高齢者の日常活動モニタリング機器の開発

文献情報

文献番号
200000203A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の日常活動モニタリング機器の開発
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
田村 俊世(国立療養所中部病院長寿医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 牧川方昭(立命館大理工学部)
  • 東 祐二(藤元早鈴病院リハビリテーションセンタ)
  • 田中志信(金沢大工学部)
  • 清水孝一(北海道大大学院工学研究科)
  • 高橋龍尚(山形大学工学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者の健康の維持、疾病の予防、QOLの向上のために行動や運動中の循環、代謝ならびに身体活動量を測定することが重要となっている。測定に使用する機器は、身体に違和感なく装着でき、測定のための特別な操作を必要とせずに、できるだけ少ない拘束で自動的に生体情報が収集されることが望まれる。本研究では、この点を重視し、日常生活で測定されることを意識しないで長期間にわたってデータ収集が行われるような装置を開発することを目標とする。装置は、生理量や運動量を測定する各種センサと半導体データロガーから構成される。これらシステムでは、測定データをデータロガーに保存し、装置そのものあるいはデータカードを一定期間ごとに病院や医療従事者に転送あるいは持参してデータ解析する必要がある。さらにもう1つの方法としてリアルタイムにデータを伝送する方式も検討していく。本年度は、加速度測定による歩行形態の測定から病態の識別ならびに転倒の予測(田村)、関節運動測定による日常生活動作の推定(牧川)、リハビリテーション訓練効果の定量化(東)、連続血圧測定、心拍出量による循環動態の評価(田中)、心電図波形によるストレスの評価(高橋)を試みた。またPHS端末を利用したリアルタイムセンシング(清水)の可能性についても検討した。
研究方法
1.腰部加速度測定による歩行形態の測定から病態の識別ならびに転倒の予測(田村):歩行形態の識別のために3軸加速度センサを被験者の重心周りに近い腰部に装着し、高齢者の平地歩行時の加速度波形を連続的に記録した。その波形に離散ウェーブレット変換を用いたフラクタル解析法を適用し、健常高齢者、パーキンソン患者、片麻痺患者を対象に、連続する加速度信号から病態、片麻痺の度合いの分類を試みた。
2.加速度センサによる関節運動測定(牧川):日常の生活動作をモニタするために加速度センサを関節近傍に装着し、上肢、下肢、体幹などの全身運動を測定し、その出力信号差から関節角度の変化をモニターする方法を検討した。
3.加速度測定によるリハビリテーション訓練効果のモニタリング(東):脳卒中の早期リハビリテーションにおいて、寝返り、起き上がり、膝立ち、立位、歩行などの基本的でかつ反復される動作群の早期獲得は患者のADL向上のために重要である。本研究では、無拘束加速度測定法を用い、これらの動作を獲得する訓練システムの構築を試みた。
4.循環動態モニタリングシステムの開発(田中):平成9~10年度実施のプロジェクトにより開発した「一心拍毎の血圧を無侵襲・無拘束的に計測・記録する携帯型装置」をさらに発展・改良し、血圧と共に心拍出量を一心拍毎に無拘束的に同時計測する携帯型装置を開発し、健常若年者と高齢者対象にフィールド実験を行った。
5.生体ストレス反応、評価(高橋):日常生活中にみられる心拍数で生体ストレス反応、循環器系適応能、機能不全などを評価するために心拍変動の周波数解析を用いたVisual display terminal (VDT)作業時のストレス反応とその評価法について検討した。
6.バイタルサイン伝送方式の設計(清水)独居老人や在宅患者のバイタルサインを日常生活に支障なくモニタリングすることをめざし、バイオテレメトリシステム各部の設計・試作を行った。指輪型センサによる光電脈波計測、およびPHS端末による広域生体情報伝送などにつき、それぞれの基本特性を計測し解析した。
結果と考察
1.加速度波形による病態の識別に関して、腰背部加速度信号のウェーブレット-フラクタル解析は、片麻痺患者やパーキンソン病患者の歩行障害を客観的に評価することが可能であると示唆された。すなわち、Br. stage IIIの片麻痺群は、Br.stage IVやBr.stage V&VIの片麻痺群と比較し有意に高いフラクタル次元を示した(P<0.01)。同様にパーキンソン患者のフラクタル次元も有意に高い値を示した(P<0.01)。
2.本年度は下肢運動に着目し、歩行、椅子の立ち座りなど、日常生活における股関節、膝関節、足関節運動のモニタリング方法を検討した。その結果、日常生活における下肢運動がモニタできることが明らかになったほか、股関節の運動データから被検者の歩行速度が推定しうることが示唆された。
3.3軸加速度センサを利用することによって、トランスファー動作の遂行状況を視覚的に確認でき、運動の変化を定量的に評価することが可能であった。セラピスト1名での計測が可能であったことから、臨床の訓練場面に応用し、リアルタイム評価が可能であることが示唆された。
4.循環機能をより詳細に評価・解析するための装置として、従来の瞬時血圧と共に心拍出量をも一心拍毎に同時測定するプロトタイプシステムの具現化に成功し、その試用性能評価実験を開始することができた。健常成人を対象としたフィールド試用により日常生活下の様々な行動に伴う循環諸量の応答が詳細に記録可能であること、さらに得られた時系列データを解析することにより自律神経系を介した循環調節機能評価が可能であることが確認された。
5.VDTの代表であるパソコンを用いたタイピングタスクは、交感神経活動の指標である心拍変動の低周波数成分を増加させ迷走神経活動の指標である高周波数成分を減少させた。
6.指輪型センサによる光電脈波計測、およびPHS端末による広域生体情報伝送などにつき、それぞれの基本特性を計測し解析した。その結果、これらの手法の有効な利用法、ならびに実用上の問題点が明らかとなった。問題点の検討をとおし、それらの解決法を考案した。
以上のことから考察すると加速度測定による歩行評価では、健常高齢者片麻痺患者、パーキンソン患者を対象として重心まわりの加速度波形から算出したフラクタル次元により病態を識別できた。このことはフラクタル次元の評価より加齢による機能低下を知ることができる可能性を示唆している。次に、高齢者に多い転倒を加速度波形を測定することによって予測できることが示唆された。加速度センサ関節近傍装着方式により、股関節の関節角度を計測し移動距離及び歩行速度の計測が可能であると考えられた。また補正を行なうための比例定数においては、大股、普通、小股の3種類の歩き方を比較しても著しい変化は見られなかった。高齢者独特のすり足歩行も計測可能であった。加速度センサのリハビリテーション訓練効果の定量的評価への応用は、在宅でのリハビリテーションを行う上で重要な役割を果たすことが期待される。従来リハビリテーション訓練効果は理学療法士の主観に頼るところがおおきく、客観的、機械力学的評価は床反力計や画像処理によるところが大きかった。加速度を用いることは床反力計から得られるデータと同等のデータを得ることができ、かつ測定対象者を拘束しない利点がある。訓練のために表示システムを工夫し、画面でリアルタイムで加速度波形を表示し訓練の修正を行えるようにする。今後、日常的な動作トレーニング場面に応用し、セラピストや本人、家族の訓練支援が可能なフィードバックトレーナーの構築に向けた検討を加える必要がある。循環動態の評価として血圧、心拍出量の同時測定を行った。高齢者の受容体反射反射感度については血圧変化に対する心拍応答が鋭敏でないという結果を反映して、起立に伴う血圧変動に対する圧受容体を介した迷走神経系の調節機能が著しく低下していた。加齢とともに動脈硬化が進行し、その結果として伸展受容器である圧受容体の感度が低下するという従来の知見と一致するものであった。このような結果は従来臨床的に行われている受動的な「チルティング負荷」による起立性低血圧の検査では得られないものであり、今後本システムによる「日常生活下」における高齢者の循環機能測定の必要性・重要性が再確認された。VDTの代表であるパソコンを用いたタイピングタスクは、交感神経活動の指標である心拍変動の低周波数成分を増加させ迷走神経活動の指標である高周波数成分を減少させた。血行力学的情報(心拍出量や血圧などの平均値)には生理的反応は認められなかったが、心拍変動の周波数解析はVDT作業時のストレス反応の評価に有用であることが示された。最後に、実用的なバイタルサインモニタリングを実現するセンサ/テレメータ部および屋内外共通テレメトリ用通信システムを設計試作した。今後は、システム各部を結合し全体としてのシステム化を図ること、また試作システムを用いて実験的検討を継続していく予定である。
結論
本年度は本研究プロジェクトの2年度目であるため、機器の試作とそれを用いた評価が主であった。本年度での研究から、加速度測定による歩行、身体活動度、生活動作を含めた行動や運動の評価、血圧、心電図による循環動態の評価、ストレス評価が可能であることが示された。リハビリテーション評価を含めた新しいモニターシステムの可能性も示唆された。また、バイタルサインモニターでは新しい信号伝送方式を設計試作した。

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