起立訓練リハビリテーション機能を有する高機能立位個別型入浴システムの開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000197A
報告書区分
総括
研究課題名
起立訓練リハビリテーション機能を有する高機能立位個別型入浴システムの開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
千田 彰一(香川医科大学医学部附属病院総合診療部)
研究分担者(所属機関)
  • 藤元登四郎(八日会藤元病院)
  • 松尾汎(松尾循環器科クリニック)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
8,805,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者の著しい増加と同時に若年者の急速な減少が、近年のわが国の顕著な特徴であるが、この急速な高齢化・重症化で寝たきり老人がいずれの施設でも急激に増加しつつある。高齢者に多い運動麻痺を伴う重度中枢神経障害者、および心筋梗塞後の重度循環障害者などの早期リハビリテーションは機能回復のために重要である。入浴は患者のQOLの向上にも有用であるものの、一方入浴それ自身が循環器系に負担になる場合もある。また、欧米で主流のシャワー浴と違って、わが国では全身入湯を好むものが多い。それが患者のQOLの確保に必須であると理解しつつも、入浴の介護・看護が単純労働的で肉体的疲労を伴うことから、腰痛などに悩む介護・看護従事者も少なくない。
本研究の目的は、立位個別型入浴槽にリハビリテーション機能、皮膚循環改善機能などの高機能化を図り、患者のQOLの向上と同時に介護・看護者の省力化を実現できる入浴システムを開発することである。すなわち、本研究班で平成6年~10年度にわたって長寿科学総合研究介護支援機器分野で開発した立位個別型入浴槽をベースにして、さらなる高機能化を図って臨床応用を試みる。前述対象者が寝たままの姿勢で入槽できる本システムを、入浴のみならず起立訓練用リハビリテーション機器としても用いる。その間、高齢者に多く見られる循環器疾患を有する入浴者でも、入湯中に心電図電極を貼付しなくても無拘束で心電図モニタリングが行えるので、入浴中の安全を確認できる。さらに我が国で開発された人工肺膜を用いた高炭酸泉浴を行って末梢血流の改善をも実現する。この高炭酸泉浴では飽和限界上限の高炭酸濃度が容易に得られるので、褥瘡や皮膚潰瘍への治療効果がある。次いで、入浴者個人の情報(湯温、起立訓練時水位、立位角度、入湯時間など)をICカードに書き込んで制御する省力型高機能入浴システムをめざす。
研究方法
昨年度1号試験機を用いて入浴行程の検討を行った実績を踏まえて、今年度は浴槽本体の改良、無拘束浴槽心電図および高炭酸泉など本邦独自の技術を導入して、高機能化を図った立位個別入浴システムとすることを作業課題とした。
浴槽本体は、昨年度の経験からFRPで作製して軽量化を図り、側板の一部を透明高分子樹脂製として入浴者の安心感と介護者の視認性を高める。その浴槽内にストレッチャで対象者を寝かせたまま搬入しその後に浴槽を立てつつ底部から注湯し、後は排水しつつ浴槽を立てていって水平位に戻し、ストレッチャのまま対象者を排出する入浴行程とする。その入槽中の心電図モニタリングを無拘束で行い得るよう、無拘束心電図センサを浴槽本体壁に付設する。また、人工高炭酸泉湯の給湯機構の付設を行う。 健常人ボランティアにより、入浴時心電図モニタリングと人工高炭酸泉浴を実施し、心電図の解析と末梢循環機能の評価をする。
前年度までの主任研究者辻隆之氏が突然に長期療養を余儀なくされる事態となったことを受け、急遽千田が新主任研究者として本研究課題を継続させることとなった。藤元、松尾の分担研究者は、従来からの研究を継続させ、千田は従来の分担課題を含め入浴システム本体の開発を主体的に行うことにした。また、試作機の機能評価のため、三宅洋三、三宅泰二郎両氏(医療法人社団三恵会木太三宅病院)の協力を得ることにした。
結果と考察
9月18日付け厚生省発令にて交付決定を受けたので、前年度から辻氏主導で計画が進行しつつあった浴槽部分の改良と、人工炭酸泉製造装置の発注、起立型浴槽用無拘束心電計の発注のため、試作協力企業担当者と個別の協議を重ね、さらに10月26日に関係者が斑会議を持って、今年度の事業計画を決定した。これに基づき、千田は浴槽・ストレッチャの改良とそれに付設する人工炭酸泉製造装置と起立型浴槽用無拘束心電計の導入のための検討を進め、藤元は前年度の試用実験の成果から入浴行程の見直しを行って改良システムへの助言を行った。また、松尾は虚血症状を有する下肢末梢動脈への人工炭酸泉浴の効果を検討して、その十分なることを確認した。
1)立位個別入浴型浴槽の開発 : 入浴行程は、ストレッチャに入浴者を寝かせたまま浴槽内に搬入し、その後に浴槽を立てつつ底部から次第に注湯し、浮力を利用することにより立位をとらせて全身入湯させ、その後排水しつつ浴槽を水平位にまで戻し、入浴者をストレッチャに載せたまま浴槽を離脱させる。ここで注湯量は、入浴者の全身状態をよく観察して、身体的に負担にならない範囲とし、将来的にはリハビリの目標値として適正量を設定し、次いで徐々に増量することによりリハビリテーション負荷と考える。
個別型浴槽の昨年度1号試験機は鉄製で、それ自体の重量が大きかったことを受け、浴槽本体の軽量化に努め、2号試験機をFRPで作製した。さらに浴槽内をモニタ出来るように、透明高分子樹脂製の側板を増やした。 入浴者に閉塞感を持たせないためと、介護者による視認性の向上を図ったものだが、逆に余りスケルトン部が広すぎることは入浴者の羞恥心を惹起してしまう可能性を指摘された。ストレッチャは、単なる移送のための運搬台に止まらず、立位時の身体保持機構でもあり、また次年度には更なる機能付加を検討しており、ある程度の重量はやむを得ないのであろうが、浴槽部とを併せた場合の重量は相当過多であり、課題を残している。なお、ストレッチャのキャスタ部分は自動的に折り畳めるように工夫するとともに、立位時の膝折れ防止用のアタッチメントを膝下部に付設した。これにより、リハビリ初期の入浴開始を早められることが期待される。皮膚との接着部については、さらに検討を要す。
2)無拘束心電図モニタリング浴槽の開発: 本浴槽に、長寿科学総合研究介護支援機器分野「在宅高齢者の健康モニタモニタリング技術の開発研究班」(戸川達男班長)で考案された無拘束心電図計測法を導入した。心電計測用電極センサは、昨年度ストレッチャに付ける計画であったが、浴槽本体に埋め込むようにし、浴槽内部に突出しないよう工夫が凝らされた。入浴者の右肩部には、体格の相違に対応するよう、最適な波形が得られるように3個のセンサを連ねて配置し、選択するものとした。これは、肢誘導を基準とするものの胸部誘導波形も得られるようにとのセンサ位置の工夫でもある。 今回の一部高分子樹脂製のFRP浴槽では、電位の低下が若干みられたものの、炭酸泉水の影響はそれほど多くないようであった。
3)人工高炭酸泉装置の付加 : 人工高炭酸泉(湯温37℃)浴では、皮膚血管が拡張するので、温水と血液感の熱交換効率が向上する。そのため、体温の上昇が速やかで、湯上がり後も皮膚血流が良く保たれているので温感が持続し、入浴者の満足度を高める。結果的に、入浴時間の短縮化が図れる。また、藤元病院での炭酸浴と淡水浴による褥瘡治癒効果の比較試験では、前者の方が強く認められた。足部に潰瘍を有する患者の足浴に人工高炭酸泉を応用すると、虚血下肢皮膚血流量が増加しかつ自覚症状の改善を認めることを確認した。この人工高炭酸泉効果を本浴槽システムに導入するため、給湯経路内に炭酸泉製造装置を組み込んだ。
鄭らは、入浴の温熱効果がうっ血性心不全患者に対する後負荷軽減療法としての意義を有する事を示しており、本システムでは温熱と二酸化炭酸ガスの末梢血管拡張作用による後負荷軽減、さらに起立による前負荷軽減をも図れることが期待される。その上、入浴中の心電図を無拘束で得られることから、心筋梗塞患者の早期リハビリにも安心して適応可能と考えられる。
こうして新たに作製した改良浴槽に無拘束心電センサおよび人工高炭酸泉製造器を組みこんだ立位個別型入浴システム総体を、木太三宅病院関連施設に設置し、その機能評価を開始するに至っている。しかし、システム開発の着手が遅延したため、試用実験が十分とることが出来なかった
結論
今年度は、前年度からの引継作業に手間取り、機器発注に遅れがでたため、年度末に多忙を極めることなった。当初研究計画に準じて、浴槽の改良、無拘束心電計センサの付設、及び人工高炭酸線装置の付設を実行した。
本立位個別型入浴システムは、立位による入浴が全身浴の楽しみを高めると同時に、リハビリテーション上の効果を重視するという新しい概念に基づいて構築された。すなわち、入浴者に最適の水位と浴槽の起立角度を調節すると、起立訓練が行える。また本システムでは、同時に介護・看護者の肉体的負担をも軽減できるので、結果的に介護・看護者にもゆとりが生じるため、介護・看護を受ける者の QOLの向上にもつながる。
このように本システムは、早期起立訓練リハビリテーションへの対応が可能な、我が国で開発された技術を結集した世界で初めての高機能入浴システムとなる。

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