中高年齢者の職業からの引退過程と健康、経済との関連に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000214A
報告書区分
総括
研究課題名
中高年齢者の職業からの引退過程と健康、経済との関連に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
柴田 博(東京都老人総合研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
9,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、中高年齢者における引退過程と健康、経済との相互関連を解明することを目的としている。具体的な検討課題は、1)中高年齢者の就労継続・能力発揮を図るための社会的条件、2)引退過程とそれを規定する要因を、身体的、心理的、社会的要因との関連で多角的に検討すること、3)引退に伴う経済生活、社会生活、家庭生活、健康の変化を分析し、退職に対する社会適応を促す方策を検討すること、4)米国の同様のデータベースを活用し、引退過程と健康、経済との関連の日本的な特徴を明らかにすることにある。3年目にあたる平成12年度の目標は、上記の課題の解明のため、1)平成12年に実施した初回調査の解析および米国のデータベースを活用し、比較文化研究を行うこと、2)第1回追跡調査を実施することであった。
研究方法
1)3つのデータベースを活用し、分析を行った。(1)新規データベースの作成:平成11年に全国55~64歳の男女それぞれ4,000人と2,000人を対象に訪問面接調査を実施した。回収数は男女それぞれ2,533人(回収率63.3%)と1,440人(回収率72.0%)であった。(2)既存のデータベース:①60歳以上の全国高齢者のデータベースであり、1987年に初回調査が実施され、その後1996年まで3年間隔で3回の追跡調査が実施されている(東京都老人総合研究所、「高齢者の生活と健康に関する縦断的・比較文化的研究」)。③米国の60歳以上の高齢者に対する縦断調査のデータベースであり、初回調査が1986年、追跡調査が1989年に実施されている(American's Changing Lives)。2)縦断研究のためのデータベースの作成:平成11年に実施した全国調査の回答者に対して、平成13年に第1回追跡調査を実施した。
結果と考察
1)中高年者の就労環境の質:(1)60歳以上で就労している人の健康と生活習慣の特徴を非就労者と対比のなかで分析した結果、就労者の方が健康状態・生活習慣のいずれも良好であった。2)就労継続のための条件:(1)身体的な健康状態が悪い場合には、就業上の地位が変化するのではなく、職業から引退する傾向が強かった。(2)45歳以降の転職が困難であるか否かを決定する要因としては階層が重要であり、前職の企業規模が小規模、前職の業種が製造業、建設業、運輸・通信業である者では転職が困難である人の割合が高かった。(3)45歳以降の転職のパターンには階層差がみられた。(4)45歳以降に良好な転職ができるか否かには、自己啓発活動と入職の経路が関連していた。(5)60歳前半の就労状況を規定する要因を分析した結果、①60歳以降でも働きつづける意欲のある人の40%が短時間勤務や任意で行う仕事を希望していた。②50歳時点で専門職(機械や電気、建設、情報処理技術者などの技術職、医師や教師、福祉事業専門職など)の人が60歳前半でも有利な条件(たとえば正社員の比率が高い、10年以上の勤続年数の割合が高い、給料の増加の経験や平均給与も高い、雇用不安が低い、仕事に満足している割合が高い)という仕事を継続していた。3)退職後の生活の再構築:(1)職業からの引退の精神健康に与える効果を日米で男女別に比較した結果、日本の男性は米国の男性や女性と同じように、引退は精神健康に対して悪影響はほとんどなかった。(2)就労を含む社会貢献活動の実態とその意味を分析した結果、①社会貢献活動(就労、家事、社会奉仕活動)時間の総量は就労者よりも退職者で少なく、その格差は特に男性で大きかった。②フルタイムで就労していた女性では引退後の社会奉仕活動の時間は退職した男性と差はなかった。③社会奉仕活動は就労の有無に関係なく、男性で自尊感情の向上に貢献していた。(3)地域の社会組織への帰属の重要性を検討した結果、直接自尊感情を高めるととも
に、ネットワークの拡大を介して自尊感情を高めることに貢献していた。そしてその傾向は無職の男性で顕著であった。(4)中年期以降に直面する職業からの引退、配偶者との死別、健康低下といったイベントが社会的ネットワークに与える影響を評価する基礎作業としてネットワークの類型化を行ない、「全方位型」「大家族・バランス型」「親族・近隣中心型」「友人中心型」「職縁中心型」「家族限定型」「孤立型」の7つに分類した。(5)中年期における夫婦関係の破綻に関連する要因を分析した。破綻の評価指標としては離婚の有無と夫婦の満足度という2つを用いた。①離婚のリスクは男女に共通して階層が低いこと、子供が少ないこと、社会活動が不活発、健康状態が悪い場合に高かった。②配偶者満足度に関しては、男性では学歴や暮らし向きといった階層的な要因が、女性では家事や配偶者の学歴といった家族要因が有意に影響を与えていた。4)第1回追跡調査の実施: 平成13年2~3月にかけて追跡調査を実施した。現在回収率の算定、データのクリーニングを行っており、縦断調査のデータベースを作成中である。
結論
1)初回調査のデータを解析するなかで、高齢者就労の質、就労継続・転職のための条件、職業から引退した後の生活の再構築に関する知見を提供した。さらに2)縦断的な分析が可能なデータベースを作成中である。

公開日・更新日

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