高齢神経疾患患者のリハビリテーションのあり方(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000193A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢神経疾患患者のリハビリテーションのあり方(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
若山 吉弘(昭和大学藤が丘病院)
研究分担者(所属機関)
  • 小川雅文(国立精神・神経センター武蔵病院)
  • 前田眞治(北里大学東病院)
  • 土田隆政(北海道大学リハビリテーション医学教室)
  • 饗場郁子(国立東名古屋病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年の高齢神経疾患患者の治療法と介護の進歩により罹病期間は延長したが、quality of life(QOL)の低下がみられるものも少なくない。本研究では高齢神経疾患の中で頻度の高い脳卒中後遺症(CVD)とパーキンソン病(PD)を対象にリハビリテーション(リハ)の立場からどのようなリハのあり方が患者のQOL向上に対してより効果的かを検討する。
研究方法
Ⅰ.プロジェクト研究 入院もしくは外来通院中の高齢神経疾患患者のうちCVDとPD患者で本研究に同意した協力者を対象にした。入院患者では連日、外来患者では週2回以上、1回につき30分以上のリハを行った。リハは基本的ADL向上により有効と思われる身体活動訓練に重点を置いたPTを中心としたものと、絵画、習字、毛皮細工などより精神活動に影響し、QOL向上により有効と考えられるOTを中心としPTを加えたものの2種類を用意した。本年度と昨年度でCVDとPD患者230例にOT+PTとPTのリハをそれぞれ154例と76例に実施し、リハ前後でQOL調査表(日本老年医学会雑誌 36: 396-403, 1999)を用い患者の背景因子とQOL調査をし、X2検定にて統計的に比較検討した。(倫理面への配慮)患者の背景因子やQOL調査やリハの実施に際してこの研究の目的を充分説明し、かつプライバシーが外部へ漏れることはない旨説明し、患者の同意協力が得られた場合に本研究を実施した。Ⅱ.各個研究 1.PD患者9例を対象に呼吸リハとして呼吸筋ストレッチ体操を4週間施行し、リハ前後で呼吸機能への効果に加え、無動への効果をactigraphを用いて測定し、UPDRSでの評価を行い、両者の結果を比較検討した。2.高齢PD患者64例について介護保険の利用状況及び通所リハの効果を検討した。通所リハについては利用前と利用3カ月後に自覚症状と神経学的所見そしてYahrの重症度を比較しその効果を検討した。3.CVD患者109例とPD患者35例を対象に同居介護者の心的負担・意欲が在宅介護上どのように変化するかを患者の日常生活自立度厚生省基準別と疾患別にSDSとやる気スコアで調査した。4.CVD患者の意欲低下に対する経頭蓋連続磁気刺激(TCMS)の効果をみるため、「認知」と「うつと不安」が問題とされた、慢性期CVD患者20例を無作為に刺激群とsham群に分け、週1回のTCMSを計4回行った。TCMS前後に知能評価と抑うつ評価をし、更に対象者の行動変化を自由記載した。5.入院と外来患者で嚥下障害のある高齢PD患者10例、高齢進行性核上性麻痺(PSP)患者5例、高齢多系統萎縮症(MSA)患者5例を対象にVideofluoroscopy(VF)にて嚥下機能を評価し、障害に応じた嚥下訓練を行い、その効果を評価した。
結果と考察
Ⅰ.プロジェクト研究 PT、OT+PTのそれぞれのリハ前後で背景因子については統計的に有意な変化はみられなかった。次にQOLの項目ではphysical health(PH)、functional health(FH)、psychological health(PsH)、social health(SH)のそれぞれ15項目合計60項目につき検討した。PTではPHの倒れ易さや食欲不振が5%の有意差で統計的に有意に改善された。次にOT+PTでは昨年に比べ本年度はかなりの項目で統計的に有意な改善がみられた。まずPHではしゃべりにくさ、手足のしびれや痛み、手足の不自由さ、歩きにくさやすくみ足、方向転換の難しさ、転倒し易さ、椅子からの立ち上がり易さ、長く椅子に座っていることができる点で改善がみられ、15項目中8項目で改善した。FHでは摂食、着替え、入浴、ベッドへの移動、起き上がり、平地歩行、階段の昇降、トイレへの移動と衣服着脱と排泄の後始末、洗面と整髪動作の改善がみられ、15項目中8項目で改
善した。PsHでは物忘れ、頭重感と頭痛、ゆううつ感、病気に対する不安感が改善され、病気による障害に立ち向かう気が出てきて、今の生活に満足度が増すという効果がみられ、15項目中6項目で改善した。SHでは今後の生活の見通しに楽観が出てきて、外出し易くなり、若い人に自分から話しかけることが多くなってきて、15項目中3項目で改善がみられた。昨年度はQOLのリハ後の改善項目は予想以上に少なかったので今年度はリハ実施前のQOL調査で特に低下している項目に注目し、この点を重点的に改善すると思われるリハを実施するよう心掛けた。その結果リハ後においてQOLの項目計60項目中25項目で統計的に有意な改善が認められた。PTよりOT+PTの方が改善項目が多かったのは実施症例数がOT+PTが約2倍と多かったせいと思われる。OT+PTの解析結果で興味深いのは作業仮説としてリハを実施するとADLよりQOLの方が改善し易いのではないかという想定のもとに本研究を開始したが、結果としてはADLの項目の方がQOLの項目より改善し易いことが判明した。平成13年度には更に症例を加え、PTリハの効果をより明らかにすることと、65才以上の高齢者と未満の非高齢者でのリハ効果の差などを解析し、高齢神経疾患のリハのあり方を研究してゆきたい。Ⅱ.各個研究 1.リハ前後で呼吸機能の%肺活量が改善したことに加えて、actigraphによるmotor activityは9例中7例で増加がみられ、24時間帯の平均値でリハ前6629±2120回/時からリハ後7381±1853回/時と増加した。日中の活動時間帯はリハ前8871±2760回/時からリハ後9734±2886回/時とより運動量の増加が目立った。更にUPDRSでは個々の項目で軽度の改善を認め、動作緩慢項目で9例中6例と最も改善が著明であった。2.PD患者男27例中12例、女37例中16例が介護保険を利用し、通所リハを利用していたのは男3例、女6例で、頻度は週3回が5例、週5回が4例であった。リハ内容はPT1回約30分にOTが加えられていた。介護保険で利用しているサービスは単身生活者では訪問看護や食事の準備などである。介護保険を利用しない患者の理由は、お金がかかる、家族による介護力が十分である、他人を家に入れたくない、通所が面倒というものであった。通所リハの効果では姿勢や歩行の改善がみられ、介助歩行が独歩可能になった例もある。3.うつ傾向は全体的に患者の方が介護者より強かった。PD群は症状の進行とともにうつ傾向が強くなった。全群で日常生活自立度判定基準ランクBで患者・介護者双方のうつ傾向が最も増強していた。意欲は身体機能低下にともない低下傾向であったが、介護者では患者の身体機能低下の直接的影響を受けることが少なく、低下しにくかった。4.刺激前評価では2群間に有意差を認めた項目はなかったが、刺激前後での抑うつ評価のHamilton Depression Scaleの差において、刺激群-3.0±3.6(mean±SD)、sham群-0.1±1.4と刺激群で有意な改善を認めた。行動観察では、刺激群の2例で応答時間の短縮、集中力の向上、精神状態の安定がみられ、sham群の1例で愁訴が多くなった。5.VF所見よりPD患者、PSP患者、MSA患者の嚥下障害の主因は舌のakinesia、嚥下反射の誘発障害であると思われた。障害の程度はPD患者においては軽度、PSP患者においては重度である傾向を認めた。MSA患者においては患者による差が大きかった。嚥下訓練によりPD患者では多数の症例で嚥下機能の改善を得たが、PSP患者では改善は得られず、MSA患者では症例による差が大きかった。このように各個研究でも本年度はプロジェクト研究を補足する研究がなされ、それぞれ成果が得られつつある。平成13年度はプロジェクト研究や各個研究を更に推進し一定の結論を得たいと考えている。
結論
本研究では高齢神経疾患患者のQOL向上にむけてリハのあり方を研究しており、プロジェクト研究、各個研究とも患者の日常生活改善に向けたリハのあり方に関する成果が得られつつある。更に本年度は介護保険の利用状況に関する研究も各個研究に加わり、有用な成果が得られつつある。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-