脳卒中片麻痺の入院リハビリテーションにおけるクリティカルパスの開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000196A
報告書区分
総括
研究課題名
脳卒中片麻痺の入院リハビリテーションにおけるクリティカルパスの開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
飛松 好子(東北大学大学院医学系研究科障害科学専攻運動障害講座肢体不自由学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 岩谷 力
  • 漆山裕希(東北大学大学院医学系研究科障害科学専攻運動障害講座肢体不自由学分野)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
予測と理論に基づくリハビリテーションシステムを構築することがこの研究の目的である。東北大学リハビリテーション科には、1000例近い脳卒中片麻痺患者のリハビリテーションプロセスにおける各部門の経時的な詳細なデータの集積がある。その一部は脳卒中片麻痺の予後予測のために使われているが、リハビリテーションプロセスを明らかにする上で有用なデータである。当初はそのデータを利用し、解明することによってリハビリテーションチーム各部門のリハビリテーション過程における経過を明らかにし、それに基づいてクリティカルパスを作製することを目的とした。
予後予測とは入院時所見から1-3ヶ月後の各時期において、ADL、下肢、上肢機能、知的機能、言語機能、さらには歩行速度の予測を行うものであり、データの集積により、入院時所見から予測項目を従属変数とした重回帰モデルを作成することによって行われている。すなわち予測式とは様々な入院時所見を持った患者それぞれの自然経過を示すものである。予測モデルの適合性については、多施設において検討され、多施設でも予測可能であるということが明らかになっている。
このたびはこのデータを利用し、リハビリテーション過程の自然経過(一般的経過)として分析し、各部門の関わりの課題と時期と患者との相互関係を明らかにした上でクリティカルパスの作成に取りかかる予定であった。しかしこれまでのデータに基づく予測式に不適合の症例が頻出したことと、予測の項目を細かくしたところ予測が甘くなったことの2点を生じたため、早急にクリティカルパスを作るよりも予測式の精度を上げることの方が先決と考え、12年度からは脳出血、脳梗塞の病型別に分けて予測式を作りその精度を確かめることとした。そのためには症例の蓄積が必要であり、それを作ったデータベースによって行うこととした。また脳卒中片麻痺のリハビリテーションの帰結を考える上で、その生活の質や心理状態の評価が重要であると考えられるので、リハビリテーションを終えて在宅生活を行ってる脳卒中後遺症者の生活の質を調査することとした。
研究方法
1.前年度作成した予測システムのデータベース部分を利用してデータの蓄積を行った。データの蓄積は東北大学大学院医学系研究科障害科学専攻運動障害学講座肢体不自由学分野仁尾枯れたコンピュータにインストールされたRESシステムを利用して行い、入力されるデータは東北大学付属病院リハビリテーション科に入院し、リハビリテーションを受けた脳卒中後遺症者とした。運動障害のないものは基本的に除外した。
2.退院した患者の予後を追跡調査し、入院リハビリテーションの時点での予後予測因子を考察した。東北大学のRESシステムに登録された退院患者のうち生存し、在宅生活を行っている後遺症者にアンケート調査を行い、現在の機能状態を退院時の医学的、および機能的状態から説明する重回帰モデルを立てた。
3.退院後の生活の調査をするに当たって、いくつかの生活の質に関する因子の測定尺度の妥当性の検討を行った。対象は当院退院者と他院退院患者の両方とした。
4.とりあえず今の時点での脳の病理と機能予後との関係を明らかにする。
結果と考察
1.予測システムに関してはいくつかの仕様の変更を行い、より使いやすいものとし、データの蓄積を行った。またこの様なシステムの重要性を学会でアピールし、見直しを行った。
2.退院時の状態がその後の生活の質、社会的不利に影響することが明らかになった。
GHQ(general health questionnair)を使用した調査では、半数近くに精神健康に問題ありということが解った。
LSIK(小谷野式生活満足度尺度)を使用した調査では、痴呆を有する対象者の回答に問題は見られるものの、回答は信頼ができた(次述)。その得点は全般的に低かった。
CHARTを用いて脳卒中後遺症者の社会的不利について測定した。その結果、脳卒中後遺症者の社会的不利は複雑な構造を取ることが明らかになった。
3.LSIKとCHARTについてテストリテスト法による信頼性の確認を行った。両者ともに各下位尺度の内的整合性と時間的安定性は良好であった。故にこれらの尺度は脳卒中後遺症者にも適用が可能であることが解った。
4.脳梗塞では皮質が温存されるかどうかが予後に関係することまでが明らかになった
結論
本年度得られた成果
前年度は、各ADL項目の予測が入院時データから予測が可能であることがわかり、その予測式を算出することができた。しかし問題点として、一部予測性に不良な項目があり、その点をどうするかという問題が残されていた。そこで病型別に予測を立てることとしたが、蓄積データに不足があるので、この件に関しては第一報告とし、来年度の課題とすることとした。その結果から皮質の病変の有無により帰結が異なることが示唆され、運動障害における認知機能の重要性が再度明らかにされた。来年度は、予測性のさらなる改良、合併症の管理システムへの組み込み、合併症のリハビリテーション過程に対する影響に関して明らかにすること、が主に必要でだり、クリティカルパスの作成へつながると考える。
また、リハビリテーションの帰結を評価する上で、在宅生活者の生活の質を知ることは重要である。このたびの結果から在宅生活者の中に精神健康に問題のあるケースが半数近くを占めることが分かった。また生活の質に関しても問題のあることが解った。一方今年度の成果として、これまでその生活の質を測る尺度が障害者に対しては必ずしも明らかではなかったが、このたびの調査から少なくとも脳卒中後遺症者に対するLSIK、CHARTは信頼性のある適用可能なものであることがわかった。
来年度は、リハビリテーション過程の標準化のための病型別の予測モデルの作成と在宅患者の生活の質の調査、およびその予測因子の解明を行う。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-