沖縄における社会環境と長寿に関する縦断的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000217A
報告書区分
総括
研究課題名
沖縄における社会環境と長寿に関する縦断的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
崎原 盛造(琉球大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 芳賀 博(東北文化学園大学医療福祉学部)
  • 鈴木隆雄(東京都老人総合研究所疫学部門)
  • 安村誠司(福島県立医科大学医学部)
  • 鈴木征男(ライフデザイン研究所研究開発部)
  • 秋坂真史(茨城大学教育学部)
  • 尾尻義彦(琉球大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
沖縄県農村における高齢者を対象に、医学的、社会学的および心理学的調査を実施し、とくに心理社会的視点から沖縄の長寿要因の解明を試みる。具体的には第1に、沖縄の社会環境、とくに社会関係、ライフスタイルおよび心理学的特性と長寿との関連を検討する。第2に、在宅高齢女性の骨密度と運動機能を測定し、骨量変化とその関連要因について検討する。第3に、百歳以上の長寿者のライフヒストリーを聴取し、超長寿者の長い人生を支えた力やエネルギーを把握し、集団調査では捉え難い固有の要因を明らかにする。第4に、大宜味村高齢者の12年追跡調査で判明した死亡者の死因構造を明らかにする。
研究方法
1)沖縄県今帰仁村の8地区(字)に居住する65歳以上の在宅高齢者全員1,211名(男性474名、女性737名)のうち、死亡、入院・入所および病弱等を除く1,064名(男性417名、女性647名)に、平成10年度の面接調査に参加した823名中、平成12年7月現在調査対象地区に住民登録されていない105名の追跡を含めた1,169名を調査対象とした。平成12年9月各地区公民館において面接調査を実施した結果、924名から有効回答が得られた(有効回答率79.0%)。調査項目は、ADL、健康度自己評価、社会的交流、ソーシャルサポート、GDS、生活満足度、ライフスタイル、精神的自立性等であった。本調査は琉球大学医学部医の倫理審査委員会の承認を得て、参加者から文書による同意を得て実施した。2)今帰仁村における65歳以上の在宅高齢者を対象に、12月村体育館において骨密度測定(DTXおよびUSD)と運動機能測定を実施した。3)今帰仁村に居住する百歳以上長寿者3名のライフヒストリーを聴取した。4)沖縄県大宜味村において1987年に実施した高齢者調査参加者中、昭和62年1月から平成11年12月までの期間に死亡した305名について総務庁の許可を得て人口動態調査死亡票を用いて死因構造の分析を行った。
結果と考察
1)社会学的研究の一環として社会関係(ソーシャルサポート)と健康度および生活満足度との関連について検討した結果、まず、本研究で作成した測定尺度(MOSS-E)改訂版は同一対象者について実施した1998年と2000年の2回の調査結果を比較しても、その因子構造および信頼性は非常に安定しており、沖縄の高齢者の社会関係を測定する尺度として適切な尺度であることが確認された。2年間の追跡では、37.1%にソーシャルサポートの低下がみられたが、62.9%は維持または増加していた。下位尺度(情緒、手段、提供)で最も低下がみられたのは提供サポート(33.5%)であり、最も低下が少なかったのは情緒的サポート(7.3%)であった。すなわち、情緒的サポートは加齢に伴う変化は少なく、他者へサポートを提供できなくなった者または少なくなった者が2年間でも3割に及ぶことが明かにされた。2年間のソーシャルサポートの変化が健康度や生活満足度にどの程度影響するのか偏相関分析を行った結果、ソーシャルサポート総得点の変化(低下)は精神的健康度や生活満足度の変化に有意な影響をあたえないが、下位尺度の提供サポートの低下は健康度自己評価に有意に関連することが示された。このことは、他者へサポート提供を維持できるほど健康度自己評価も高くなることを示しており、高齢期においてはサポートの受領よりも提供サポートの持つ意義が大きいことが示唆された。社会学的研究のもう一つの事項はライフスタイルであった。ライフスタイルを総合的(身体的、心理的、社会的領域)に把握し、健康度との関
連を検討した結果、身体的および心理的領域のライフスタイルの経年変化と健康度との関連は弱いが、社会的領域のライフスタイルの低下は、健康度の低下と有意な関連が示された。このことから、高齢期における健康の維持には、社会参加が重要であることが示唆された。3)心理学的研究では、精神的自立性が目的指向的自立性と責任指向的自立性の2因子で構成される尺度であることを明らかにした。パス解析の結果、精神的自立性は健康度や経済的余裕に次いで主観的幸福感へ影響することが示された。高齢期においてQOLを維持するためには身体的自立だけでは十分ではなく、精神的自立が重要であることが示唆された。4)骨密度に関する3年間(平成9-12年)の追跡調査をした結果、骨量変化は1年平均-2.0%で同一方法で行った秋田県農村女性と比較すると低下率は小さかった。DTX法で測定した前腕部の骨量は経年的に有意な低下を示したが、USD法で測定した踵骨骨密度は有意な経年変化はみられなかった。また、運動機能との関係では踵骨骨密度と有意な関連を示した要因は歩行速度および開眼片足立ちであったことから、歩行能力を維持することが転倒・骨折を防止する上で重要であることが示唆された。5)百歳女性3名は全員ADLは自立しており、若い頃から苦しい生活を経験し、働き者であったこと、競争意識は見られず緊張感も少なく、良好な家族関係や近隣関係の中で長い人生を生き抜いてきたことが示されたが、性格面では一様ではなかった。6)大宜味村高齢者の12年間追跡調査の結果、死亡構造に全国および沖縄全体の傾向と大きな違いはみられないが、年齢調整死亡率に大きな性差がみられた。年齢調整死亡率の第1位は男女とも悪性心疾患、第2位は男性では脳血管疾患、女性では心疾患、第3位は男性では心疾患、女性では肺炎であった。今後、1987年調査時のデータを基準とした多変量解析を行い、各死因のリスクファクターを明らかにすることが課題として残された。
結論
1)本研究で作成した社会関係測定尺度(MOSS-E)改訂版は因子構造および信頼性とも安定しており、実用的であることが確認された。加齢に伴うソーシャルサポートの変化は提供サポートで大きく、情緒的サポートは維持されていた。提供サポートの変化は加齢に伴う健康度自己評価に有意な関連を示した。2)社会的ライフスタイル得点の変化は、手段的自立、知的能動性および精神的健康度の変化と有意な関連を示したが、心理的および身体的ライフスタイルにおいては顕著な関連はみられなかった。高齢期における健康保持には、社会との関わりの重要性が示唆された。3)高齢女性の骨量(前腕部)の変化は1年平均-2.0%であり、骨量の維持増加に関連する要因は握力、定期的な運動の実践、魚介類、海藻類および大豆製品の摂取であった。また、踵骨骨密度は加齢に伴う有意な変化はみられず、踵骨骨密度と関連のあった要因は自由歩行速度であり、歩行能力の重要性が示唆された。4)在宅高齢者の精神的自立性は目的指向的自立性と責任指向的自立性の2因子で構成されることが確認され、主観的幸福感に重要な役割を有することが明らかになった。5)百歳女性のライフヒストリー調査の結果、百歳を生きた人々は若いころから苦しい生活を経験し、高齢に至るまで働き者であり、現在でも自立生活を維持していた。良好な夫婦関係および近隣関係を維持してきたが、性格は一様ではなかった。6)大宜味村高齢者に関する12年追跡調査の結果、年齢調整死亡率に大きな性差があり、男性の3156.6に対して女性は1496.6に過ぎなかった。以上の結果、沖縄の長寿要因には、沖縄の人々の性格特性と社会環境が重要な役割をはたしている可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-