摂食・嚥下障害の治療・対応に関する統合的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000194A
報告書区分
総括
研究課題名
摂食・嚥下障害の治療・対応に関する統合的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
才藤 栄一(藤田保健衛生大学医学部リハビリテーション医学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 椿原彰夫(川崎医科大学リハビリテーション医学教室)
  • 藤島一郎(聖隷三方原病院リハビリテーション診療科)
  • 荒井啓行(東北大学医学部老年・呼吸器病態学講座)
  • 向井美惠(昭和大学歯学部口腔衛生学教室)
  • 植田耕一郎(新潟大学歯学部加齢歯科学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「食事の問題」つまり摂食・嚥下障害を抱えた高齢者は、「食事をすると溺れてしまう」あるいは「食物を目の前にしながら飢えていく」という想像を絶する苦しみを抱えながら生きなければならない。また、彼らに接する介護者の苦悩も極めて大きい。従ってその対応は、長寿社会において、患者や家族のQOLを保証するために最も重要な医療的課題となっている。本研究の目的は、摂食・嚥下障害高齢者とその関係者にとって最善の統合的対処法を具体的かつ理解しやすい形で提示することにある。そのために初年度には複数の新しい評価方法を採用した上で、整理・統合し、従来不可欠であったビデオレントゲン検査を用いない手順をも基準化することにより、福祉施設などにおいても利用可能な評価体系も用意することができた。2年度の目的は、評価法の精緻化と対応法の精緻化を目指した。具体的には新評価方法を多施設で試用すること、また、段階的フードテスト、内視鏡検査、咀嚼負荷嚥下造影検査法、パルスオキシメーター法を追加用意すること、そして、新しい訓練法、専門的口腔ケア、拡張用バルーン、誤嚥性肺炎の薬物による予防法についてその効果検討を行った。
研究方法
本研究2年めにあたる平成12年度には、3回の委員会を通じて、摂食・嚥下障害患者の実態を把握しながら摂食・嚥下障害の臨床に携わる専門家の意見を集約し、討議を行った。また、昨年度作成した標準的評価手順(摂食・嚥下障害臨床評価表)を実際に5施設で試用し、その項目の有用性について検討した。さらに精密な評価法として、3種類の規格化した食品を用意した段階的フードテストの開発、内視鏡検査による咽頭フードテストの検討、プロセスモデルに基づいた咀嚼負荷嚥下造影検査法の開発、パルスオキシメーター法の評価基準の作成、また認知的感覚刺激を用いた新しい訓練効果の検討、専門的口腔ケアの経時的効果検討、新しい食道入口部拡張用バルーンカテーテルの開発、誤嚥性肺炎に対するACE阻害剤、アマンタジンなどの薬物効果について検討を加えた。
結果と考察
1)摂食・嚥下障害臨床評価表の完成と試用:前年度作成した多施設介入研究に用いるための統一した臨床評価表の口腔機能評価項目を一部修正し完成版とした。この評価表を用いて、5施設で試行的調査を行った。(1)方法:初回VF検査施行前と訓練終了時に、全身状態、摂食状況、ADL、口腔機能、咽頭機能を評価した。訓練期間中は、間接訓練と直接訓練に分けて評価した。(2)重症度判定:摂食・嚥下障害の臨床的病態重症度については、前年度に才藤らが作成した分類を用いた。即ち、主たる障害である口腔期障害、咽頭期障害の2要素を臨床的重要性から1軸にまとめて段階づけたもので、唾液誤嚥、水分誤嚥、食物誤嚥、機会誤嚥、口腔問題、軽度問題、正常範囲の7段階に分類される。(3)結果:摂食・嚥下障害の評価のみならず、全身状態、ADl、口腔所見、咽頭所見の評価を組み合わせたことで、多施設における評価方法の統一が図れた。その一方で、評価項目が多数あるため臨床場面で活用するには煩雑であり、より相関の高い項目を選択し簡易化するとこが次年度への課題となった。2)分担研究課題:分担研究者はさらに以下の課題を行った。
向井美惠は「口腔期障害に対する食物形態効果」を検討した。3種類の規格化したサンプル食品を用い段階的フードテストを行い、口腔残留の部位、量などと嚥下障害の関連を検討した。口腔内残留は嚥下障害の他、顎位の不安定性と関連した。藤島一郎は「摂食・嚥下障害治療における内視鏡検査」において、咽頭フードテストとしての咽頭残留の評価を行い、口腔残留や誤嚥との関係を検討した。才藤栄一は、プロセスモデルに基づいた新しい「咀嚼負荷嚥下造影検査法(Process-Swallowing Test)の開発」のための検討を行った。咀嚼嚥下が従来の命令嚥下と著しく異なる特徴を有することを確認し、確実にstage IIを誘発する「混合物咀嚼負荷」という手法を発見した。また、この手法が嚥下障害患者の評価に有用であることが示唆された。関連研究として、研究協力者の肥後隆三郎は「パルスオキシメーターによる嚥下機能の評価」を行い、嚥下障害患者においては5%の酸素飽和度の低下を有意な所見として用いることを提唱した。椿原彰夫は「即時的訓練効果の検討:口腔内における形態認知課題が嚥下機能に及ぼす効果」の研究を行い、口腔内において、アクティブタッチを用いた認知課題施行後の即時的な嚥下訓練効果を反復唾液嚥下テスト(RSST)で評価した。植田耕一郎は「疾患慢性期・維持期の要介護高齢者に対する専門的口腔ケアの効果」を検討し、専門的口腔ケア効果を口腔内感染の程度とADLとの関係において検討した。才藤栄一は、「食道入口部拡張用バルーンカテーテルの開発」を行い、従来の尿道用バルーンと比較検討した。荒井啓行は「高齢者における摂食障害とその対策」として、誤嚥性肺炎の薬物による予防(ACE阻害剤、アマンタジンなど)を検討した。
結論
摂食・嚥下障害に対するリハビリテーションにおいて、多施設で利用できる評価法を整備した。また、フードテスト、内視鏡検査、咀嚼負荷法、酸素飽和度の判定基準など評価法の精緻化ができた。認知課題による訓練法、専門的口腔ケア、バルーン拡張法、薬物療法など介入方法の精緻化が図れた。昨年度と併せて、福祉施設など医療設備が整っていない環境から嚥下治療専門施設まで、多様な環境で試用できる基準化され統合された診断・治療体系を整備されつつある。このような検討により不適切な経鼻経管使用の問題などを減らし、多くの摂食・嚥下障害高齢者が医学的危険を最小にしながら個々の能力に見合った食事を実現できるようさらに研究を進めたい。

公開日・更新日

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