高齢者脳機能賦活療法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200000180A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者脳機能賦活療法の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
遠藤 英俊(国立療養所中部病院)
研究分担者(所属機関)
  • 宇野正威(国立精神・神経センター武蔵病院)
  • 難波吉雄(東京大学大学院医学研究科)
  • 久保田競(日本福祉大学情報科学部)
  • 酒田英夫(日本大学医学部生理学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
5,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者脳機能障害において、特に記憶障害や見当識障害に対して回想法、音楽療法、運動療法、芸術療法、アロマセラピーなどの非薬物療法による全く新しい賦活療法の検討を行うことを目的とした。さらに視覚認知、前頭葉機能の基礎的検討を加えた。
研究方法
回想法、音楽療法、芸術療法、運動療法、アロマセラピーなどの非薬物療法の評価を行った。研究対象は早期の痴呆患者や加齢に伴う記憶障害を示す程度の患者であり、記憶障害を認め、ミニメンタルステート検査で19点以上の患者を対象とする。そのためにはまず早期診断法の基準設定を行い、各研究班員の間で診断基準を一定とすること、次に記憶そのものを改善させるための神経生理学的に意味のある訓練方法を検討し開発することとした。遠藤班員はグループホームにおける回想法の検討を行った。宇野班員は芸術療法、音楽療法、運動療法の組み合わせにより認知機能の改善を評価した。難波班員は香りを用いた賦活療法の開発を検討した。久保田班員は運動療法を基本として前頭葉の機能を賦活する方法をを検討した。さらに酒田班員は頭頂連動野の研究を通じて記憶との関連に関する研究を行った。
結果と考察
平成12年度において本研究は遠藤、宇野、難波、久保田班員がそれぞれ痴呆症に対して回想法、音楽療法、芸術療法、運動療法により、人を対象に脳機能賦活療法の検討を行った。また酒田班員はサルを用いて視覚認知に関する非薬物療法の基礎的研究を行った。
遠藤班員はグループホームにおいて軽度痴呆患者7名に対して回想法を用いた非薬物療法の評価を行った。回想法は週1回2時間程度3ヶ月行い、その前後で認知機能、行動評価、症状について評価を行った。その結果認知機能はほとんど変化はなかったが、痴呆に伴う行動や症状において有意に改善が見ら、回想法によるグループホームでの人間関係や社会的効果、心理的効果が示された。
宇野班員は芸術療法に関する研究を行った。初期のアルツハイマー病患者を対象として、認知機能を改善・維持する目的のリハビリテーションの開発を試みた。特殊な絵画療法・音楽療法に有酸素運を加えたリハビ リ介入を6ヶ月にわたって施行した。認知機能への効果をWAIS-RとWMS-Rを用いて評価したところ、絵画療法と音楽療法を施行した群で、WAIS-Rに限って有意な改善が示された。
難波班員は健常成人6名について、ペパーミント、ラベンダー、レモン、ローズマリー、ユーカリ、クロ ーバの6種類の香りを用いて、香りを嗅ぐ場合と嗅がない場合の両者における中大脳動脈と究を行 頸動脈の血流の変動について超音波ドップラー血流計を用いて解析した。その結果、香りに対するい結果 応にはかなりの程度の個人差があること、定量的に中大脳動脈、総頸動脈血流速度のいずれも血流の増加が認められた。
酒田班員は空間認知機能に関する基礎的研究を行った。サルの頭頂連合野でニューロン活動を記録して手操作や遅延見本合せ、道順記憶など種々の空間的認知課題を訓練して課題遂行中のニューロン活動を分析して頭頂連合野による情報処理のメカニズムを解析した。今年度は三次元図形認知のメカニズムを調べ両眼視差による立体視の手がかりと遠近法などの単眼性の手がかりの相互作用を調べた。一方空間的記憶に関しては人工現実感を使った道順記憶の課題をサルに訓練することに成功した。
久保田班員は高齢者の前頭葉の機能賦活法を検討した。計画的なウオーキングまたはランニングを1カ月の間行わせて、前頭葉の機能を高めることを検討した。ウオーキングまたはランニングを行う時に、目標地点を決めて、そのコースの概略地図を画いてもらうとワーキングメモリー能力が使われた。前頭葉機能テストとしては、場所を短期間憶えておく遅延反応と反応するしない手掛かり刺激に反応するゴー・ノーゴー課題を組み合わせ複合課題(前頭連合野の最尖端部である前頭極の働きであことをサルの研究で明らかにしつつある)を行わせた。手と足の単純反応時間もテストする。ウオーキングまたはランニングによって、前頭連合野、運動野の能力の高まりが、客観的に裏づけられた。
結論
以上の成果により脳賦活療法に必要な要素、因子について検討し、今後の研究の基礎となる研究を行った。すなわち高齢者脳機能賦活療法は初期の軽症において、よい環境でよい刺激を与えることでよい結果が得られる可能性があることを示唆した。具体的には前頭葉を刺激することが重要であり、回想法や音楽療法、運動療法、アロマセラピーなどの組み合わせが効果を示す可能性がある。

公開日・更新日

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