「閉じこもり」高齢者のスクリーニング尺度の作成と介入プログラムの開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000245A
報告書区分
総括
研究課題名
「閉じこもり」高齢者のスクリーニング尺度の作成と介入プログラムの開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
安村 誠司(福島県立医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 竹内孝仁(日本医科大学)
  • 金川克子(石川県立看護大学)
  • 芳賀 博(東北文化学園大学)
  • 阿彦忠之(山形県村山保健所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
5,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
寝たきりの原因の一つとして竹内らが「閉じこもり症候群」を提唱してから、10年以上が経過した。藺牟田らが在宅高齢者を対象として1998年に「閉じこもり」に関する最初の実証研究を発表し、厚生省も2000年度から老人保健事業第4次計画で介護予防対策の一環として、「閉じこもり」や転倒予防に重点をおいた保健事業の実施を提言した。しかし、「閉じこもり」の概念は日本独自のものであり、統一した定義は未だない。
そこで、本研究では、「閉じこもり」、及びその類似した概念と考えられるhouseboundと homeboundに関する先行研究をデータベースをもとに収集し、それらで用いられている定義を参考に、「閉じこもり」のスクリーニング尺度を開発することである。
また、「閉じこもり」の高齢者あるいは障害者などを抽出できる尺度基準を確立するため、老人保健法の機能訓練事業の利用者を対象に外出状況と生活状況の調査を行う。さらに、利用者の特性を把握し、機能訓練事業の「閉じこもり」に対する効果を明らかにする。
さて、一人暮らし高齢者は、身体・精神的、生活状況から状態悪化のリスクが高い。多くの地域支援が特に必要な一人暮らしの後期高齢者に関する研究はほとんどない。そこで、一人暮らし後期高齢者の外出頻度、生活場所と身体・精神・社会的な特徴との関連を検討することを目的とした。
「閉じこもり」の捉え方は研究者ごとに異なっているので、「閉じこもり」の特徴を「非閉じこもり」と比較した後、「閉じこもり」を移動能力で分類し、それぞれの身体的・社会的特徴を導き出し、「閉じこもり」高齢者の実態を探索することを目的とした。
さらに、高齢者等への個別介入プログラムではなく、「閉じこもり」高齢者の少ない「地域づくり」に関する介入プログラムも重要と考えた。特に住民参加を重視し、住民との協働で介入プログラムの作成、実践、評価することによって、地域づくり型の介入プログラムの有効性を明らかにすることも目的とした。
研究方法
1967年~2001年2月の間に発表され、キーワードにhomeboundまたはhouseboundが含まれている文献をPubMedで検索した。国内については、1989年~2001年2月の間に発表され、キーワードに「閉じこもり」か外出を含む文献を医学中央雑誌により検索した。国内外の先行研究で「閉じこもり」に関する定義を検討した。
東京都(世田谷区・江戸川区)と川崎市(多摩区・砧・北沢)で実施されている老人保健法の機能訓練事業の利用者214名(男性122名・女性92名)を対象に、面接・聞き取り調査を行った。
石川県T町の在宅の一人暮らし高齢者117人に訪問面接調査を実施した。調査項目は、自立度、属性、身体的項目、精神・心理的項目、社会的項目、外出頻度と日中おもに過ごしている生活場所である。
宮城県三本木町に在住する自立の後期高齢者551名を対象として、質問紙による面接調査を行なった。質問項目は、性、年齢、家族構成、「閉じこもり」に関連する項目(外出の頻度、移動能力、日中過ごす場所)、身体的項目、 社会的項目、日常生活に関連する項目(町内会参加、庭いじりなどの軽い運動、規則的な散歩、規則的な運動、ボランティア参加、老人クラブ参加、運動やスポーツ、近所付き合いの8項目、具体的な外出先)である。
5.山形県村山保健所管内の寒河江市の協力を得た。①M地区(平成12年9月現在、230世帯、総人口971人)をモデル地区として選定した。②各町内会役員などの代表者や住民各層の参加による実行委員会を設置した。③高齢者の生活状況や「閉じこもり」の実態等を把握するための調査を実施した。調査内容は、身体的な健康状態、健康度自己評価、自立度、外出状況、地域活動への参加状況、転倒や失禁の有無などである。④学習会などを通じて、住民参加を基本とした目的設定型の計画手法により介入プログラムを作成した。
結果と考察
国内外の「閉じこもり」研究の動向としては、PubMedでキーワードにhomebound かhouseboundが入っている文献は486件であった。医学中央雑誌で「閉じこもり」をキーワードにもつ文献は全くなかった。Homebound やhousebound の定義を明確にしている研究は非常に少なかった。日本における「閉じこもり」研究は本格的に着手されてから3年に過ぎない。そのため、研究の蓄積が非常に乏しい。「閉じこもり」は外出の有無という行動面で捉えられているものが多かった。大規模集団を対象に研究を実施したGanguliらの尺度を参考に、家の中に閉じこもっている状態自体が問題と考え、理由の如何に関わらず、「週1度以上の外出をしない状態」を「閉じこもり」と定義し、スクリーニング尺度を作成した。今後、尺度の信頼性や妥当性を検討することが必要である。
機能訓練事業利用者では、75%の人が週に3回以上の外出していた。外出頻度は年齢や罹患年数、リハビリ教室参加年数、疾患や運動麻痺の分類、障害等級別とは関連していなかった。何らかの介護サービスを利用している者では、非利用者に比べて外出頻度は低かった。ADLの要介助者も自立者に比較して外出頻度は低かった。身体機能と生活能力が外出頻度低下の要因と言える。高齢者の心身要因のみならず環境要因にも着目すべきである。今後は、継続的な調査、非利用者を対照群として設定するなどの研究が必要であると思われた。人との交流の場があることは、外出頻度のみならず主観的な幸福感にも影響を及ぼす可能性があると思われた。
一人暮らし後期高齢者は約95%が週1回以上外出していた。これらの限定された対象では、「閉じこもり」を外出頻度で評価・把握するより、生活場所で把握した方が良いことが示唆された。一人暮らし後期高齢者は、生活場所別の比較では敷地外群の方が敷地内群よりも有意に身体機能が高く、抑うつ状態が低く、生きがいありが多く、独居年数が長かった。一人暮らし後期高齢者では、現状の生活維持が困難になりやすく、近隣との交流が減少しがちなため、定期的な安否確認のための訪問をより徹底していくなど、公的制度の導入が望まれる。
今回は、閉じこもりを「月に3回以下の外出頻度」に該当する者とすると、三本木町における「閉じこもり」の比率は21.3%であり、「閉じこもり」の比率が高い傾向にあったが、先行研究と比べ対象が高齢であること、定義がやや広めであったためと考えられた。「非閉じこもり」と比べて、健康自己評価、買物に対する自信、近隣との交流の変化に差が見られた。また、「閉じこもり」をさらに外出可能と外出不自由グループに分けて特徴をみたところ、外出可能グループでは近隣との付合いの頻度は高かった。外出可能でありながら6年以上も「閉じこもり」状態である人が約半数を占めていた。生活スタイルとしての「閉じこもり」もあることが推測された。
モデル地区でのプログラム作成の事前評価として高齢者の生活実態調査を行った結果、外出の少ない(閉じこもり傾向にある)高齢者は、気付かれていない場合も多いと推定された。介入プログラムは事前学習会や実行委員会によるプログラム作成検討会の開催を通じて作成した。介入プログラムの内容は、大目標として、(閉じこもりや寝たきりを予防し)元気で長生きする人の多い「はつらつ」とした地区をめざす、であった。大目標の達成に向けて8つの個別目標が設定され、それぞれに実践プログラムが提案された。プログラム評価のためには、事前調査として高齢者の生活実態だけでなく、対象地区における若い世代(現在の高齢者の子・孫の世代)を対象とした意識調査も必要と思われる。
結論
寝たきりの原因として近年特に注目されてきた「閉じこもり」に関して、国内外の研究動向を調べ、その定義などの比較を行なった。「閉じこもり」のスクリーニング尺度が必要と考え、作成を試みた。地域リハビリテーションサービスの一環として施行されている老人保健法の機能訓練事業は、「閉じこもり」の予防に関して意義ある活動であることが示された。一人暮らし後期高齢者は約95%が週1回以上外出しており、これらの限定された対象では、「閉じこもり」を外出頻度より生活場所で把握した方が良いことが示唆された。75歳以上の自立している地域高齢者では、「閉じこもり」の比率は21.3%であった。また、生活スタイルとしての「閉じこもり」もあることが推測された。さらに、高齢者が「閉じこもり」になりにくく、はつらつと社会参加できる「地域づくり」を目的として、今年度はモデル地区を設定し、プログラム評価のための事前調査、および住民参加手法による介入プログラムの作成を行った。

公開日・更新日

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