移動・移乗支援システム(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000202A
報告書区分
総括
研究課題名
移動・移乗支援システム(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
土肥 健純(東京大学大学院工学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 鷹野 昭士(東京都リハ病院・リハビリテーション科)
  • 数藤 康雄(国立身体障害者リハセンター・リハ工学)
  • 田中 理(横浜市総合リハセンター企画室室・リハ工学長)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者の自立意欲が強いにもかかわらず要介護となっている日常生活活動として「移動・移乗」「排泄」「入浴」が挙げられる。中でも移動や移乗は他の日常生活動作の基礎であり,その自立は,介護負担が極めて大きくかつ基本的な日常生活動作である排泄や入浴の問題解決につながる。また,屋外のあらゆる環境に対応できる移動支援機器は現在存在しないが,工学的支援により多くの高齢者に外出の機会を増やすことができれば,社会参加の機会も増え,彼らのQOL(生活の質)の大きな向上が期待される。
申請者らの研究組織は,従来より日常生活における重要課題である移動・移乗について,高齢者の自立支援を目指した機器開発を実施してきた。本研究ではこれまでの研究成果を基礎にさらに実用的でかつ高機能な自立支援機器の開発を移動・移乗支援の立場から行おうとするものである。具体的には移動支援アームの高機能化と,本アームを基礎とした日常生活用品搬送システムとコミュニケーション機能などの各種マンマシンインターフェースの開発・通常の電動車椅子への応用も可能な階段昇降機構の開発・身体的能力の低下のみならず,知的能力の低下を伴う高齢者への移動支援システム応用を想定した場合の危険回避等の知的判断力の補助手法の開発・社会参加機会の確保を拡大する携帯用移乗介助用具の開発という研究テーマを通して,より高齢者にやさしい移動・移乗支援システムを開発することを目的とする。本研究の成果により,高齢者の自立生活を促進するとともに介護者の負担を軽減し,両者のQOLの向上に大きく貢献することが期待される。
研究方法
本年度は、昨年度までに開発した、実用化を目指したシステムを踏まえ,引き続き各テーマについて以下のような研究を行う。(1)日常生活用品搬送システムと介助者インターフェースとしてのコミュニケーションシステムの開発(土肥):昨年度試作した天井走行用ロボットアームの介護者による遠隔モニタ媒体として、テレビ電話システムの応用について基礎的研究を行う。具体的には携帯情報端末(PDA)を用いたインターフェイスを試作し、評価する。(2)動車椅子に装着するモジュール型段差昇降機構 (鷹野):本年度は、昨年度設計した電動車椅子へ装着可能なモジュール型段差昇降機構の内、前輪用段差昇降機構に超音波センサによる制御機構を取り入れ、簡便なスイッチ操作により半自動制御による前輪の段差昇降機構を製作し、動作確認をする。(3)操作能力を補助する自立移動支援装置の開発(数藤):電動車いすの操作が不安定であったり、判断力が低下した高齢者・障害者を対象として、障害物などを回避する装置の開発を行う。本装置は市販の電動車いすに容易に取り付けられるよう、電動車いすの操作系と制御系の間に挿入するものとする。昨年度までに基本仕様およびセンサの検討を行っており、本年度はシステムとしての構築し、電動車いすに組み込み基本性能の評価を行う。(4)携帯型移乗介助用具の開発(田中):昨年度製作した1次試作機を基に、軽量化・コンパクト化による携帯性の向上、体重の軽い介護者でも操作しやすくするための操作力の軽減、操作時に被介護者が滑り落ちないようにするための支持性の高いサドルの検討を行い、2次試作機を製作し評価する。
倫理面への配慮本研究では,現場からの直接的なニーズに基づいて,移動や移乗に関して必要となる福祉機器の開発を行っており,常に使用者の意見を考慮しながら研究を進めている。また評価の際にも事前の必ず被験者に詳細な説明を実施し,本人が十分理解した上での承諾を得てから行っている。
結果と考察
C.研究結果
(1)移動介助用ロボットアームおよびそのマン・マシンインタフェースの開発(土肥)
ロボットアームのマン・マシンインタフェースとして、PDAを利用して,高齢者の特性に配慮し,一つのインタフェースで複数の機器をコントロールできる「PDAマルチリモコンシステム」を開発し、テレビのチャンネル変更とビデオデッキの録画予約を操作対象にしたシステムの評価実験を行った。その結果、同システムは高齢者にとってユーザビリティの高いことを確認した。
(2)通常の電動車椅子への装着可能なモジュール型階段昇降機構の開発(鷹野)
新型段差昇降機構の一つである、電動車椅子の前輪の自動制御による段差昇降機構には、超音波距離センサー、傾斜角センサーおよびフォトマイクロセンサーを使用した。各センサーは、バッテリー下、フットレスト支柱、アームの根元と座面のフレームなどに取り付け、センサーの能力が発揮できるようにした。センサーからの信号は、実験ボードに送られ処理された。動作確認の結果、段差昇降ができる距離まで段に近づくとランプが点灯し、乗車者のスイッチ操作で段の上り降りが可能であった。
(未)(3)移乗・移動自立支援装置の開発、操作能力を補助する自立移動支援装置の開発(数藤)
操作能力を補助する自立移動支援装置として、電動車いすの衝突回避装置に着目した。平成11年度は、コンセプトの検討を行うとともに、センサの選定に主眼をおき、減速制御用と停止制御用の2種類のセンサを選定した。平成12年度は操作者の行動を考慮に入れた衝突回避のアルゴリズムの検討を行うとともに、超音波センサを含めた衝突回避システムの制作を行った。さらに電動車椅子本体とのインターフェイスの検討を行い、電動車椅子への組み込みを行った。
(4)高齢者用超軽量携帯用手押し車椅子の開発(田中)
1次試作機を基に、本体操作性の改善、サドルの支持性の向上について改良を行い2次試作機を製作した。本体操作性に関しては、ロック解除ペダルと支柱操作ペダルの位置を接近させることにより、支柱を立てた状態に維持するロック機構の操作性と本体の強度が改善された。サドルに関しては、樹脂の芯材とクッション材を用いて、被介護者の身体形状に合う柔軟性のある立体的な構造とすることで支持性を高めた。
D.考察
本研究では重度の高齢障害者から軽い不自由を抱える高齢者までの、屋内から屋外までの移動を対象としており、高齢者の移乗・移動支援機器開発としては広い対象をカバーしているため実用性の高い研究成果が得られると考えられる.個々のテーマについての考察は、各分担研究報告書にて詳述する.
結論
高齢者の日常生活における移乗・移動支援機器の開発として、(1) 移動介助ロボットアームの高機能化及び,本アームを基礎とした日常生活用品搬送システムと介助者インターフェースとしてのコミュニケーションシステムの開発、(2) 通常の電動車いすへの装着が可能なモジュール型階段昇降機構の開発、(3) 操作能力を補助する自立移動支援装置の開発、(4) 携帯型移乗介助用具の開発、について具体的なニーズに基づき、実用化に向けた設計および試作評価を行った.各々について実現された性能と、実用化のための課題点が明確になった.

公開日・更新日

公開日
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更新日
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