福祉型交通システムの開発と運行システムの組織・経済の適正化に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000213A
報告書区分
総括
研究課題名
福祉型交通システムの開発と運行システムの組織・経済の適正化に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
秋山 哲男(東京都立大学大学院工学研究科・助教授)
研究分担者(所属機関)
  • 三星昭宏(近畿大学理工学部・教授)
  • 鎌田実(東京大学工学研究科・助教授)
  • 卯月盛夫(早稲田大学専門学校・教授)
  • 木村一裕(秋田大学資源工学部・助教授)
  • 藤井直人(神奈川県総合リハビリテーション病院研究部・主任研究員)
  • 山田稔(茨城大学工学部都市システム工学科・助教授)
  • 飯田克弘(大阪大学工学部・講師)
  • 坂口陸男(日本道路株式会社技術研究所・主任研究員)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
(1)私的交通:①都市施設の配置が高齢者の交通行動に及ぼす影響に関する研究:高齢者の充実した生活活動を支える環境について、都市施設整備の観点(施設の種類や密度,配置等)から実証的に分析する。②高齢者の自立移動支援のための車両開発の研究:バス等公共交通が未整備な地域の高齢者の生活支援のための移動具を開発する。
(2)公共交通:①利用者からみたコミュニティバスの評価:コミュニティバスの利用者の意識調査を行い、同バスの現状と課題を整理する。②鉄道利用のサインの見やすさ:JR東日本の採用している図記号(サイン)を対象として、視認性と認知について高齢者と若者がどの程度差があるかを明らかにする。
(3)医療と交通 ①ドイツにおけるNPOによる障害者移動交通サービスに関する研究:NPOのサービス内容と行政、民間サービスとの関係を明らかにする。②通院の実態調査:欧米では通院手段があるために入院期間がわが国の1/4程度である。この通院の送迎がわが国は全くデータがないのでまず実態を整理すること。
研究方法
(1)私的交通:①都市施設の配置が高齢者の交通行動に及ぼす影響に関する研究:複数の都市圏について、パーソントリップ調査データと、その都市の各種施設密度,施設配置の状況から、交通に要する時間、活動の質(交通目的)、ならびに多様性の相違を分析した。②高齢者の自立移動支援のための車両開発の研究:タウンモビリティの実験の成果の整理と、3年前に行った高齢者41名の3年後の変化の調査を行った。
(2)公共交通:①利用者からみたコミュニティバスの評価:愛知県長久手町のN-バスを事例とし、同町の交通状況、N-バスの利用実態を調べ、同バス利用者にアンケート調査を実施した。②鉄道利用のサインの見やすさ:高齢者と若者約20余名を対象とし、アンケート調査と実験室での視認性の実験を行った。
(3)医療と交通:①ドイツにおけるNPOによる障害者移動交通サービスに関する研究:ドイツの障害者移動交通サービス施策の実態を文献調査すると共に、代表的なNPOの運営実態を聞き取り調査した。②高齢者の通院調査:秋田県鷹巣町ホームヘルプサービスを利用している高齢者と病院の外来患者を対象に通院の実態調査を行った。
結果と考察
(1)私的交通:①都市施設の配置が高齢者の交通行動に及ぼす影響に関する研究:交通に要する時間が少ない構造を持った都市圏において,高齢者のアクティビティの多様性(頻度,より自由度の高い質の高い交通)が明らかになった。②高齢者の自立移動支援のための車両開発の研究(鎌田):タウンモビリティの70名の利用者から運転は問題なく、もう少し虚弱になってから利用したい意向があった。また高齢者の追跡調査では3年間の経過で24名の調査の結果から外出回数は依然と同程度で大きな変化はなかった、しかし反応時間が遅くなっている。
(2)公共交通:①利用者からみたコミュニティバスの評価:コミュニティバスの利用者の交通行動実態を愛知県長久手町のバスルートで比較研究を行った。その結果ルート別の交通実態調査と利用者の意識調査から、ルート別に利用形態が異なることが分かった。①鉄道利用のサインの見やすさ: 視認距離の比較は高齢者は、若者より平均5~7m程度視認距離が短い。明るさについては若者・高齢者ともに、250~500(lx)時に視認性は大きく向上する。認知に関しては若者・高齢者両者差があるものとそうでないものとがあることが分かった。
(3)医療と交通:①ドイツにおけるNPOによる障害者移動交通サービスに関する研究:ヒアリングにより高齢者の移動交通サービスは税金により賄われていること、また介護保険の対象として移動交通サービスは位置付けられてない。またNPOによるSTサービスは一般のタクシーに比べて2倍のコストが必要である。NPOの実慟スタッフは兵役を拒否した若者におう所が大きい事や協力度が高いことが分かった。さらに、実験の実施は参加者の増加に貢献することが分かった。②鷹巣町の通院調査:ホームヘルプサービスを受けている212名の高齢者を、通院サービスを受けている人39名の36%がリフト付きバス、13%がタクシーの利用であった。また病院の通院手段の調査結果は91人中介護なしで来た人70人(77%)の交通手段はバス29%、自動車同乗23%、タクシー4%であるが、介護ありの人は自動車同乗が40%、社協のリフトバス20%、タクシー20%と依存型の交通手段で通院していることが分かった。
結論
(1)私的交通:①都市施設の配置が高齢者の交通行動に及ぼす影響に関する研究:交通に時間を割かなくてもよい都市構造や施設配置が高齢者の生活の充実度を高めることが把握され、高齢者の利用を考慮した各種施設の配置や施設密度について、検討する必要のあることが明らかとなった。②高齢者の自立移動支援のための車両開発の研究:元気な高齢者にはマイカーは必需品で、電動三輪が代替する可能性は少ない。3年後の調査では外出が減少しないまでも、身体機能は衰えている(反応時間)ことが確認できた。
(2)公共交通:①利用者からみたコミュニティバスの評価:N-バスに対する利用実態は行政の想定している利用者と異なることが確認できた。②鉄道駅サインの見やすさ:サインの視認性は明るさ・サインの図柄に影響される。しかし高齢者は、明るさによる影響がない。サインの認知は、伝達したい内容や設置場所に影響されるが、そのなかでも認知度が低いものは図柄のデザインが抽象的なものである。特に高齢者に強い傾向がある。
(3)通院と交通:①ドイツにおけるNPOによる障害者移動交通サービスに関する研究:高齢者の移動サービスは、行政による既存交通、民間によるタクシー、NPOによるSTサービスによって構成されていることが確認できた。②通院と交通:要介護老人の通院は社協のヘルパーと家族の送迎によって支えられていることがわかった。また、介護なしの通院者の中には100メートルは歩けるが300メートルは歩けない人が多く存在していた。

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