動脈硬化機構の解明と予防-EDHFの作用機序に関する研究-

文献情報

文献番号
200000236A
報告書区分
総括
研究課題名
動脈硬化機構の解明と予防-EDHFの作用機序に関する研究-
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
堀 正二(大阪大学)
研究分担者(所属機関)
  • 北風政史(大阪大学)
  • 葛谷恒彦(大阪大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
内皮由来過分極因子(EDHF)は未同定であるが、アラキドン酸からcytochrome P450 epoxygenase(EOX)により産生されるepoxyeicosatrienoicacid(EET)がEDHFの候補であると考えられている。ヒト血管内皮のEOXは未同定で、EETの血管弛緩以外の作用も不明であったが、最近、EETが核内転写因子NF-κBを不活性化することにより血管内皮活性化を抑制することが報告され、EET・EDHFは血管弛緩作用以外に、抗炎症作用を有することが明らかになった。そこで本研究では特に血液線溶活性に対するEOX・EETの作用を検討し、EOX・EET・EDHFの血管弛緩、血管内皮活性化抑制以外の新たな動脈硬化作用のメカニズムを明らかにすることを目的とした。
研究方法
EET の血液線溶系に対する作用を検討するために、1)ヒト血管内皮細胞における tissue Plasminogen activator (TPA), plasminogen activator inhibitor (PAI-I) 活性を ELISA 法にて測定し、EETの作用を検討した。2)TPA の上流域には cAMP 応答領域である CREが存在し、cAMP による TPA の遺伝子発現が報告されているので、EET による cAMP 産生、CRE-Luc プロモーター活性を測定した。3)血管平滑筋において、EETは G蛋白である Gsを活性化することが示唆されており、GTP binding assay と GTPase assay にて血管内皮細胞における EETの Gs蛋白の活性化を検討した。4)protein kinase A 阻害剤投与で、EET による CRE-Luc プロモーター活性増加が抑制するかどうかを検討し、EET, Gs 蛋白活性化、cAMP 増加、PKA 活性化、CRE 活性化という連関を検証した。
結果と考察
①EETはヒト血管内皮細胞においてtissue Plasminogen activator(t-PA)活性を増加させた。②t-PAの上流域にはcAMP応答領域であるCREが存在し、cAMPによるt-PAの遺伝子発現が報告されているが、EETはcAMP産生、CRE-Lucプロモーター活性を増加した。③GTP binding assayとGTPase assayにて血管内皮細胞においてEETはGs蛋白を活性化した。④protein kinase A阻害剤投与で、EETによるCRE-Lucプロモーター活性増加が抑制した。EETはplasminogen activator inhibitor-1(PAI-I)の活性は変化させなかったことからt-PA/PAI-Iのバランスを改善し、血液線溶系を改善することが考えられる。EETの産生酵素であるCYP2J2の遺伝子導入を血管内皮細胞へ行ってもt-PA活性が増加したことにより、CYP2J2が内因性に血液線溶系の活性化作用を有することが示唆された。CYP4Aから産生されるエイコサノイドである20-HETEにはt-PA活性化作用は認められなかったこと、11,12-EETにも同じ効果があったことより、P450エポキシゲナーゼ系に特有の作用であることが考えられる。健常人のEETの血中の生理的濃度は50nM~300nMであることと、EET(100nM)で血管内皮細胞でt-PAを産生することから、内因性のEETが血液線溶系を介して抗動脈硬化作用を有している可能性がある。
結論
EET、Gs蛋白活性化、cAMP増加、PKA活性化、CRE活性化という連関を証明した。以上より、EETによるt-PA活性化のメカニズムが明らかになった。EETの血液線溶系亢進作用は、将来的にEDHF・EETの抗動脈硬化治療薬の可能性を示唆するものである。

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