老化に伴うアミロイド蛋白代謝変化の機構解析(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000224A
報告書区分
総括
研究課題名
老化に伴うアミロイド蛋白代謝変化の機構解析(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
駒野 宏人(国立療養所中部病院・長寿医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 西道隆臣(理化学研究所・脳科学総合研究センター)
  • 鈴木利治(東京大学大学院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
7,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
老化に伴い、50歳代からヒトの脳内にアミロイド蛋白(Ab)がほぼ指数関数的に急激に増加していることが明らかになっている。Abは細胞毒性があり、Abの増加は老化に伴う脳機能の低下の要因の一つであり、また、Abの異常蓄積は、アルツハイマー病の要因と考えられている。本研究は、老化に伴いある年齢を境に脳内に生じるAbの急激な増加に着目し、その増加機構を明らかにすることを目的している。そのために、初年度は、まず、Abの産生系分解系に関与する分子の同定を目的とした。
研究方法
(1)Ab産生に関与する因子の同定: AbのN末端とC末端は、APPが、それぞれ、b-セクレターゼとg-セクレターゼと呼ばれるプロテアーゼによって切断を受けて産生される。本年度は、g-セクレターゼ活性に必要な因子のcDNAを同定することを目標とした。方法として、スクリーニングを容易にするため、g-セクレターゼによる切断がおこると細胞がピューロマイシン耐性になるという独自の系を構築し、これを用いてg-セクレターゼ活性をあげAb産生を高めるcDNAのスクリーニングを行った。;(2) Abの分解酵素の同定: 脳内におけるAbの分解は、neprilysinあるいはその類似のペプチダーゼによっておこることが明らかにされているので、さらに詳細に、実際に生体内でAb分解に関与する酵素の実体を明らかにするため、neprilysin類似ペプチダーゼをDNA 上でのホモロジーを利用した遺伝子工学的手法により同定し、解析した。; (3)Ab産生に影響を与えるAPP結合蛋白の同定:酵母two hybrid法によるAPP結合蛋白の同定し、その中から、Ab産生系に影響を与えるAPP結合蛋白を同定する。
結果と考察
g-セクレターゼ活性を促進する遺伝子の同定
細胞4X106をcDNA libraryでトランスフェクトし、スクリーニングした結果、32クローンがピューロマイシン耐性となった。さらに、これら細胞の培地中に産生するAbをイムノブロット法により検出した結果、約半分の12クローンが、Abの産生をあげていることが明らかとなった。 次にベクターの部分の塩基配列をプライマーにして、細胞中にあるcDNA をPCR法で単離し、これを、Human kidney 293 cells (HK293 細胞)に再びトランスフェクトし、APPから産生されるAbに及ぼす影響を確認した。その結果、現在、4種類のcDNAについて、APPから産生されるAbを上昇することが明らかとなった。現在、これらcDNAの塩基配列の解析中であるが、このうちのひとつは、全く新規の蛋白をコードしていることが明らかとなった。
neprilysin類似ペプチダーゼの同定と解析 
分担研究者(西道)により、すでに、脳内におけるAbの分解は、neprilysinあるいはその類似のペプチダーゼによっておこることが明らかにされている。さらに詳細に、実際に生体内でAb分解に関与する酵素の実体を明らかにするため、平成12年度はneprilysin類似ペプチダーゼの遺伝子工学的手法による同定を行うことを目的とした。その結果、4種のneprilysin類似ペプチダーゼを同定した。さらに、それぞれの脳での存在量を解析した結果、neprilysin類似ペプチダーゼではなく、脳ではneprilysinが主要に存在することが明らかとなった。また、neprilysinの生理的役割を解析するため、neprilysinノックアウトマウスを作製した。
Ab産生に影響を与えるAPP結合蛋白の同定
分担研究者(鈴木)は、酵母two hybrid法によるAPP結合蛋白の同定を進めた。その結果、複数の新規APP結合蛋白が同定された。また、結合蛋白の一つX11Lと相互作用する分子として、転写因子NF-kBが同定され、X11Lは、NF-kBを介して、Ab産生をあげることが明らかとなった。
結論
g-セクレターゼ活性を高めることによってAb産生を促進するcDNAが同定できた。脳内でのAb分解酵素としては、neprilysinの関与が強く示唆された。また、Ab産生に影響を与えるAPP結合蛋白X11Lが同定できた。今後は、これらの作用機構と、老化における変動を解析する必要がある。

公開日・更新日

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