百寿者の多面的検討とその国際比較(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000184A
報告書区分
総括
研究課題名
百寿者の多面的検討とその国際比較(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
広瀬 信義(慶応義塾大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木信(沖縄長寿科学研究センター)
  • 金森雅夫(浜松医科大学)
  • 石川雄一(神戸大学医学部)
  • 脇田康志(愛知医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
人口の高齢化が急速に進行している。人口高齢化により後期高齢者および超高齢者も急増することが予想される。急増する超高齢者が高いQOLを持つことが個人および社会から要請されている。本研究では超高齢者の代表である百寿者を中心として多面的に評価し、様々なデータの関係を明らかにすることが目的の一つである。さらに検査項目を共通として日本各地およびアメリカの百寿者との比較検討を行うことも目的とする。この様な検討を通して超高齢者のQOLを向上させる手がかりを得ることを期待する。今年度は、百寿者の介護システム、百寿者および90歳の人生満足度、抗酸化系の検討、IGF-1の役割、炎症性サイトカインの影響、心電図所見の検討さらに性格について調査を行った。
研究方法
東京地区、浜松-掛川地区、愛知地区、神戸地区、沖縄地区の百寿者を対象として調査を行った。さらに浜松-掛川地区では90歳も対象に検討を試みた。調査に同意した百寿者にアンケート調査と訪問調査を行った。訪問調査は医学所見、採血、認知機能、性格、介護負担度、介護提供者の健康について調べた。
結果と考察
百寿者の訪問調査では、良好な家族関係、介護負担も比較的少ない傾向が伺えた。90歳健康調査では、ADLも自立した人が多く、健康状態も比較的良好であった。高齢者のQOLの側面である人生満足度の因子分析の結果、「老化の受容」、「積極的態度」、などの7因子が明らかになった。
抗酸化系で重要なSODを百寿者で測定した。SODの定量値もSOD活性も百寿者では一般老人より高い傾向が見られた。また百寿者では全体にばらつきが大きく、中には顕著に高いものがあった。SODが高い百寿者は満点に近いADLを持っており,抗酸化機能の高いことが長寿、高齢期の高いQOLに関与する可能性が示唆された。
百寿者の介護システムの検討より、1)ADL低下は介護負担量を増加させるが頭打ちとなるが介護者の疲労度はADL低下に伴い強くなる、2)認知機能の低下にともない介護負担量と疲労度は増加する、3)続柄は介護負担量と疲労度に影響しない、4)超高齢者の介護者に比較して百寿者の介護者は介護疲労度が有意に低かった。百寿者の介護システムは“successful care"と考えられその解析が重要と考えられた。
百寿者に代表される超高齢者では、IGF-1濃度は半減期の短い栄養指標と相関し、急性期の栄養状態や、虚弱度のマーカーとなる可能性が示唆された。さらに百寿者のIGF-1濃度の低下と痴呆が関連しており、このことは加齢に伴う成長ホルモン-IGF-1系の低下が中枢神経系に影響する可能性が示された。
百寿者では炎症性サイトカインであるIL-1βとIL-6が高値を示し、特にIL-6が最も強く炎症反応、低栄養、認知機能と関連した。今後、超高齢期における炎症反応制御の検討が重要であることが示唆された。さらに超高齢期のQOLの改善に抗炎症薬が有用である可能性が示唆された。
百寿者の遺伝素因については喫煙関連腫瘍の危険因子であるGST M1欠損症と動脈硬化・痴呆の危険因子であるapoEphenotypeを検討した。GST M1欠損症でapoE4をもつ百寿者は観察されなかった。長寿には癌と動脈硬化の危険因子をもつことは非常に不利であることを示唆する。危険因子を持った百寿者の環境因子の解析により、不利な遺伝素因をいかに克服するかが明らかになると考えられた。心電図所見の検討よりQT時間の延長は認めるがばらつきは対照群とおなじであった。この事より百寿者では心室性期外収縮の原因となる器質的心疾患が少ないことが示唆された。
百寿者の性格については他の年齢群に比較して誠実性が高く調和性が低い傾向を認めた。
結論
1.百寿者の訪問調査では、良好な家族関係が伺うことができた。介護負担も比較的少なかったが、男性介護者の場合には精神的なストレスなども見受けられ、サポートの必要性がみられた。
2.平成12年度卒寿式健康調査については、健康状態も比較的良好であり、日常生活も自立している人の多いことが明らかになった。郵送調査の対象者においては、寝たきり、痴呆など重度の障害を担う要介護の状況であると推察される人もおり、90歳になるまで健康を維持することの難しさを示している。血液検査では、高脂血症の人が少なく,HDLコレステロールも高いことから、動脈硬化を来していない状況が伺えた。
3. 平成11年度の90歳を対象としたLSIの因子分析の結果、「老化の受容」、「積極的態度」、「幸福感」、「心理的動揺」、「達成感と現実」、「興味と関心」の7因子であることが明らかになった。
4.Mn・SODについては百寿者値と70歳値との間に有意差をみつけることができなかったが、SODの定量値もSOD活性も百寿者では一般老人より高い傾向が見られた。共に百寿者では全体にばらつきが大きく、中には顕著に高いものがあったが、彼らは満点に近いADLを持っていた。
5,1)自立度が低下するにつれて、介護度は増す傾向であったが、自立度BとCでは、横ばいであった。一方、介護者の疲労度は、自立度がある程度保たれているうちは増加せず、自立度が高度に低下した場合に有意に増加した。
2)痴呆度が進行するにつれて、介護度は増加した。一方、介護者の疲労度は、痴呆度の低いうちから増加していた。
3)介護者・被介護者関係(続柄)は、介護度にも疲労度にも有意な影響を与えなかった。
6,百寿者の家族と超高齢者家族の介護負担度は百寿者家族で低かった。このことは我々の提唱したsuccessful careを支持する結果であった。
7.IGF-1は百寿者では若年に比較して低下していた。半減期の短い栄養指標として有用である。IGF-1と認知機能が関連しており、加齢に伴うGH-IGF-1系の低下と中枢神経の関連について今後の検討が期待される。
8.百寿者ではIL-6,IL-1βが高値であった。IL-6は認知機能、炎症反応、低栄養と関連していた。加齢により炎症反応の制御がゆるくなり過剰の炎症反応が起こる可能性が示唆された。このことは過剰の炎症反応を抑制することにより(COX2阻害薬など)超高齢期のQOL向上が期待される可能性も示唆する。
9.癌および動脈硬化の危険因子を同時に持つ百寿者は少なくこれらの因子が寿命に不利であることが示唆された。不利な因子を持つ百寿者の環境因子を解析することによりいかに不利な素因にうち勝つかが明らかになると考えられた。
10.癌および動脈硬化の危険因子を同時に持つ百寿者は少なくこれらの因子が寿命に不利であることが示唆された。不利な因子を持つ百寿者の環境因子を解析することによりいかに不利な素因にうち勝つかが明らかになると考えられた。
11.百寿者心電図所見ではQT時間の延長が認められたがばらつきは対照群と変わりなく、心室性期外収縮をきたす器質的疾患は少ないことが示唆された。
12.介護者より評価された百寿者の性格を検討した。百寿者は他の年齢群に比較し誠実性は高く、調和性は低かった。今後この様な性格が長寿にどのような影響を及ぼすかの検討が必要と考えられる。

公開日・更新日

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