高齢者神経疾患に対するリハビリテーションの方法論に関する研究

文献情報

文献番号
200000191A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者神経疾患に対するリハビリテーションの方法論に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
宮井 一郎(ボバース記念病院)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木恒彦(ボバース記念病院)
  • 久保田競(日本福祉大学)
  • 松下幸司(国立大阪病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脳卒中やパーキンソン病などの神経変性疾患に対するリハによる機能回復機序の神経科学的解明を通じて、効率的なリハの方法論を確立することが本研究の目的である。平成12年度(2000年)は1. 身体支持装置によるトレッドミル訓練(BWSTT)のパーキンソン病(PD)に対する長期効果の検討、2. 皮質下脳出血の病変部位と機能回復の関連の検討、3. 脳卒中患者の錐体路病変の程度とリハ前後のfMRI所見の変化との関連、4. コンピュータによる前頭葉機能テストシステムによる脳卒中患者の注意シフト障害の解析を行い、5. 一般病院とリハ専門病院との脳卒中の機能予後を比較する研究を継続している。
研究方法
1.BWSTTのPDに対する歩行改善効果が効果がどのくらいの期間持続するか、Randomized controlled trialで検討した。PD21例 (Yahr2.5-3度)をBWSTT (体重の20%を非荷重, 週3回, 1カ月)を受ける群と通常の理学療法 (PT, 週3回, 1カ月)を受ける群にランダマイズし、Unified Parkinsonユs Disease Rating Scale (UPDRS)、歩行速度 (秒/10m)、歩数 (歩/10m)を6ヶ月後まで比較した。期間中、薬剤の変更がなかったBWSTT群10例とPT群7例を解析した。2. 初回皮質下出血により片麻痺と感覚障害を呈した94例でMRIにより、被殻損傷群(Pt, n=55)、視床損傷群(Th, n=24)、両者損傷群(P+T, n=15)に分類し、リハビリテーション効果を比較した。3. 内包梗塞により運動麻痺のみを呈した例(pure motor hemiparesis)では、MRI上検出される錐体路Waller変性(WD)の有無は最終的な機能予後に影響を与えないことを報告した。しかし回復の脳内機構は錐体路損傷の程度により異なる可能性がある。今回、WDのある内包梗塞群(WD+, n=10)とない群(WD-, n=8)で、麻痺側手指把握運動をタスクとしたfMRI所見のリハ前後の変化を検討した。4. コンピューター制御システムによる前頭前野機能を客観的に評価するシステムを用い、Wisconsin Card Sorting Test(WCST) をコンピューター用に工夫修正したRobbinsらの手法を参考に『注意シフト課題』を作成し、健常成人との比較の上で画像上前頭葉が損傷された脳卒中患者の視覚的注意シフト課題の障害を調べた。5. 脳卒中後の回復期リハを一般病院にて急性期リハビリテーション(以下リハと略す)に継続して行うべきか、リハ病院において実施すべきかを、患者の機能回復、医療費、Quality of Life (QOL)という観点から、比較検討するためのプロトコルを作成した:国立大阪病院にて急性期リハを開始した脳卒中患者の中で回復期リハの適応のある患者を国立大阪病院で回復期リハを行う群とボバース記念病院で行う群に分け、両群を比較検討する。このプロトコルに従って平成11年9月から国立大阪病院において患者登録を開始している。
結果と考察
1. 両群のbaselineのUPDRS、歩行速度、歩数に差はなかったが、UPDRSは2カ月後まで、歩行速度は1カ月後まで、歩数は1、2、3、5カ月後までBWSTT群の方が有意に改善した(Mann-Whitney test, p<.05)。以上よりBWSTTの歩行に対する効果は少なくとも数ヶ月持続することが示された。BWSTTによる歩行の改善は外的なcueによる刺激時のみの歩行の改善とは異なり、運動学習に関連することが示唆された。2. 全例で内包後脚後半部に病変を有していた。病変容積はP+TがPt、Thより有意に大きかった(P < 0.05)。PtとP+Tでは全例で前交連より後部の被殻が、ThとP+Tでは全例で視床VPL、VPM核、80%でVL核が損傷されていた。性別、病変側、年齢 (平均60才)、発症後日数(平均3カ月)、入院期間(平均4カ月間)に差はなかった。入院時のFIMの総点数、およびADL、mobilityサブスコアに差は認
めなかったが、退院時のmobilityサブスコアのみ、P+TがPt、Thより有意に改善した(Pt=+5, Th=+4, P+T=+8, P < 0.05)。SIASの運動、感覚スコアに差を認めなかった。以上のように慢性期皮質下脳出血において病変の大きさでなく部位が機能予後に関連していた。皮質-基底核-視床-皮質の並列した運動ループにおいて複数の病変が機能回復をむしろ促進する可能性が示された。 3. 両群で年齢、性別、発症後期間(3カ月)、評価間隔(2カ月)、病変側、入院時上肢機能に差はなかった。入院時のfMRI所見に両群で差はみられなかった。上肢機能は両群で同程度改善したが、fMRIではWD+はWD-に比し、麻痺肢の運動時、対側運動前野の賦活が退院時、有意に多くの例でみられた(WD+ vs. WD- = 8/10 vs. 1/8, p < 0.005)。錐体路損傷が強いと、同程度の麻痺の改善を得るために、運動関連領野の賦活が、時間的にも空間的にも広がる可能性が示唆された。4. 脳卒中患者群では健常者群に比較して、空間位置のワーキングメモリー障害と同様に、試行時間の著しい延長がみられた。しかし、健常群と前頭葉障害群との間で注意シフト障害の一つである保続の割合に有意な差がみられず、保続には脳の他の部位も強く関わっている可能性が示唆された。 5. 平成12年度は、昨年度と同様、軽症が多く、急性期リハの適応があった患者が49%であり、そのうち回復期リハの適応があったのは全体の2割弱であり、この割合にも再現性があった。機能予後などの結果については来年度に明らかになる予定である。
結論
1. BWSTTの歩行に対する効果は少なくとも数ヶ月持続することが示された。BWSTTによる歩行の改善は運動学習に関連する可能性を示唆する。2. 慢性期皮質下脳出血において病変の大きさでなく部位が機能予後に関連していた。皮質-基底核-視床-皮質の並列した運動ループにおいて複数の病変が機能回復をむしろ促進する可能性がある。 3. 錐体路損傷が強いと、同程度の改善を得るために、運動関連領野の賦活が、時間的にも空間的にも広がる可能性が示唆された。4. コンピューター制御システムによる視覚的注意シフト課題を健常者と脳卒中による前頭葉損傷患者で比較した。患者群では、試行時間の著しい延長がみられたが保続の割合に差はなかった。5. 脳卒中後回復期リハを一般病院にて急性期リハに継続して行うべきか、リハ病院において施行すべきかを、検討するための患者登録を継続中である。

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