在宅健康計測システムの高度化(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000205A
報告書区分
総括
研究課題名
在宅健康計測システムの高度化(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
戸川 達男(東京医科歯科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 石島正之(東京女子医科大学)
  • 山越憲一(金沢大学)
  • 太田茂(川崎医療福祉学)
  • 川原田淳(広島県立保健福祉大学)
  • 上野照剛(東京大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
7,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢社会において、既に発症した疾病に対処するだけでなく、疾病を予防することは重要であると考えられる。本研究では、外見上健康な高齢者の日常の生活習慣や生理機能状態を日常の生活活動をみださずに計測し、蓄積されたデータを個人の健康管理に用い、また高齢者の健康情報のデータ-ベースの収集に利用できる機器・システムの開発を目的とする。本研究においては、高度技術を用いて在宅での心磁図や血圧の無自覚的な測定を行なうことや、高度な解析手法によりデータの有用性を高めることを試み、また一方で、これまでに開発された機器を実際の家庭へ導入して検証実験を行なう。具体的には、在宅で使用可能なモニタリング機器の開発、機器を統合する計測システム、収集したデータの解析方法の開発の3つの方向で研究を行なう。本年度はモニタリング機器の開発においては、携帯型加速度計を用いた健康状態モニタ、シャワー浴時の水流を介しての心電図図計測、便座を利用した血圧モニタの開発を行なうとともに、在宅での心磁図計測の可能性について検討した。システムに関しては、計測機器を設置可能な住宅設計に関する研究として、電灯線LANや特定小電力型無線機器等の利用を試み、新たなデータ圧縮手法を開発した。データ解析に関しては、長期にわたって記録された在宅行動モニタリングによって得られたデータの解析を試みた。
研究方法
携帯型加速度計を用いて健康状態のモニタリングの可能性について検討を行なった。健康状態の指標として、酸素摂取量と強い相関のある心拍数を用いた。今回、心拍数と酸素摂取量とがよく対応している被験者を選び、トレッドミルを用いて運動負荷を加え、2軸加速度計により腰部加速度を計測した。歩行・走行について、VO2Maxの30~60%、50~90% に相当する心拍数を30秒間持続させ、加速度計測値より運動強度の指標を求めるアルゴリズムの開発を試みた。シャワー浴時の心電モニタリングでは、シャワーのノズル内部と放出された温水のあたる箇所に電極を設置し、シャワー状温水の電気的特性を調べ、最適な導出法を検討した。その後、シャワー浴中の被検者から水流を介して心電図を採集した。便座を利用した血圧測定では、容積振動法を用い便座と接触する大腿部後面より血圧測定を試みた。本年度は、座り方から生じるアーティファクトに対処するため、脈波検出に電気的インピーダンス法と光センサの受光面積を大きくした反射形光電容積脈波法を用いた。大腿部計測部位と接触する便座に40mmφの開放口を設け、液体封入カフ上に加圧平板を固定し、座位による体重によりカフ内圧を増加させて局所圧迫した。容積脈波計測には4電極方式電気的インピーダンス法あるいは反射形光電容積脈波法を適用できるように便座部を作成した。心磁図計測では、ラットを用い、冠状動脈閉塞術を施し人工的に心筋梗塞モデルを作った。住宅設計に関する研究においては、電灯線LANを使用してシステムの統合化を行った。また、PDSS方式による特定小電力型無線機を利用したデータ伝送実験を行なった。データ圧縮・伸張における計算量が少なく、リアルタイム伝送可能なデータ圧縮技術を開発した。データ解析では、在宅行動モニタリングにより計測されたデータの定量的な解析を試みた。昨年度構築した行動モニタリングシステムに改良を施し、独居健常成人男子宅に設置し、データを収集した。行動由来のデータの定量解析の試みとして、平日の行動パターンと休日のパターンの弁別を試みた。収集されたデータを2値化1次元ベクトルとして定義した。ここで
、2ベクトル間の距離を、独自に開発した規則によって定義し、距離をD(A,B)とした。
結果と考察
携帯型加速度計を用いたモニタについては、指標に用いた両軸の正規化平均振幅のベクトル和と%VO2Maxで表される運動強度との間には強い相関が見られた。これより、2軸以上の加速度計を適切に用いれば、歩行走行を問わず運動強度が求められることが明らかになった。シャワー浴時の心電図計測については、シャワーノズルと床面電極間からシャワー浴中に水流を介して心電図を導出し、心拍の変化を計測できることを確認した。ただし筋電の重畳は大きく、フィルタで完全に除去出来ない場合があった。便座を利用した血圧測定については、大腿部後面からのインピーダンス脈波検出は可能で、容積脈波検出が主に深部の比較的太い貫通動脈のそれを反映していることが推測されたが、局所圧迫では当該血管への加圧力の伝播が不十分なため、脈波振幅変化パターンを良好かつ安定して観測できなかった。一方、受光面積を大きくした光電容積脈波法では比較的浅部の細い貫通動脈分岐枝の容積変化を捉えていると考えられるが、局所カフ圧変化に伴い安定した脈波振幅変化が得られた。中枢血圧との血圧値の差異は生理学的に不可避であるが、従来法による血圧計測との同時対比試験を行い、精度評価を試みることにより実用的なシステムの構築が可能と考えられた。心磁図計測については、左冠状動脈を結紮によるラットの心筋梗塞において結紮直後より心磁図には変化が見られ、異常心磁図の発生が結紮部位の周囲から発生することがわかった。同様の変化は心電図においても見られたが、変化の割合は小さく、異常部位の同定は心電図では難しく、心磁図計測の有用性が確認された。住宅設計に関する研究では、電灯線LANを使用してシステムの統合化を行い、更にデータ配信用サーバを立ち上げ、インターネット上で汎用ブラウザにより、所在や時間等の制限を受けることなく情報を得るシステムを開発した。また、データ圧縮・伸張における計算量が少なくリアルタイム伝送可能なデータ圧縮技術を開発し、圧縮率:50 %、パケットサイズ:250 byte、転送速度2 kbpsの条件で、225 kbyteの心電図のデータ伝送が可能であった。一方、PDSS方式による特定小電力型無線機を利用したデータ伝送実験の結果、2.4 kbpsの伝送速度では通信障害やデータ欠落も生じず、適切なデータ圧縮を行えば、十分に心電図等の連続波形データの送信も可能であると判断された。データ解析では、在宅で収集された各データにおける休日と平日のパターンの差異を目視によって評価した。結果、平日の玄関ドア開閉時刻には規則性を見出したが、休日については規則性を見出せなかった。この玄関ドアの開閉パターンの差が、全センサの出力を通じて、最も顕著であると考えられた。そこで、D(A,B)によって定義された距離を用いて、計測された82日間について、各1日と他の日のドア開閉データの距離を算出した。結果、その平均は9.78±8.5であった。そのうち平日と平日の間の距離の平均は6.53±5.8であり、平日と休日間の距離の平均は12.9±9.5であり、休日と休日の距離の平均は11.1±7.3であった。Mann-WhiteyのU 検定により、ノンパラメトリック検定を行った結果、平日同士のデータ間の距離は他の組み合わせの距離に比べて有意に(p<0.001)小さかった。以上より、平日の玄関の2データ間における距離は、平日と休日との距離や休日同士の2データの距離に比べ統計的に小さいこと,すなわち平日においては各データが似通っていると考えられた。これは、被験者の平日の玄関の利用状況は,休日よりも規則性があることを客観的に示すものと考えられた。また、被験者宅に設置された二酸化炭素センサ出力の周波数解析を行なった。結果、二酸化炭素センサ出力には1日に対応する周期、12時間に対応する周期、1週間に対応する周期が含まれることが認められた。
結論
携帯型加速度計を用いたモニタでは、歩行時および走行時において2軸以上の加速度計を用いて被験者の運動強度を求めるシステムを開発した。シャワー浴時の心電計測では、水流を介して被験者に意
識されずに心電図を収集することが可能であった。便座を利用した血圧測定では、光電容積脈波法を用いて、トイレでの無意識的な血圧計測が実現可能と考えられた。在宅での心磁図計測では、ラットの心筋梗塞モデルを用いて、心磁図、及び心電図を計測し梗塞前後の信号の変化を調べ、心筋梗塞の有無の検出には心磁図が有効であることを明らかにした。住宅設計に関す研究では、コスト面、屋内配線、設置スペース等を考慮した結果、住宅内に蓄積された生体情報を伝送する際に、電灯線LANや特定小電力型無線機器等の利用が有効であることを示し、これら伝送媒体に対する適切なデータ圧縮技術を提案し、その有効性について確認した。データ解析では、宅内における行動モニタリングで得られたデータを定量的に解析するために、ON-OFF信号を出力するセンサのデータ間距離を定義し、長期間の在宅における行動データを定量評価し、平日と休日の行動パターンに差があることなどを客観的に示すことができた。また、室内に設置された二酸化炭素センサ出力を周波数解析して、生活行動周期を定量的に見出すことができた。本年度の研究により、モニタ機器、モニタ機器を統合するシステム、データの解析手法の各分野において、一定の成果が得られたと考えられる。

公開日・更新日

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