公的介護保険の導入と介護者の介護負担に関する研究

文献情報

文献番号
200000195A
報告書区分
総括
研究課題名
公的介護保険の導入と介護者の介護負担に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
荒井 由美子(国立療養所中部病院・長寿医療研究センター 看護・介護・心理研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 上田照子(関西医科大学公衆衛生学教室)
  • 田宮菜奈子(帝京大学医学部衛生学・公衆衛生学)
  • 鷲尾昌一(北九州津屋崎病院内科)
  • 奥宮清人(高知医科大学老年病科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
7,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、介護者の介護負担の縦断的変化に関連する要因を明らかにすること、公的介護保険制度(以下、制度と略す)導入に伴い在宅要介護高齢者(以下、要介護者と略す)・介護者を取り巻く環境がどのように変化したかを検証することを目的としている。
個々の分担研究の目的は以下に示した。
(1) 介護負担に関する縦断研究 
介護負担に関する縦断研究を行い、在宅介護成功、非成功にどのような要因が関連しているかを検討すること。
(2) 制度施行による要介護者と家族介護者への影響に関する研究
制度におけるサービス利用にともなう問題点を把握し、制度に対する介護者の評価とそれを規定する要因を検討すること、要介護度と要介護者の心身の状況、介護者の介護負担、介護状況との関係を検討すること。
(3)制度導入前後のサービス利用・経済負担の変化とその関連要因
制度導入前後におけるサービス利用量の変化を検討し、その変化とサービスへの満足度・経済負担感・介護負担度との関係を検討すること。
(4)制度導入後の農村部における介護者の介護負担に関する研究
介護者の介護負担の関連要因を検討し、制度導入により介護負担に関連する要因がどのように変化したかを検討すること。
(5)制度導入前後での介護負担感の関連要因に関する縦断研究
介護者の介護負担及び介護者、要介護者のQOLとサービス利用量の変化との関連を検討すること。
研究方法
(1) 介護負担に関する縦断研究
1998年にM県在住の要介護者とその介護者70組を対象とし、介護者のサービス利用、介護負担、要介護者の痴呆の有無、日常生活動作(ADL)等について訪問調査を行った。1999年に同様の調査を行い、1年間同じ介護者による在宅介護が継続した47組を解析対象とした。これらの対象者をZaritらの定義に従い、在宅介護成功群と非成功群に二分し、両者の特性を比較した。
(2)制度施行による要介護者と家族介護者への影響に関する研究
調査はO県で在宅サービスを利用している要介護者とその家族介護者561組を対象とした。調査時点において在宅で家族により介護を受けている要介護者と家族278組を本報告の分析対象とした。質問紙の内容は、要介護者の心身の状況、介護サービス利用状況、サービスの利用量の変化、一部負担金の経済的負担、家族の介護状況、介護者の心身の状況、Zarit介護負担尺度などである。
(3)制度導入前後のサービス利用・経済負担の変化とその関連要因
一在宅支援事業者の利用者66名を対象とし、制度導入前の在宅サービスの利用状況、導入後のサービス利用状況・自己負担額を把握した。さらに、郵送法アンケート調査により、制度導入前の自己負担額・経済負担の自覚的変化・介護負担度・サービスへの満足度等のデータを得た。
(4)制度導入後の農村部における介護者の介護負担に関する研究
2000年9月にF県在住の要介護者とその主介護者で、要介護者が65歳以上の42組を対象とし、自記式の質問票を配布し調査を行った。調査内容は、要介護者の性、年齢、サービス利用状況、介護者の属性、介護状況、介護負担感、抑鬱(CESD)についてである。
(5)制度導入前後での介護負担感の関連要因に関する縦断研究
K県在住の要支援、要介護者に対して、前年度からの追跡調査を行い、介護者の介護負担、QOL、鬱尺度等の変化に対する要介護者のADL、問題行動、痴呆などの進行の影響を検討した。47名から回答を得た。調査項目は、介護負担、鬱尺度、主観的QOL、基本的ADL、高次のADL、日常生活自立度、認知機能の評価、問題行動異常評価スケール等である。
結果と考察
研究結果=
(1) 介護負担に関する縦断研究
対象者全体として1年間で介護負担得点の平均点は有意に低下した。しかしその一方で、在宅介護非成功群が19名存在した。在宅介護成功と非成功に関連する要因は、痴呆高齢者の割合、配偶者が介護者である割合であった。多変量解析の結果、痴呆高齢者を介護している介護者は在宅介護非成功群に属するリスクは5倍あり、逆に介護者が配偶者である場合、在宅介護成功群に属する確率が5倍あるということが明らかになった。
(2)制度施行による要介護者と家族介護者への影響に関する研究
支給限度額満額分の介護保険サービスを使用していない者が約6割存在し、その理由として一部負担金の経済的負担をあげている者が多かった。またこれらの介護者の介護負担は高かった。制度施行によって介護の心身への負担が「減った」と回答した介護者は2割であった。介護者の制度に対する評価は「良かった」とする者が3割であった。
要介護度と介護負担との関連を検討した結果、要介護者の要介護度が高い介護者において介護負担が大きい傾向にあることが認められた。
(3)制度導入前後のサービス利用・経済負担の変化とその関連要因
66名分の制度導入前後のサービス利用状況、47名分のアンケート回答を得た。自己負担額は対象者の75%で増加しており、サービス利用は64%が増加していた。サービス利用の増減で群別化してみると、利用が減少していた群の年齢は有意に高かった。自己負担額の変化は、経済負担感および介護負担感と正の相関があった。各サービス間では、ホームヘルパーとデイサービスの変化、訪問看護とデイケアとに逆相関があり、老健施設利用とデイケア利用との間に正相関があった。
(4)制度導入後の農村部における介護者の介護負担に関する研究
高い介護負担との関連について多変量解析を行った。4種類以上のサービスの利用のみが有意な関連要因で、要介護者の2つ以上の問題行動と12時間以上の介護時間は介護負担を高める傾向を認めたものの有意ではなかった。介護時間を除いたモデルでは、要介護者の2つ以上の問題行動は有意な関連要因であった。
(5)制度導入前後での介護負担感の関連要因に関する縦断研究
デイサービスの利用量は1年間で変化がなかったが、ヘルパー利用量は減少した。この1年間で、デイサービスを新たに始めたり、増やした者は、ADL、IADL、認知機能が有意に悪化し、要介護者の生活満足度もやや低下していた。デイサービスを新たに始めた群は、介護負担が増悪していた。1年間に介護負担の悪化を来す要因を調べると、介護者の鬱状態の悪化、問題行動の悪化、認知機能の悪化が関連していた。
考察=
1) 介護負担の変化:縦断的かつ個別のモニタリングの必要性
介護負担が介護者全体としては、低下傾向にある場合でも、個々の介護者の中には介護負担増悪が著しい者が存在した。さらに、要介護者が痴呆高齢者であることは、介護負担増悪のリスクファクターであった。痴呆高齢者を介護している者に対しては特に、個々の介護者の介護負担を縦断的にモニタリングする必要があろう。
2)制度導入と経済的負担:自己負担額の増加
制度導入によって経済負担が増加した者は75%に達した。また、支給限度額の満額分の介護保険サービスを利用していない者が約6割存在し、その理由として一部負担金の経済的負担をあげている者が1/4を占めていた。さらに経済的な負担が高いと訴えた者は、介護負担も高かった。これらの結果から、制度導入により生じた自己負担額の増加は介護負担増加の一因とも考えられる。
3)制度導入とサービス利用量の変化
制度導入後、要介護者のサービス利用が促進されている地域もあったが、逆の地域も存在した。このような違いが、地域差に起因するものであるのかどうか今後の検討が必要であろう。
4) 介護者の制度に対する評価
制度導入を“良かった"と評価している者が、わずか3割であった理由としては、①制度導入直後であるため、制度そのものが利用者の間に浸透しておらず、サービス利用が必ずしも増加していないこと、②制度そのものは、利用者の間に浸透したが、経済的負担が増加したことにより、かえって介護負担は増加してしまったこと、③制度導入直後であるため、未だ効果が出ていないこと等が考えられる。
結論
本年度は、公的介護保険制度導入によってサービス利用が増加している地域と、そうでない地域がみられた。本年度は制度が十分に浸透しなかった可能性もあることから、来年度、地域差等も考慮しながら、再調査が必要であろう。本年度の調査では、制度導入によって介護負担が低下したと感じている者は多いとは言えず、その原因としては自己負担額の増加が考えられた。今後、介護者が制度を効果的に活用し介護負担を軽減するためには、経済的な負担をまず軽減する必要があると思われる。経済的負担が軽減すれば、各要介護度に応じた利用限度額分のサービスを満額分利用することで負担が軽減するかもしれない。その意味で、自己負担額の減少等の対策が有効であろう。
また、今後はサービス利用量だけでなくサービスの質が介護保険制度導入によってどのように変化したかも検討する必要があろう。

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