超音波モータを用いたアクティブひざサポータの開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000207A
報告書区分
総括
研究課題名
超音波モータを用いたアクティブひざサポータの開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
遠山 茂樹(東京農工大学工学部)
研究分担者(所属機関)
  • 梅田倫弘(東京農工大学工学部)
  • 桑原利彦(東京農工大学工学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
10,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
試作したアクティブひざサポータが下肢筋力の補助を十分できているのか、人に装着してからの実験を行い、その評価とセンサからのデータより、さらに向上した補装具の開発を目指した。また、アクティブひざサポータの制御のために歩行パターンに沿った超音波モータの出力の予測をしなければならない。そこで人の歩行メカニズムを歩行原理を考慮したモデルを用いたシミュレーションを行うことで解明することを目的としている。さらに膝補装具に使用するアクチュエータは高トルクのものが必要とされるため、超音波モータのステータとロータに着目してさらなる高出力化を目的とする。
研究方法
アクティブひざサポータを試作し、それを装着して駆動させることを考えると膝関節と膝周辺の筋肉のしくみ、及びアクチュエータの小型化についての検討を行った。その結果、従来まではφ100のモータを使用していたが、φ80にすることで小型軽量な人にとって快適なものとなった。このアクティブひざサポータの評価実験を行うために、負荷センサを出力軸に取り付け、また膝関節角度を測定できる角度センサを取り付けた。実験はアクティブひざサポータのみで駆動したとき、椅子からの立ち上がりについて行った。また、実際に被験者を対象としてアクティブひざサポータの評価を行ってもらった。そして、その評価からさらに改善すべき点として力が足りないということから、超音波モータの積層化についての研究を行った。
人の歩行はZMP(Zero Moment Point)が支持足側に位置しているというZMP原理と、歩行によって消費されるエネルギーが最小となっているという消費エネルギー最小原理の2つによって成り立っている。これらの原理をみたすように重心軌跡を設定した二次元モデルを作成し、このモデルを機構解析用シミュレータによって解析を行うことでアクティブひざサポータにトルクの予測、制御に必要な信号パターンの予測を行う。次に超音波モータの高出力化を図るため、ステータの接着に関し、接着層における気泡を減らすなどで圧電素子の振動を効率よく伝達できるステータの製作を行い、共振周波数等によって評価をする。またロータ材では、ステータとロータの接触状態を計測し、硬度と弾性率から高出力を発揮できる新たなロータの開発を行う。
結果と考察
超音波モータを用いたアクティブひざサポータの試作を行い、膝に装着して椅子からの立ち上がり等の運動実験を行った結果、膝関節角度の稼動範囲は3次元動作解析によって得られた椅子からの立ち上がりに要求される角度0[deg]~110[deg]の範囲に入っており、十分な可動範囲を持っていることが確認された。また、膝関節角度センサによって人の動作パターンを判断することができ、人の姿勢によって出力軸に負荷するモーメントを検出することで出力軸に無理な力が加わるとモーメントとして検出することが可能である。これを応用することにより、膝関節への負荷がかかったときにその状態を回避するような安全機能を付加することができる。次に体感的な評価については初めてアクティブひざサポータを見た人を被験者として実験を行った。被験者に椅子からの立ち上がり動作についての実験を行った。立ち上がり始めの時には、あまり補助される力を感じられないという結果を得た。この評価から、超音波モータのトルクを増加するために積層化超音波超音波モータを開発した。この超音波モータでは、1組のサンドイッチ型超音波モータの速度特性が近いものを組み合わせることによって、積層した個数に比例してトルクの増加が可能となった。
人の歩行のシミュレーション結果より重心高さが高いほど関節回転量は少なく、また関節トルクの総和は低く抑えられることがわかる。人の運動は関節が回転することによっておこる。したがって関節回転角が少ないほどエネルギー消費も低くなる。また,同じ関節回転角であっても、運動するのに必要な関節トルクが小さいほどエネルギー消費も低くなることがわかった。
超音波モータの高出力化におけるステータの接着方法については接着層に気泡が入らないようにまた厚みを等しくすることで、超音波モータの共振周波数を等しくすることができた、共振鋭さを示すQ値に関してもほぼ等しくすることができ、従来使用していた超音波モータよりもはるかに良い値が安定して得られるようになった。一方、ロータに関してはポリカーボネイドとアクリルを材料としたロータを使用してステータとの接触面に関する挙動を計測し、この結果から高トルクを出力させる超音波モータのロータは、ロックウェル硬さはステータの振動を抑えない程度に小さくし、弾性率はロータの接触面の変形を抑えるように大きくする事が求められる。以上のことからロータにメッキ加工することで二つの特性をもったロータの開発をした。
結論
本研究では、超音波モータを組み込んだ膝補装具を試作し、膝補装具としての性能及び、さらに要求される内容についての評価と検討を行い、それに基づいて積層サンドイッチ型超音波モータを開発することでトルク不足について解消することができた。以下に得られた結果について述べる。実際に膝補装具を製作したことにより、大きさや重量などは更なる軽量化が望まれるものの、許容範囲であることがわかり、さらには実際の臨床に携わる人から高齢者にとって必要な補助がどういうものであるのか、などの貴重な意見を聞き,改良することができた。また、リハビリテーション機器への応用が考えられるなど、膝補装具の評価を行うといった本研究の目的は達成できたと言える。積層サンドイッチ型超音波モータについては、減速機を使用した場合のような、回転速度の減少や応答性の悪化なしに超音波モータの出力トルクを増加させることを目指し、製作した。このモータでは1つのサンドイッチ型超音波モータに対し、回転速度の近いものを選び出すことでサンドイッチ型超音波モータを重ねた分だけのトルク増加を達成した。
アクティブひざサポータの必要トルクの予測から制御するための歩行パターンの予測を可能とすることに関しては人の歩行メカニズムを歩行原理を考慮したモデルを用いたシミュレーションによって解析した結果次のようなことがいえる。実際に歩行計測を行い、得られたデータからZMP(動的安定点)の挙動を求め,ZMP則が実際の歩行においても満足されていることを確かめた。また支持足をモデル化し、各関節にエネルギー消費を考慮した重みをつけ、重心移動量と各関節の回転量との関係を求めることで、エネルギー最小則を確かめた。二次元モデルではZMP則とエネルギー最小則を満たすように重心の軌道を設定し、その軌道に沿って運動をさせ、歩行の一周期で初期状態と終了状態を等しくすることで安定した歩行を連続して行うことができた.以上によって、人らしい歩行には本研究における歩行原理が大きな役割を果たしていることが明らかになるとともに、歩行状態におけるアクティブひざサポータに必要なトルクの予測、制御に必要な信号パターンの予測が可能になった。
さらなる高出力化を目的としたステータの接着では接着層の異物や気泡の管理によって2枚のステータの共振周波数をほぼ一致させることができた。これにより、従来のステータに比べておよそ1.5倍のトルクを得る事ができた。以上の事から接着を行ったステータはアクティブひざサポータに使用されるサンドイッチ型超音波モータに有効であるといえる。
また、高いトルクを出力するにはステータの振動振幅をより大きく、ロータの振動振幅をより小さくする事が求められる。このためのロータ材にはロックウェル硬さがより小さく、弾性率がより大きいものがよい。そこで、ロータ表面にメッキ処理を施す事によってメッキ前のロータと比較して約2倍のトルクが得られ、ロータ表面のメッキ処理がトルクの向上に有効である事が確認された。

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研究報告書(紙媒体)