐枝子(放射線影響研究所)
  • 細井孝之(東京都老人医療センター)
  • 鈴木隆雄(東京都老人総合研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
12,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒトの脊柱は加齢に伴い弯曲が増大し、骨格全体が縮むように小さくなっていく。このような骨格の変形は、高齢者の自立した生活を阻害する主要な原因となっている。本研究は、高齢者における脊柱変形の危険因子を明らかにし、脊柱変形に起因する日常生活障害に対する予防法を確立することを全体の目的としている。
脊柱は脊椎骨と椎間板からなり、姿勢と運動性を維持し、脊髄・神経を保護している。高齢者では、骨粗鬆症の有無にかかわらず、脊椎骨と椎間板のどちらも退行性脊柱変形の原因となり、どちらの組織にも変化が見られることが多い。したがって、高齢者における脊柱変形の原因を解明し予防法を確立するには、骨粗鬆症と変形性脊椎症とを包括的に取り扱い、「退行性の脊柱変形」として実態を明らかにする必要がある。高齢者の脊柱変形についての危険因子が明らかになることにより、生活習慣病としての「退行性脊柱変形」を防止する手掛かりが得られ、偏りのない包括的な知識を国民に提供することにより国民の福祉に貢献できる。
初年度の本研究では、まず、加齢に伴う「退行性脊柱変形」の実態を明らかにし、それらが高齢者の日常生活動作および生活の質に及ぼす障害の実態が明らかにすることを目的とする。
研究方法
【対象】population sampleとして広島、秋田で行われている住民検診に平成12年8月から平成12年12月までに参加した65才から85才までの女性一般住民431例を、hospital sampleとして同期間に産業医科大学および自治医科大学の整形外科外来を訪れた患者のうち腰背部痛を訴えた同年齢女性52例を対象にした。
【測定項目】理学所見として身長、体重、arm span、重心線距離、片脚起立テストを測定した。重心線距離は第7頚椎棘突起先端の垂線と踵後方縁からの垂直距離を測定し、前方は正、後方は負の表示とした。片脚起立テストは開眼および閉眼で行った。
【質問票】日本骨代謝学会における骨粗鬆症ADL評価案およびSF-36を参照にして、脊柱変形、脊柱可動性に関連する項目を含めて質問票を作成した。ADLの質問はinstrumental ADL(以下 i ADL)に関する5質問(5-10点)、basic ADL(以下 b ADL)に関する5質問(5-15点)。QOLの質問は10質問(10-46点)、うち疼痛に関する質問(以下QOL pain)が3問(3-14点)、総合的健康度に関する質問(以下QOL health)が4問(4-20点)で、評価は、それぞれの合計点とした。点数が低いほどADL、QOLは良いことになる。
【脊柱変形の形態学的評価】X線撮影は胸椎、腰椎それぞれ正面・側面の2方向を撮影した。 評価は椎体変形のsemiquantitative grading評価法であるGenant法(Calcif.Tissue Int.Vol57 169-174 1995)より、・椎間板腔狭小化(0なし、1あり)、・椎体終板の硬化(0なし、1片側にあり、2両側にあり)、・椎体の骨棘(0なし、1極軽度、2軽度、3重度)の3項目を採用し、その他、・前縦靱帯骨化(0なし、1上位、下位いずれかの椎間にあり、2両方にあり)、・椎体変形(0なし、1あり)、・側弯の3項目を加えた6項目を評価した。・側弯に関しては約10゜以上を側弯ありと判定しCobb角度を測定した。・から・に関しては第4胸椎から第4腰椎までを読影範囲とした。いずれかの椎体に所見がある(指数1または2)症例を有所見例とし、有所見症例の頻度を目視有所見頻度とした。また、有所見例における有所見椎体の指数の合計を合計指数とした。合計指数に関しては5項目の合計指数を合わせたものを全5項目とした。
【評価】(1)一般測定結果(a)、質問票の結果(b)、脊柱計測結果(c)それぞれについてpopulation sample とHospital sampleの比較を行なった。(2)脊柱変形に影響を与える一般計測の因子および相関を調べた。(3)ADL、QOLに影響を与える脊柱変形、一般計測の因子および相関を調べた。
結果と考察
(1)population sample (以下P群)とHospital sample(以下H群)の比較。
(a)一般測定結果:年齢(P群平均73.3才、H群平均72.5才)、身長(同146.0cm、47.5cm)、体重(同51.4kg、49.2kg)といずれも両群に差はなかった。一方、Body mass index(BMI)(同24.1、22.6)およびarm span(同150.7cm、148.1cm)とそれぞれ有意差を認めた。重心線距離(同4.29cm、3.92cm)、開眼片脚起立時間(同6.24秒、6.26秒)および閉眼(同3.00秒、3.44秒)はいずれも有意差はなかった。
(b)質問票の結果:i ADLに比べb ADLは自立している割合が両群とも多かった。ADL、QOL合わせた総点数の平均はP群32.9点、H群35.8点と有意にH群が高かった。これらを項目ごとに比較するとi ADLはP群5.3点、H群5.7点、b ADLはP群5.0点、H群5.3点、QOL painはP群6.2点、H群は6.8点といずれもH群の方が有意に高く、一方、QOL healthはP群12.6点、H群12.9点と全く差がみられなかった。
(c)脊柱計測結果:脊柱計測の有所見者数の頻度は、椎間板腔狭小化(P群67%、H群71%)、椎体終板の硬化(同48%、42%)、椎体の骨棘(同95%、H群92%)、前縦靱帯骨化(同13%、H群19%)、椎体変形(同41%、H群40%)いずれも群間に有意差を認めなかった。側弯の頻度はP群の11%に対してH群は25%と倍以上の頻度を認め、カイ二乗検定で有意差を認めた。各項目について、脊柱高位の分布をヒストグラムで調べると、いずれの項目ともほぼ同様の分布であった。
(2)脊柱変形に影響を与える一般計測の因子および相関をStepwise 解析で調べた。脊柱変形項目のうち、全脊椎指数合計点はBMI、年齢、重心線距離、arm span/身長の4説明変数で弱い相関(R=0.328, R^2=0.108)を認め、椎体変形合計指数は身長、arm span、年齢、体重の4因子と(R=0.388, R^2=0.150)、指数合計点は重心線距離、年齢、体重、身長の4因子と(R=0.313, R^2=0.098)それぞれ弱い相関を認めた。
(3)ADL、QOLに影響を与える脊柱変形、一般計測の因子および相関をStepwise解析で調べた。i ADLに関連する因子はBMI、体重、arm span、重心線距離、開眼片脚起立、年齢、前縦靱帯骨化で、弱い相関(R=0.445, R^2=0.198)を認めた。同様にb ADLはarm span、身長、開眼片脚起立、椎体変形合計指数で弱い相関(R=0.294, R^2=0.087)を認めた。ADL全体ではarm span、身長、開眼片脚起立、重心線距離、椎体変形合計指数で、弱い相関(R=0.414, R^2=0.171)を認めた。QOL pain、およびQOL healthは相関を認めなかったが、QOL全体では開眼・閉眼片脚起立、椎体の骨棘、椎体変形、arm span、前縦靱帯骨化、側弯目視スコアで弱い相関(R=0.388, R^2=0.146)を認めた。なお、椎体の骨棘はQOL全体をよくする方に影響していた。
結論
Population sampleとHospital sampleの比較では、i ADL、b ADLいずれもPopulation sampleの方が自立しており、疼痛に関するQOLもPopulation sampleの方が良好であった。脊柱変形の項目のうち変性側弯を含めた側弯の有病率がHospital sampleにおいて高かったが、その他の脊柱変形の頻度、高位分布は両群で類似していた。脊柱変形は年齢、身長、体重(BMI)などの身体的影響を受けていた。脊柱変形の中にはADLやQOLを増悪させる変形と、逆によくする、すなわち防御的に働く脊柱変形があることが明らかになった。脊柱側弯や椎体変形に起因する後弯等の脊柱弯曲異常は日常生活動作や生活の質を低下させる可能性が示唆された。

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