高齢者糖尿病を対象とした前向き大規模臨床介入研究 (総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000237A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者糖尿病を対象とした前向き大規模臨床介入研究 (総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
井藤 英喜(東京都多摩老人医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 大橋靖雄(東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学)
  • 吉川隆一(滋賀医科大学内科学第3講座)
  • 山田信博(筑波大学臨床医学系内代謝・内分泌内科)
  • 横野浩一(神戸大学医学部老年医学講座)
  • 梅垣宏行(名古屋大学医学部老年科)
  • 三浦久幸(国立中部病院・長寿医療センター内科)
  • 大庭建三(日本医科大学老人科)
  • 荒木厚(東京都老人医療センター内分泌科)
  • 阿古潤哉(東京大学大学院医学系研究科加齢医学講座)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
23,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本には690万人の糖尿病が存在し、その40%(260万人)は65歳以上と推定されている。平成9年度における糖尿病医療費は約1兆円に達したが、高齢者糖尿病に糖尿病性細小血管症のみならず動脈硬化性血管障害の発症率の高く、動脈硬化性血管障害の医療費は糖尿病医療費には含まれないことを考えると、高齢者糖尿病に対する医療費は莫大なものとなっていると推定される。しかし、高齢者糖尿病の治療に関し、どのような治療が、血管合併症の発症予防に有効であるのかを検討した大規模臨床介入試験は、世界的にみても全くない。また、高齢者糖尿病で問題となる認知機能、ADL、QOL低下などと治療との関係について検討を加えた大規模臨床介入研究もない。これらの事実は、現在の高齢者糖尿病の治療は、evidenceに基ずいて行われているわけではないことを意味する。そこで、高齢者糖尿病を対象とした大規模臨床介入研究を実施し、高齢者糖尿病に、どのような治療をどの程度に行えば、血管合併症、死亡、入院、認知機能、ADL,QOL低下を防止できるかを明らかにすることとした。
研究方法
65歳以上のHb A1C 7.0%以上の2型糖尿病患者を対象とする。対象を通常治療群と強化治療群の2群に分ける。群分けに際しては、2群の性、年齢、HbA1C値,高血圧、高脂血症、動脈硬化性血管障害の頻度が2群間で均等に分布するようにする。強化療法群においては、体重はBMI:25kg/m2、HbA1C:6.5%、血圧:130/85mmHg、血清総コレステロール:冠動脈疾患(-)例では200mg/dl、冠動脈疾患(+)例では180mg/dl、LDLコレステロール:冠動脈疾患(-)例120mg/dl、冠動脈疾患(+)例では100mg/dl、TG:150mg/dl以下、HDLコレステロール:40mg/dl以上を目標とした治療を行なう。一方、通常治療群では現行の治療を継続することとする。これら2群における追跡中の糖尿病性細小血管症、動脈硬化性血管障害の発症、進展の有無、死亡の有無およびADL, 認知機能、うつ状態、糖尿病負担度の推移を比較検討する。このような検討から、高齢者糖尿病において、血糖、血圧、脂質管理のいずれがよりおおきなメリットをもたらすか、さらにそれぞれの妥当な管理目標を明らかにする。尚、ADL、認知機能、うつ状態、糖尿病負担度の測定には、それぞれ老研式活動スケール、ミニメンタルテスト、老年者うつ病スケール(GDS)、糖尿病負担度スケールを用いる。これらのスケールの測定は、2年に1度行う。
介入試験には、倫理上の問題が生じるため、この研究の趣旨を説明し、文書での同意を得た上で、被験者として参加してもらうこととするが、同意の撤回は常に可能とする。また、1年毎に中間集計し、2群間の血管障害、死亡などに大きな差異が認められるなど1群に大きなデメリットが生じた場合は、研究を中止することとする。試験中止の決定は、本研究に参加していない第3者を主体にして構成されるモニタリング委員会が決定権をもつこととする。
結果と考察
研究結果=12年12月にプロトコール、調査表、質門表、群割りシステム、データベース収集および解析システムが完成し,13年3月より登録、介入を開始した。プロトコ―ルの作成に関しては倫理的な問題が生じないようなものにするため、この一年多くの議論を積み重ねた。調査表については、データ記入をシミュレーションし、記入に際して情報収集漏れがないように工夫したものを作成した。認知機能、ADL、心理的状態、糖尿病負担度などを問う質問表に関しては、大橋の分担研究報告書に示す如く50名規模の予備試験を実施し、再現性、信頼性をを検討し、それらの低値のものを削除し、質問表を完成した。当初用いる予定であった、Bradleyの糖尿病治療満足度は、再現性が悪いので本研究では用いないこととした。またQOL指標として用いる予定であったモラ―ルスケールはGDSと極めて相関性が高いので、GDSのみを用いることとした。本研究は、強化治療群と通常治療群の間で、糖尿病性細小血管症、動脈硬化性血管障害、ADL、死亡、入院の発生率、ADL、認知機能、うつ状態、糖尿病負担度の推移、医療費などに差異が生じるかを検討するものであるが、これらを明らかにするためには最終的に1,500-2,000例規模の症例を対象とする必要がある。そのため、班員に加え他に30施設の研究協力が得られる体制を整えた。また、各班員は共同研究に加え、高齢者糖尿病の運動療法(井藤)、血管障害の危険因子と(山田、横野、吉川)、内皮機能障害(大庭、阿古)、認知機能障害(梅垣、三浦、三浦)に関する分担研究を行った。
糖尿病に関する大規模臨床試験は、1型糖尿病を対象とした米国のDCCT研究(Diabetes Control and Complication Trial)、2型糖尿病を対象としたUKPDS研究(United Kingdom Prospective Diabetes Study)、熊本研究(Kumamoto Study)がある。しかし、高齢者糖尿病を対象とした大規模臨床介入試験の報告は皆無である。DCCT, Kumamoto Study が主要検討項目としたのは糖尿病性細小血管症、動脈硬化性血管障害発症と血糖管理との関係であった。また、UKPDSは、血糖管理に加えて血圧管理が動脈硬化性血管障害発症におよぼす影響につき検討している。しかし、これらいずれの研究においても、体重、血清脂質管理と血管障害発症・進展との関係についての検討はなされていない。
本研究班で企画し、開始した研究の特色は、以下の3点にある。1)世界で始めての高齢者2型糖尿病を対象とした大規模臨床介入試験である。2)血糖管理のみならず体重、血圧および血清脂質という生活習慣病の3要因を管理し、それぞれの管理の重要性を比較検討する。3)高齢者に特有な問題であり上記3研究では検討されたことのないADL, 認知機能、うつ状態、GDS、糖尿病負担度と糖尿病治療との関係を検討する。このような意味で、本研究は極めて独創性の高く、成果が期待される。
結論
高齢者2型糖尿病を対象とした大規模臨床介入試験を開始した。プロトコール、調査票、研究協力施設の確保、調査データの集積、解析のためのシステムずくりなどが初年度に行なわれた。症例登録も平成13年3月より開始され、順調に大規模臨床試験が開始された。また、分担研究も、各分担研究者により開始され、今後の成果が期待できる。

公開日・更新日

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