健康管理支援のための高齢者健康情報システムの構築(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000204A
報告書区分
総括
研究課題名
健康管理支援のための高齢者健康情報システムの構築(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
稲田 紘(東京大学大学院工学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 小笠原康夫(川崎医科大学)
  • 武田 裕(大阪大学医学部)
  • 吉田勝美(聖マリアンナ医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
8,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
健康管理に基づき日常での高齢者の健康維持をはかることは、超高齢社会における高齢者のQOL(quality of life)を向上するのみならず、高齢者の自立を促し、かつ高騰する老人医療費の抑制のためにも重要である。この日常における健康管理のためには、在宅や施設の高齢者の健康把握に要する適切な健康情報を収集し、必要時に保健・医療・福祉機関や関係者への迅速な伝達と関係者間での共有をはかることが不可欠であるが、現在のところ、高齢者の日常時の健康管理に必要な健康情報を収集し、関係機関への伝送や関係者による共有を行うための適切な手段は乏しい。そこで本研究では、高齢者の健康管理を支援するため、各種のIT(情報通信技術)を応用して種々の健康情報を収集し、必要に応じて診断処理などの処理を行うとともに、関係機関への的確・迅速な伝送および関係者間での共有を可能とする幾つかのシステムを開発する。そして、試作システムの地域や施設における高齢者を対象とする試用と評価結果に基づき、実用化をはかろうとする。
研究方法
前年度に実施した各システムの開発に必要な基礎的検討や基本設計に基づき、システムの試作などを主とする次のような研究開発を進めた(かっこ内は分担研究者名)。
1.在宅高齢者の健康情報収集システムの構築(稲田):在宅高齢者の健康管理と病態把握に有用な健康情報の収集とかかりつけ医のいる医療機関などへの伝送の一環として、バイタルサインのうちの心電図と身体活動度について、胸痛など異常時に高齢者宅のみならず戸外においても収集し、PHSにより位置情報とともに伝送しうるシステムを構築するため、前年度の基礎的検討に基づき、携帯型心電計およびこれとPHSのインターフェイス機能を有する伝送コントローラの詳細設計と試作を実施した。また、医療機関で伝送された心電図データを受信するための心電図受信用サーバを開発した。さらに、システムテストにより性能評価を行うため、評価基準を設定し、開発したシステムの評価を試みた。
2.高齢者血管内皮機能評価システムの開発と健康管理への応用(小笠原):高齢者に多い動脈硬化起因の心血管疾患の初期病態である血管内皮機能障害の検知のため、血管内皮機能の指標としてNO放出を介する血流依存性血管拡張応答に注目し、その計測・評価・診断システムの開発のため、血管内皮の血流増加に即応するNO依存性血管拡張能を生理的条件下で評価する方法論の確立をめざした。本年度は基準データベース蓄積のため、摂食方法の異なる2つのグループについて摂食の影響を検討した。すなわち、第1グループは、全員に7日間同じ飲食物を摂取させ、第2グループは、単純な夕食から朝食までの間の14時間の絶食を2日間にわたって行って、それぞれ血漿中の硝酸イオン(NO3-)濃度を計測した。その後、生体内NO動態モデルにより、生体内総NO産生速度推算を試みた。
3.高齢者のヘルスケア情報提供システムの構築(武田):高齢者のヘルスケアに関する診療情報の交換、提供、二次利用などを支援するため、診療情報の電子保管とその共有化のための分散電子カルテアーキテクチャを構築しようとしている。本年度は診療所カルテを中心にその実証実験を行うべく、この電子カルテを開発し、実証ワーキンググループを設けて香川、松江・隠岐、加古川、舞鶴の4地区医師会の協力のもとに、開発した電子カルテの診療所モジュールを中心に実証実験を行い、アンケート調査による評価を実施した。
4.自覚所見とGPS による客観情報を用いた高齢者保健支援システムの開発(吉田):高齢者のQOL を確保するには、高齢者の健康異常の早期検出と適切な保健サービスの提供が望まれる。そこで本研究では、感情指向型対話システムの検討と、行動異常の早期検出のための位置情報の検討について取り組んでいる。本年度は、前者でWeb 高齢者健康診断システムを開発した。このシステムでは、発話文から感情価を求める情緒生起式の推論エンジンを構築するため、発話文データベースおよび好感度データベースを構築した。後者の位置情報の検討では、高齢者の行動変化を客観的な早期発見のため、GPS やPHS による行動分析を試みた。すなわち、屋外の高齢者の位置情報を継続的にオンライン計測し、GPS による移動ログを用いて、高齢者の行動目標の一つとして移動速度を検討した。
結果と考察
上述の各システムに関する本年度の研究について、得られた主な結果を記す。
1.在宅高齢者の健康情報収集システムの構築:本年度に実施した詳細設計に基づき、携帯型心電計と伝送コントローラを試作し、またこれらにより伝送された心電図データを受信するため、医療機関側に設置する心電図受信用サーバの開発を、Windows系のOS による市販のパソコンを用いて開発した。このサーバのデータの画面表示機能として、心電図波形以外に、不整脈判定画面、心拍数と加速度(身体活動度)の表示、患者個人の病歴デーの表示などを設けた。開発したシステムの性能評価のためのシステムテストの結果では、十分に使用可能なことが窺われたが、実用化に必要な検討すべき問題点も指摘された。
2.高齢者血管内皮機能評価システムの開発と健康管理への応用:摂食方法の異なる2つのグループの血漿中NO3-濃度を検討した結果、食事直後にこの濃度が数倍にも上昇する場合があり、食物中のNO3-の影響が大きいことが明らかとなったが、いずれのグループも朝食前(絶食14時間後)の血漿中NO3-濃度はほとんどバラツキがなく、定常レベルを示した。この絶食後の血中NO3-濃度からモデル解析により、生体内NO産生速度の評価が可能となり、NO生成変化が関わる循環器系病態の診断などに有効な手法と考えられた。
3.高齢者のヘルスケア情報提供システムの構築:前記の実証実験には4地区の医師会で計74の医療機関が参加し、各医師会の協力のもとに診療所モジュールを中心に実証実験を行い、各医師会ごとの詳細な分析結果が報告された。現時点での概括的な評価は、基本機能としては十分であるが、使いやすさを増すには、さらに個別的にカスタマイズを行う必要があり、とくにデータ入力用テンプレートの整備が実運用に重要なことが指摘された。
4.自覚所見とGPS による客観情報を用いた高齢者保健支援システムの開発:今回行った二つの検討のうち、後者のGPS による行動分析に関して述べると、GPS ログに基づく移動速度と自記式タイムテーブルの検討により、高齢者の移動速度が1~5km/hでは「歩行」、10km/h以上では「バス、自動車」での移動状態が推定できた。高齢者の最大移動速度の平均値は連続3日間で、より活動度が高かった者(13.4km/h)の方が、低かった者(1.0km/h)よりも大きかった。またPHSでは、高速移動中は記録不能なことが判明した。
以上の4つのシステムの開発に関する研究は、本年度は昨年度の基礎的検討をもとにいずれも進展が見られ、とくに1.と3.では試用による性能実験や実証実験を行うまでに至っている。その他の研究についても、本年度の研究結果は各システムの有用性を示唆するものといってよく、最終年度を迎える次年度において、実用的なシステムの構築をはかることのできる目処が立ったものと考えられた。
結論
高齢者の健康管理を支援するため、ITおよび関連諸技術の応用により、種々の健康情報を収集して、必要時に診断処理、関係機関への的確・迅速な伝送および関係者の情報共有を可能とする4つのシステムを開発しようとした。第2年度にあたる本年度は、いずれも昨年度の基礎的検討をもとに研究を実施した結果、それぞれに進展が見られ、一部は実用性が論じられるまでに進み、次年度における実用的システムの完成が期待された。

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