保存期慢性腎不全高齢患者(非糖尿病性)の低蛋白療法の効果に関する研究 (総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000179A
報告書区分
総括
研究課題名
保存期慢性腎不全高齢患者(非糖尿病性)の低蛋白療法の効果に関する研究 (総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
福原 俊一(京都大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 椎貝達夫(総合病院取手協同病院)
  • 折笠秀樹(富山医科薬科大学)
  • 大石明(国立霞ヶ浦病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
末期腎不全に至り透析療法を受けている患者数は年々増加(1998年末で18万人以上)しており1人あたり年間500-600万円を要することから医療費の高騰に拍車をかける一因となっており、腎不全進展抑制は急務となっている。一方、新たに透析を導入される患者の高齢化も進んでおり(平均62.2才、最頻値65才)、生存年数を延ばすのみの治療では十分でなくなっている。現在、主に使われる保存期慢性腎不全の治療法はACEI(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)および経口多孔質炭素吸着剤のクレメジン、または低蛋白食療法などがある。しかし、ACEIが腎不全進展抑制に有効であるとのエビデンスがある以外は、十分な治療の根拠がないのが現状であるため、本研究では、ACEI投与下で、異なる蛋白・エネルギー摂取量を用いた食事療法の効果を比較するランダム化比較試験(RCT)を当初計画した、しかし、欧米で行われたRCTも含めて、尽きに1回の地球尿と食事記録を測定しただけでは、日常的に低蛋白療法がどの程度実行されているかが明らかでない、2)信頼性の高い蛋白摂取量推定法によって測定信頼性を確認することが必要、3)食事指導方法の標準化と2)で確認された方法によってコンプライアンス測定を行い食事療法の実施可能性を評価することが必要、などが強く認識されたため、RCTの実施前にこれらの基本的な方法論の確率とデータの集積を遂行することとした。そこで、本研究では今年度は以下のことを目的とした;1)低蛋白療法のコンプライアンスを定量的に評価するために、信頼性の高い蓄尿方法を検討すること、2)食事療法の指導方法を開発し標準化するとともに、1)で検討された方法を用いてコンプライアンス測定を行い、食事療法の実施可能性を明らかにすること、3)保存期慢性腎不全患者の食事関連QOL尺度を開発し、計量心理学的評価の種々の妥当性検討を行うこと、以上である。
研究方法
1)feasibility studyの最終プロトコルの完成と患者登録の開始およびインフラ整備;平成12年6月に、研究協力施設の代表医師への説明会を前年度に引き続き開催し、研究プロトコルの浸透を図ると共に実施上の問題点を抽出しプロトコルの再検討を行い、feasibility studyの最終プロトコルを完成させた。平成12年10、11月には協力施設の代表者およびCRC(クリニカルリサーチコーディネーター)を召集して最終説明会を実施し、12月より対象患者の登録を開始した。それに先だって、中立的かつ効率的なデータセンターを管理運営するにあたっての検討を実施した。また、研究の円滑な進行のために、栄養指導のための栄養士マニュアル、皮下脂肪測定用ビデオ、およびCRCのための業務マニュアルを作成した。さらに、研究協力施設及び協力患者に研究目的の浸透を図るために、さまざまな媒体を通じて、研究の詳細を公開した。2) 低蛋白療法コンプライアンスの定量的評価のための蓄尿方法開発に関する研究;蓄尿時の気温が尿素窒素排泄量に与える影響について健常人からサンプルを得て温度を変えて24時間保存し尿中排泄量を測定した。また、クレメジン服用がクレアチニン排泄量に与える影響を検討するために、慢性腎不全患者を対象にクレメジン服用後のクレアチニン、尿素窒素、ナトリウムおおびリン排泄量を測定し検討した。また、食事性因子を一定にした際のACEIの効果を検討するために、蛋白摂取量0.6~0.7g/kg/day、食塩摂取量7g/day以下の食事療法を実行している患者を対象に、12ヶ月間投与前後でのCCr、PI、尿Na排泄量(UNaE)、尿K排泄量(UKE)尿たんぱく排泄量(UPE)を比較検討した。3) 食事関連QOL尺度の開発;昨年度暫定版を作成し調査を行ったデータの解析を引き続き実施した。また、食事療法のコンプライアンスに影響を与える
要因を明らかにすること、および食事療法のコンプライアンスが食事関連QOLに与える影響を明らかにすることを目的に、関東地区のA病院に通院している保存期慢性腎不全の患者、約200名を対象に、予備的調査を行った。さらに、高齢者のQOLに影響を与える要因を探るため、脳卒中後遺症患者を対象にQOL調査を実施した。
結果と考察
1) feasibility studyの最終プロトコルの完成と患者登録の開始およびインフラ整備;最終プロトコルの完成後、12月より患者仮登録を開始した。平成12年3月時点での患者登録数は、40名であった。登録不可症例は、標準体重不的確、尿蛋白非陽性例、患者からの辞退などがあった。今後の登録予定についてのアンケート調査を行ったところ、返答のあった施設では全て仮登録期間中に4例以上の登録が見込まれた。データセンターではタイムリーな問い合わせによるモニタリング機能を高めるためにデータベース管理をし、3ヶ月目少し前で注意を喚起させたり、ランダム割付コードとのリンクを可能にするシステムを構築した。現在のところこれらの機能はほぼ順調に稼動している。2) 低蛋白療法コンプライアンスの定量的評価のための蓄尿方法開発に関する研究;蓄尿時の温度及びクレメジン投与の尿中クレアチニン排泄量と尿中尿素窒素排泄量に対する影響について検討を加えた。蓄尿の温度は5℃、13℃、及び25℃で比較したが尿中クレアチニン排泄量と尿中尿素窒素排泄量に有意な影響は及ぼしていないことが明らかにされた。クレメジンに関しても通常の蓄尿パラメーターに対して影響を与えていないことが確認された。また、食事性因子が調節されている非糖尿病性腎症102例に対するACEI lisinopril 10mg12ヵ月間投与の結果からは、腎機能低下が高度な例ほど血清Kの変化に注意して投与する必要があるが、ある腎機能から急に投与に注意したり、投与を控えなければならないという根拠はなかった。3) 食事関連QOL尺度の開発:昨年度に引き続き、さらに尺度の計量心理学的評価を実施した。すでに標準化されている包括的QOL尺度「SF-36」を基準にして、同時的妥当性の検討を行った。「食事全般の主観的満足度」は、SF-36の8下位尺度のうち「痛み」を除く7領域と有意に相関し、特に「活力」(r=.548) 「精神的健康」(r=.552)との関連が高かった。「派生する生活機能制限」は、「社会的機能」(r=.479)「精神的役割制限」(r=.355)と高い相関を示した。「食事療法負担」に関しては因子分析から得られた因子構造に基づき算出した3下位尺度得点とSF-36の8領域の相関を検討した。「食事の心理的負担」は、「社会的機能」(r=.447)「精神的役割制限」(r=.355)「身体的役割制限」(r=.308)「精神的健康」(r=.331)と関連し、「痛み」とは有意な関連を持たなかった。「食事療法の利点」は「活力」とやや相関する以外は健康関連QOLと有意な相関が見られなかった。「食事療法の量的負担」は「社会的機能」「精神的健康」とやや相関する以外は有意な相関が見られなかった。食事療法の負担以外の下位尺度について健常者群と患者群の差を検討したところ、「一般的食事感」「食事全般の主観的満足感」「派生する生活機能制限」の領域において、患者群は健常者群に比較して有意に低いQOLを示した。さらに、食事療法と蓄尿から計算されたコンプライアンス、自己報告のコンプライアンスとの関連について、現在解析を進めている。
結論
以上の結果、feasibility studyで行う蓄尿方法や計量心理学的評価を経たQOLの測定方法が確立され、またデータセンター機能や各種マニュアル等の整備が終了し、協力施設への周知を経てfeasibility studyの開始を実施することが可能になった。5月までの仮登録期間中に120名の症例登録を予定している。今後、登録症例のデータを解析することによって、RCTに向けての実施可能性をさらに検討していく。

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