加齢による筋肉量減少(ザルコペニア)/脂肪量増加機序の解明と予防法に関する研究

文献情報

文献番号
200000235A
報告書区分
総括
研究課題名
加齢による筋肉量減少(ザルコペニア)/脂肪量増加機序の解明と予防法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
江崎 治(国立健康・栄養研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 門脇孝(東京大学医学部)
  • 田畑泉(鹿屋体育大学体育学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
老化に伴い、心筋梗塞、脳梗塞、脳出血による死亡率が増加する。これらの基礎となる病態が糖尿病、高脂血症、動脈硬化症等の栄養関連疾患である。これらの原因の1つに、筋肉量低下(ザルコペニア)による脂肪量の増大が考えられる。レジスタンストレーニング、有酸素運動はザルコペニアを予防する有力な方法である。運動は筋肉で、未知の重要な転写因子を活性化することにより、筋肉での代謝を亢進させていることが推定されている。この転写因子を同定することができれば、転写因子の発現量や活性を増加させることにより、筋肉での代謝の低下を防ぐことが可能となる。本研究では、筋肉での糖代謝の律速段階となっているGLUT4に注目し、運動によりGLUT4を増加する転写因子、及び運動量低下によりGLUT4を低下させる転写因子を同定する。一方、脂肪組織のUCP2やPPARγに注目し、ザルコペニアに伴う脂肪量の増加を防止する方法も考案する。
研究方法
GLUT4遺伝子の運動に反応するシスエレメントを明らかにするため、転写開始点より-7396、-3238、-2001、-1001、-701、-551、-442及び-423の8種類のGLUT4ミニジーントランスジェニックマウスと新しく作成した-582、-506のトランスジェニックマウスを用いて、運動効果を調べた。又、どのような運動がGLUT4を増加させることができるのか調べるため、3~4週齢のSD系の雄ラットに①高強度・短時間水泳トレーニングと②低強度・長時間水泳トレーニングを1週間行った場合の骨格筋(epitrochlearis)のGLUT4を測定し、コントロール群と比較した。
今までの研究から、UCP2を1.5~2倍程度過剰発現するマウスは、高脂肪食によるインスリン抵抗性や肥満の発症がワイルドタイプに比較し、抑制されることを示している。今年度はUCP2を高度(5~10倍)発現するマウスをCLA投与により作成し、その病態を調べた。
発生工学的手法を用いてPPARγ欠損マウスを作製し高脂肪食を負荷してその表現型を解析した。又、PPARγのアンタゴニストであるHX531の生理作用を調べた。
結果と考察
ミニジーンGLUT4の発現の組織特異性を検討した。-7396、-3238、-2001、-1001、-701、-551のトランスジェニックマウスでは、内因性と同様に、骨格筋・脂肪組織(白色・褐色)・心筋において発現が認められた。しかし、-506、-442、-423のトランスジェニックマウスでは、骨格筋・心筋においては発現が認められたが、褐色脂肪組織での発現が認められなかった。褐色脂肪組織特異的なエンハンサーが-551と-506の間に存在することがわかり、筋肉特異的なエレメントと分離された。運動(スイミング)により-7396、-3238、-2001、-1001、-701、-551のトランスジェニックマウスでは、内因性GLUT4mRNA、ミニジーンGLUT4mRNAの両方の増加が認められた。しかし、-442、-423のトランスジェニックマウスでは内因性GLUT4mRNA量は運動によって増加したが、ミニジーンGLUT4mRNA量は増加しなかった。現在、-506トランスジェニックマウスが運動により、どのように反応するか調べている。運動に反応するエレメントが-551と-442の間に存在することがわかり、転写因子を同定するためのシスエレメントをin vivoにおいて同定できることが明らかになった。高強度・短時間トレーニングおよび低強度・長時間トレーニング後のラットのepitrochlearisのGLUT4はそれぞれコントロール群に比べ83%および91%高かった。両トレーニング後のepitrochlearisの糖取りこみ速度は、コントロール群の値に比べて、それぞれ48%,75%高かった。すなわち、GLUT4量は運動期間が短くても、強度を強くすることにより増加できることを明らかにした。
CLAの摂取により、白色脂肪組織(WAT)重量の減少、褐色脂肪組織(BAT)の消失が認められた。WATおよびBATの減少はアポトーシスによるもであった。アポトーシスとの関与が示唆されているTNFα、UCP2のmRNA発現量はCLA添加群のWATおよびBATで5~10倍に増加していた。しかしCLA添加群では著しい肝臓肥大およびインスリン抵抗性も認められた。血中レプチンレベル、WATおよびBATのGLUT4 mRNAレベルも減少していた。以上の結果から、UCP2はin vivoにおいてもエネルギー消費亢進に寄与している可能性が強く示唆された。UCP2はヒトでの発現が認められていることから、UCP2を軽度増加させることはヒトの肥満・糖尿病・高脂血症発症の予防に有効であると考えられた。しかし高度のUCP2の発現はATP量を低下させ脂肪細胞のアポトーシスを生じることが示唆された。
高脂肪食負荷によってマウスは体重増加を呈するが、HS531投与により高脂肪食による体重増加がほぼ完全に抑制されることが明らかとなった。マウスを高脂肪食下で飼育すると高血糖と高インスリン血症を呈し糖尿病を発症する。これに対して本化合物を投与しておくと高脂肪食下でも血糖値やインスリン値はほぼ正常であった。PPARγのアンタゴニストを用いた研究から、倹約遺伝子であるPPARγの活性を中等度低下させることがインスリン抵抗性を改善し糖尿病の治療に結びつくことが明らかとなり、そのような薬剤としてPPARγあるいはRXRαのアンタゴニストが有望な治療薬として期待できることが示された。しかし、高度のPPARγ活性の低下は逆にインスリン抵抗性を増悪させる。このようにPPARγ活性とインスリン抵抗性との関係はU字型であることが初めて明らかになった。
結論
今年度は、発生工学的手法を用いて、高齢者のザルコペニア予防法の開発に関し、顕著な進歩が認められた。筋肉量、及び糖の取り込みの低下予防に関してGLUT4発現調節領域の分析、脂肪組織の減量方法に関してPPARγアンタゴニストの影響、脂肪組織、特異的なUCP2過剰発現マウスの作成など多くの進展があった。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-