文献情報
文献番号
200000250A
報告書区分
総括
研究課題名
廃用性骨萎縮のメカニズムと治療法の開発
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
池田 恭治(長寿医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
- 高垣裕子(神奈川歯科大学)
- 中村利孝(産業医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
23,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
高齢者における運動低下や寝たきり状態は、骨の粗鬆化を加速させる大きな要因であるが、臥床時の免荷や運動・重力による荷重などの機械的刺激が、どのようなメカニズムで骨で感知され、どのようなシグナル伝達系を介して骨代謝を調節しているかはほとんど解明されておらず謎のままである。とりわけ、骨にもっとも多く存在し、機械的刺激を受ける上で主要な細胞と考えられている骨細胞(osteocyte)が発現する遺伝子群とそれらが果たす機能については(硬組織に埋没した骨細胞を単離することの困難さゆえ)ほとんど知られていない。したがって、骨における機械的刺激の受容の程度を体外から診断し、骨細胞の機能を賦活化するような薬物も存在しない。
本研究の目的は、高純度で単離した骨細胞のcDNAライブラリーから、レトロウイルスを用いたシグナルシークエンストラップ法によって、骨細胞に特異的に発現する遺伝子群、とりわけ膜・分泌蛋白を同定し、ノックアウトマウスを作成して、細胞のみならず組織レベルでの機能解析を行うことである。これらの研究と並行して、NOS、COXなどのノックアウトマウスを用い、NOやプロスタグランデインがmechanotransductionに果たす役割をin vivoで明らかにすることも計画した。
本研究の目的は、高純度で単離した骨細胞のcDNAライブラリーから、レトロウイルスを用いたシグナルシークエンストラップ法によって、骨細胞に特異的に発現する遺伝子群、とりわけ膜・分泌蛋白を同定し、ノックアウトマウスを作成して、細胞のみならず組織レベルでの機能解析を行うことである。これらの研究と並行して、NOS、COXなどのノックアウトマウスを用い、NOやプロスタグランデインがmechanotransductionに果たす役割をin vivoで明らかにすることも計画した。
研究方法
1.骨細胞が発現する遺伝子群の探索
シグナルシークエンストラップ(SST-REX)法を利用して、IL-3非存在下での増殖を指標にシグナルシークエンスをもつ遺伝子、すなわち細胞膜蛋白質や分泌蛋白質のcDNAを単離することを試みた。ラット頭蓋冠の骨片よりoutgrowthしてきた細胞を骨細胞として得、調製したmRNAからcDNAライブラリーを作製し、pMX-SSTベクター(N末端側のcDNAとsignal sequenceを欠いた恒常的活性化型thrombopoietin receptorの融合蛋白を発現するベクター)に組込んだ。融合蛋白を、レトロウィルスを用いて、IL-3依存的な増殖を示すBa/F3 cell (pro B cell)に発現させ、この常時活性化型thrombopoietin receptorは細胞膜にアンカーされることによって、細胞増殖シグナルを発するため、IL-3非依存的な増殖が可能となる。IL-3非存在下で増殖した細胞を回収し、調製したgenomic DNAから、pMXベクタープライマーを用いたPCRにより、Ba/F3 cellに導入されたcDNA由来の部位を増幅後、sequencingを行った。そのうち未知の蛋白質をコードする遺伝子について、得られたcDNAを用いてノーザンブロッティングを行い組織発現および遺伝子サイズを決定するとともに、EST検索及びRT-PCRによってcDNA全長を取得し、コード蛋白を決定した。
2.高純度で骨細胞を単離する方法の開発
これまでは、主に仔ラット頭蓋冠より単離した骨細胞を用いてきたが、この骨細胞は長管骨骨細胞とは発生学的に由来が異なり、しかも頭蓋冠はあまり負荷を受けない骨であるため、骨細胞の主たる機能である力学的負荷に対する応答と情報伝達を研究する際に問題となる。そこで、これまでの方法をマウスおよびラットの大腿骨に応用し、骨細胞の単離を試みた。生後一日の動物より大腿骨を取り出し、軟組織と骨髄を除去後、0.2mg/mlのシグマDNaseを含む細胞分散用コラゲナーゼ溶液(1mg/ml)25ml中、37度で振盪する。30分後取り出してピペッティング操作をくりかえして骨片を洗浄し、静置培養する。事前にMatrigelを薄くコートし手早く乾燥させた100mmの培養皿をもちいる。1週間後外生した細胞がフィブロブラストの形態を示すときは、骨片を集めて0.25%トリプシンで20分ほど振盪し、再びピペッティング操作をくりかえして骨片を洗浄して100mmの培養皿に移す。数週間後外生した細胞が突起をたくさん出現させていればサンプルとして回収する。
3.力学的負荷に対する骨反応に果たすiNOSの役割
8週齢の雄性、iNOSノックアウトマウス(-/-)とwid typeマウス(+/+)を用いた。海綿骨量の変化に関しては、heteozygousマウス(+/-)も用いた。尾部懸垂により、1週間の非荷重、その後2週間の再荷重実験を行い、週齢をマッチさせた正常荷重群と比較した。スタート時、処置後1、3週の時点で屠殺した。実験のプロトコールは、産業医科大学動物実験倫理委員会において承認されている。骨動態に対するiNOSの影響を知るために、脛骨近位二次海綿骨での骨形態計測を行った。骨量(BV/TV)、骨石灰化速度(MAR)、骨形成率(BFR/BS)、破骨細胞数(Oc.N/BS)、破骨細胞骨接触面(Oc.S/BS)を調べた。尾部懸垂後の骨髄における骨芽細胞の分化増殖に対するiNOSの影響を知るために、脛骨から骨髄細胞を採取した。Dexamethazone、ascorbic acid存在下のα-MEMで細胞培養し、培養21日目にmineralized noduleの形成を測定した。
シグナルシークエンストラップ(SST-REX)法を利用して、IL-3非存在下での増殖を指標にシグナルシークエンスをもつ遺伝子、すなわち細胞膜蛋白質や分泌蛋白質のcDNAを単離することを試みた。ラット頭蓋冠の骨片よりoutgrowthしてきた細胞を骨細胞として得、調製したmRNAからcDNAライブラリーを作製し、pMX-SSTベクター(N末端側のcDNAとsignal sequenceを欠いた恒常的活性化型thrombopoietin receptorの融合蛋白を発現するベクター)に組込んだ。融合蛋白を、レトロウィルスを用いて、IL-3依存的な増殖を示すBa/F3 cell (pro B cell)に発現させ、この常時活性化型thrombopoietin receptorは細胞膜にアンカーされることによって、細胞増殖シグナルを発するため、IL-3非依存的な増殖が可能となる。IL-3非存在下で増殖した細胞を回収し、調製したgenomic DNAから、pMXベクタープライマーを用いたPCRにより、Ba/F3 cellに導入されたcDNA由来の部位を増幅後、sequencingを行った。そのうち未知の蛋白質をコードする遺伝子について、得られたcDNAを用いてノーザンブロッティングを行い組織発現および遺伝子サイズを決定するとともに、EST検索及びRT-PCRによってcDNA全長を取得し、コード蛋白を決定した。
2.高純度で骨細胞を単離する方法の開発
これまでは、主に仔ラット頭蓋冠より単離した骨細胞を用いてきたが、この骨細胞は長管骨骨細胞とは発生学的に由来が異なり、しかも頭蓋冠はあまり負荷を受けない骨であるため、骨細胞の主たる機能である力学的負荷に対する応答と情報伝達を研究する際に問題となる。そこで、これまでの方法をマウスおよびラットの大腿骨に応用し、骨細胞の単離を試みた。生後一日の動物より大腿骨を取り出し、軟組織と骨髄を除去後、0.2mg/mlのシグマDNaseを含む細胞分散用コラゲナーゼ溶液(1mg/ml)25ml中、37度で振盪する。30分後取り出してピペッティング操作をくりかえして骨片を洗浄し、静置培養する。事前にMatrigelを薄くコートし手早く乾燥させた100mmの培養皿をもちいる。1週間後外生した細胞がフィブロブラストの形態を示すときは、骨片を集めて0.25%トリプシンで20分ほど振盪し、再びピペッティング操作をくりかえして骨片を洗浄して100mmの培養皿に移す。数週間後外生した細胞が突起をたくさん出現させていればサンプルとして回収する。
3.力学的負荷に対する骨反応に果たすiNOSの役割
8週齢の雄性、iNOSノックアウトマウス(-/-)とwid typeマウス(+/+)を用いた。海綿骨量の変化に関しては、heteozygousマウス(+/-)も用いた。尾部懸垂により、1週間の非荷重、その後2週間の再荷重実験を行い、週齢をマッチさせた正常荷重群と比較した。スタート時、処置後1、3週の時点で屠殺した。実験のプロトコールは、産業医科大学動物実験倫理委員会において承認されている。骨動態に対するiNOSの影響を知るために、脛骨近位二次海綿骨での骨形態計測を行った。骨量(BV/TV)、骨石灰化速度(MAR)、骨形成率(BFR/BS)、破骨細胞数(Oc.N/BS)、破骨細胞骨接触面(Oc.S/BS)を調べた。尾部懸垂後の骨髄における骨芽細胞の分化増殖に対するiNOSの影響を知るために、脛骨から骨髄細胞を採取した。Dexamethazone、ascorbic acid存在下のα-MEMで細胞培養し、培養21日目にmineralized noduleの形成を測定した。
結果と考察
1.骨細胞が発現する遺伝子群の探索
シグナルシークエンストラップ法により、148クローン63種類を単離した。うち4種が新規遺伝子、144個59種が既知の遺伝子であった。既知遺伝子の内訳は、85遺伝子(57%)19種が分泌蛋白、34遺伝子(23%)18種が膜蛋白、6遺伝子(4%)4種が小胞体蛋白、1遺伝子がゴルジ体蛋白、12遺伝子(8%)11種が細胞質蛋白、1遺伝子が核蛋白、4遺伝子(3%)4種が局在不明な蛋白をそれぞれコードするもので、1遺伝子がPseudogeneであった。
既知遺伝子と相同性が認められない4クローン(OSYSST35, 46, 83, 108)のうち、ノーザンブロッティングにより発現が確認できたのは2クローン(OSYSST46, 83)であった。OSYSST46は約2.5kb, 5.0kbのmRNAが肝と腎で 、OSYSST83は約0.8kbのmRNAが肝で発現していることが確認された。この2クローンについては、EST検索とRT-PCRにより全長と考えられるそれぞれ2297bp, 733bpを決定した。OSYSST46は528アミノ酸の蛋白をコードすること、この蛋白はhypotetical proteinであるDKFZp564J102(human)、KIAA0974(human)とそれぞれ対応する領域において67%, 32%のホモロジーを持つことが確認され、ファミリーを形成していることが考えられたが、signal sequenceほか有意なモチーフは認められなかった。OCYSST83についてはORFが確認されなかった。また、この2クローンはいずれもRT-PCRにより、KUSA-A1(骨芽細胞)、MC3T3-E1(骨芽細胞)、C2C12(筋芽細胞)、ST2(ストローマ細胞)細胞株における発現がみられ、骨細胞に特異的な発現をするものではなかった。得られたクローンはかなりの比率(148クローン中32クローン:22%)でコラーゲン、オステオポンチン等の初期または中期骨芽細胞マーカーを含んでいることから、今回用いたラット骨細胞由来のSST-REX cDNA ライブラリーには骨芽細胞由来のものが混在している可能性が考えられた。
2.高純度で骨細胞を単離する方法の開発
今回新たに開発した方法で外生させた細胞を、順次骨細胞 I, II, III......と呼ぶが、数を増すにつれてアルカリフォスファターゼの発現レベルを低下させ、オステオカルシンの発現レベルを上昇させる。2-3ヶ月の間はこの方法でより骨細胞的な形態の細胞サンプルを採取し続けることができる。得られた細胞は、伸展刺激に応答してIGF-Iやオステオカルシンのメッセージレベルを上昇させることが確認された。
3.力学的負荷に対する骨反応に果たすiNOSの役割
海綿骨量は、非荷重後1週で、iNOS(+/+)、(+/-)、(-/-)マウスは同程度に有意に減少した。再荷重で、iNOS(+/+)は、正常荷重群レベルまで増加したのに対し、(-/-)は低下したままであった。骨形成率は、再荷重で、iNOS(+/+)は、正常荷重群レベルまで増加したのに対し、(-/-)は低下したままであった。非荷重後の再荷重時の骨量増加、骨形成率の増加、破骨細胞骨接触面の低下にiNOS由来のNOが必須であるか否かを確認するためにNOドナーとNO産生阻害薬を用いた。再荷重時に、iNOS(+/+)にNOS inhibitorであるaminoguanidineを投与すると、骨量と骨形成率は低下したままであった。一方、iNOS(-/-)にNO donorであるnitroglycerinを投与すると、骨量、骨形成率、破骨細胞骨接触面は、正常荷重群レベルになった。以上から、iNOS遺伝子由来のNOは、非荷重後の再荷重における骨反応に必須であることが明らかとなった。
シグナルシークエンストラップ法により、148クローン63種類を単離した。うち4種が新規遺伝子、144個59種が既知の遺伝子であった。既知遺伝子の内訳は、85遺伝子(57%)19種が分泌蛋白、34遺伝子(23%)18種が膜蛋白、6遺伝子(4%)4種が小胞体蛋白、1遺伝子がゴルジ体蛋白、12遺伝子(8%)11種が細胞質蛋白、1遺伝子が核蛋白、4遺伝子(3%)4種が局在不明な蛋白をそれぞれコードするもので、1遺伝子がPseudogeneであった。
既知遺伝子と相同性が認められない4クローン(OSYSST35, 46, 83, 108)のうち、ノーザンブロッティングにより発現が確認できたのは2クローン(OSYSST46, 83)であった。OSYSST46は約2.5kb, 5.0kbのmRNAが肝と腎で 、OSYSST83は約0.8kbのmRNAが肝で発現していることが確認された。この2クローンについては、EST検索とRT-PCRにより全長と考えられるそれぞれ2297bp, 733bpを決定した。OSYSST46は528アミノ酸の蛋白をコードすること、この蛋白はhypotetical proteinであるDKFZp564J102(human)、KIAA0974(human)とそれぞれ対応する領域において67%, 32%のホモロジーを持つことが確認され、ファミリーを形成していることが考えられたが、signal sequenceほか有意なモチーフは認められなかった。OCYSST83についてはORFが確認されなかった。また、この2クローンはいずれもRT-PCRにより、KUSA-A1(骨芽細胞)、MC3T3-E1(骨芽細胞)、C2C12(筋芽細胞)、ST2(ストローマ細胞)細胞株における発現がみられ、骨細胞に特異的な発現をするものではなかった。得られたクローンはかなりの比率(148クローン中32クローン:22%)でコラーゲン、オステオポンチン等の初期または中期骨芽細胞マーカーを含んでいることから、今回用いたラット骨細胞由来のSST-REX cDNA ライブラリーには骨芽細胞由来のものが混在している可能性が考えられた。
2.高純度で骨細胞を単離する方法の開発
今回新たに開発した方法で外生させた細胞を、順次骨細胞 I, II, III......と呼ぶが、数を増すにつれてアルカリフォスファターゼの発現レベルを低下させ、オステオカルシンの発現レベルを上昇させる。2-3ヶ月の間はこの方法でより骨細胞的な形態の細胞サンプルを採取し続けることができる。得られた細胞は、伸展刺激に応答してIGF-Iやオステオカルシンのメッセージレベルを上昇させることが確認された。
3.力学的負荷に対する骨反応に果たすiNOSの役割
海綿骨量は、非荷重後1週で、iNOS(+/+)、(+/-)、(-/-)マウスは同程度に有意に減少した。再荷重で、iNOS(+/+)は、正常荷重群レベルまで増加したのに対し、(-/-)は低下したままであった。骨形成率は、再荷重で、iNOS(+/+)は、正常荷重群レベルまで増加したのに対し、(-/-)は低下したままであった。非荷重後の再荷重時の骨量増加、骨形成率の増加、破骨細胞骨接触面の低下にiNOS由来のNOが必須であるか否かを確認するためにNOドナーとNO産生阻害薬を用いた。再荷重時に、iNOS(+/+)にNOS inhibitorであるaminoguanidineを投与すると、骨量と骨形成率は低下したままであった。一方、iNOS(-/-)にNO donorであるnitroglycerinを投与すると、骨量、骨形成率、破骨細胞骨接触面は、正常荷重群レベルになった。以上から、iNOS遺伝子由来のNOは、非荷重後の再荷重における骨反応に必須であることが明らかとなった。
結論
骨細胞のcDNAライブラリーにおいて、レトロウイルスを用いたシグナルシークエンストラップ法により、148クローン63種類の遺伝子(うち4種類が新規)を同定した。今後、機械的負荷への反応性がより高いと考えられる骨細胞のソースとして、ラットおよびマウスの長管骨から骨細胞を単離する方法を開発した。iNOSノックアウトマウスを用いて、荷重刺激に対する骨形成反応に骨芽細胞が発現するiNOSが産生するNOが必須の役割を果たすことを明らかにした。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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