後期高齢期における家族・経済・保健行動のダイナミックス(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000215A
報告書区分
総括
研究課題名
後期高齢期における家族・経済・保健行動のダイナミックス(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
秋山 弘子(東京大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
後期高齢者はその絶対数とともに高齢者に占める割合の面でも増加することが予想されている。後期高齢者の中には、身体的自立度が低く、経済的にも家族からの援助が必要な人がいる一方で、身体的・経済的に自立し、社会貢献を積極的に行っている人も少なくないなど、後期高齢者層の内部では身体面、経済面、生活行動面において多様性や格差が存在している。さらに、それぞれの側面における多様性や格差は相互に関連しあっており、一つの側面における格差が他の側面における格差を生み出すなど、循環的な構造になっている可能性がある。本研究では、後期高齢者層における格差や多様性の実態と、それが引き起こされた要因を、経済的基盤、私的・公的な支援、健康・保健行動、社会貢献活動(プロダクティヴな活動)のダイナミックな関係を視野に納めて解明する。また、個人的要因に加え、地域の環境的要因にも着目することによって、地域のどのような特性が、後期高齢者の健康や活動に影響を与えるのかを解明する。これらの取り組みにより、後期高齢者のもつ多様な能力や資源を生かした施策への手がかりを提供することが可能になる。
研究方法
上記の課題を検討するため、本研究は、60歳以上の全国高齢者を対象に1987年より継承してきた長期縦断研究の追跡対象者に加え、新たに70歳以上の2,000人を対象にした全国調査を1999年に実施した。プロジェクト最終年度にあたる2000年度は、1)1999年に実施した全国調査と長期縦断研究データの解析、および、2)東京都内S区における地域調査を実施した。地域調査は、S区の65歳以上の住民を性と年齢階級で層化した上で各層から200人ずつ計2,000標本を同数系統抽出した。調査回収率は本人完了で75%、代行調査を含めると87%だった。分析に際しては、母集団の性・年齢階級別構成に合わせた重み付けをした。
結果と考察
全国調査のデータベースの解析により、後期高齢者の以下のような実態が明らかになった。1)前期高齢期との比較:後期高齢者の方が、①日常生活動作に障害をもつ割合が高い、②家族以外のネットワークが小さい、③収入が少なく、特に配偶者がいない女性の収入が低い、④前期高齢者の男性では就労者の方が高収入であるが、後期になると就労・非就労者の所得差は縮小していた。2)1987年と1999年の後期高齢者の比較:①疾患に罹患していない人は1999年の方が少なく、国民生活基礎調査の結果とも一致していた。②家族ネットワークについては、家族との同居率が減少し、③家族以外のネットワークについては、女性の方が親友数や接触頻度が多いという男女差が1999年では1987年より拡大していた。3)社会貢献活動:70歳以上を分析した結果、①有償労働やボランティア活動に従事していた人は2割程度であったが、家庭内の無償労働を加味すると8割の人が何らかの社会貢献活動を行っていた、②活動の種類によって性差や年齢差があったが、総合的にみると70歳代の女性が最も社会貢献活動の遂行時間が多かった。③有償労働は男性においてのみ、他人への支援提供は男女とも精神健康に有益であった。家庭内の無償労働は男女とも精神健康にマイナスの影響を及ぼしていた。地域調査データから、地域環境の影響に関して検討したところ、後期高齢者では対人関係志向性やコミュニティ感情という心理的要因のみが家族以外の社会的ネットワーク喪失に有意に影響しており、前期高齢者では、これらに加えて周辺の物理的環境(交通の便、休憩場所など)も関連していた。また、後期高齢者は前期高齢者よりも対人関係志向性やコミュニティ感情が低いことが前期高齢者より社会的ネットワーク喪失の割合が高い理由であった。
結論
後期高齢者は前期高齢者と比べて、
身体的資源だけでなく、心理的、社会的資源が少ないことが今回のデータから示された。しかし、後期高齢者像は一定ではなく、12年前と比べて変化した側面もあった。70歳以上の高齢者のうち2割程度は家庭外の社会貢献活動に従事しており、そのような家庭外の社会貢献活動は精神健康によい影響を与えていた。地域環境が高齢者に与える影響は前期と後期で異なる可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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