高齢者虐待の発生予防及び援助方法に関する学際的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000216A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者虐待の発生予防及び援助方法に関する学際的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
多々良 紀夫(淑徳大学)
研究分担者(所属機関)
  • 染谷俶子(淑徳大学)
  • 田中荘司(東海大学)
  • 副田あけみ(東京都立大学)
  • 萩原清子(関東学院大学)
  • 安梅勅江(国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、日本における高齢者虐待の実態を把握すると共に、その家族、地域等の背景要因、世代間移転、発生のメカニズム、生活意識、社会制度等との関連性について解明し、リハビリテーション、看護、介護関連専門職の実践現場での活用を目的としている。本研究の最終年度である平成12年度における、田中研究班の目的は、高齢者虐待防止マニュアルの作成に向けて、介護支援専門等を対象にインタビューを実施し、今後の高齢者虐待研究の課題と展望を明らかにすることであった。安梅研究班は、一般住民の虐待リスクについて、自己決定の阻害に焦点を当て、その特性、関連要因および複合的な要因を明らかにすることによって、地域における虐待予防マニュアル策定への科学的な根拠を得ることを目的とした。最後に、多々良研究班は、これまでの研究をもとに高齢者介護の現場で活用できる『高齢者虐待早期発見・早期介入ガイド』を作成し、配布することを目的とした。
研究方法
本年度、田中研究班は介護支援専門員等を対象に、高齢者虐待だけでなく介護保険制度のもたらした利用者、家族、サービス提供者等に対するプラス・マイナスの影響についてのインタビューを行なった。インタビュー調査の内容は、①介護保険実施により、相談者や相談事業の内容で変化した点は何か、②その変化について考えられる理由はどのようなものか、③介護保険の実施により、関係諸機関・組織との関係で変化した点はどのようなものか、④その変化について考えられる理由はどのようなものか、⑤介護保険の実施で、援助実践上、大変になった点は何か、⑥介護保険の実施で、援助実践上、よくなったと思われる点はどのようなものか、⑦全体として虐待やネグレクトは発見・介入・予防しやすくなったと考えられるかどうか、⑧その他、というものであった。安梅研究班は、初年度から大都市近郊S村に在住する20歳以上の全住民を対象に虐待リスクと自己決定の阻害リスクとの関連の研究を行なってきたが、本年度は、自己決定阻害のリスク状況、自己決定阻害リスクの関連要因、自己決定阻害リスクの複合的な要因を明らかにするために、Mantel-Haenszel法、多重ロジスティック回帰分析のステップワイズ法を用いて分析を行なった。多々良研究班は、『高齢者虐待早期発見・早期介入ガイド』の作成を最終目標とし、海外及び国内の高齢者虐待防止マニュアルの検討、分析を行なった。さらに、介護現場で働く複数の専門職から、高齢者虐待に関する情報を「フォーカス・グループ」(小人数での討論)法を用いて収集した。これまでの研究と本年度得た情報をもとに上記のガイドを作成した。
結果と考察
田中研究班のインタビュー調査からは、以下のような明らかになった。まず、介護認定員として家庭訪問が増えることによって、高齢者虐待が発見しやすくなったということと、虐待の多くがネグレクトであるというこである。次に、高齢者の介護には、本人の意志よりも家族の言い分(「自己決定」や「自立支援」の意味を履き違えている家族の言い分や経済的負担の忌避)が影響を与えていることである。安梅研究班は、自己決定の阻害の状況は加齢に伴ない高くなり、75以上の男性では半数以上を占めることが明らかになった。自己決定の阻害の関連要因は年齢、介護負担感、世間体があげられた。複合的な関連要因をみると、世間体意識がどの項目にも選択され、家族が介護しないのは世間体が悪いとした圧迫感が、介護負担感につながっている可能性を明らかにした。多々良研究班が行
なった「フォーカス・グループ」からは、高齢者介護に携わる専門職の経験から、虐待のサイン、虐待を見抜くコツ、被虐待者・虐待者の特徴、日本における高齢者虐待の事例など多くの情報を得ることができた。また、先行の高齢者虐待防止マニュアルを分析することによって、同班が作成する『高齢者虐待早期発見・早期介入マニュアル』に盛り込むべき情報も得ることができた。
結論
3つの分担研究班の研究から言えることは、高齢者虐待防止策で大切なことは、まず「早期発見」を可能にし、それを専門職の「早期介入」そして「早期解決」へと繋げていくことである。そのためには、介護や看護現場の専門職の高齢者虐待に関する知識の向上、さらに専門職の介入スキルのアップも重要である。この点について、多々良研究班は『高齢者虐待早期発見・早期介入ガイド』を作成して全国各地の介護・看護専門職に配布する計画である。さらに、それらの専門職や福祉や介護専攻の大学生・専門学校生などを対象とした高齢者虐待に関する著書も執筆中である。

公開日・更新日

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