地域の高齢者における転倒・骨折の発生と予防に関する疫学的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000177A
報告書区分
総括
研究課題名
地域の高齢者における転倒・骨折の発生と予防に関する疫学的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
新野 直明(国立長寿医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 芳賀博(東北文化学園大学)
  • 安田誠史(高知医科大学)
  • 青柳潔(長崎大学)
  • 吉田英世(東京都老人総合研究所)
  • 杉森裕樹(聖マリアンナ医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
全国数カ所の地域で、在宅高齢者を対象に、統一した調査法を用いて、転倒の発生率、発生状況に関する調査を継続した。その際に一部地域を除き、転倒に関連すると思われる身体的、精神的、社会的要因についても調査を実施した。本年度は、1年目あるいは2年目の転倒調査結果を用いて、転倒の発生状況に関する昨年度の報告内容を再確認するとともに、転倒の関連要因について検討した。さらに、一部地域において、骨折の主要なリスク要因である転倒と低骨量の両者を併せ持つ骨折のmultiple risk factor群の特徴を横断的に調査した。
研究方法
昨年度作成した転倒の発生状況と関連要因についての調査票及び調査マニュアルを参考に、できるだけ共通の調査項目により全国各地で転倒調査を実施した。宮城県三本木町(75歳以上のほぼ自立した高齢者)、高知県大月町(65歳以上の老人保健法による基本健診受診者)においては初回調査を、静岡県浜松市広沢町(転倒検診を受診した65歳以上高齢者)、長崎県西彼杵郡大島町(年齢層別に無作為抽出した在宅の65歳以上高齢者)、沖縄県国頭郡今帰仁村(高齢者健康調査を受診した65歳以上高齢女性)では2回目の調査をおこなった。調査項目は、過去1年間の転倒の有無とその発生状況(時間、場所、履物、転倒時の動作、転倒原因、転倒時のケガ、など)、多分野にわたる転倒の関連要因(転倒の既往、日常生活動作(ADL)、手段的ADL、生活習慣、性格、うつ状態、転倒恐怖感、家屋環境など)であり、面接聞き取りの形式を原則とした。可能な地域では、歩行・バランス能力、握力、骨密度の測定をおこなった。
各地域のデータを分担研究者が分析した。まず初年度と同様に、発生頻度、発生状況について検討し、初年度の結果が再現されることを確認した。次に、転倒の関連要因について、単変量、多変量の分析方法で検討し、転倒の危険要因に関する既存の報告などと矛盾しないことを確かめた。また、静岡県浜松市村櫛村の65歳以上地域住民、宮城県三本木町の75歳以上高齢者を対象に、転倒と低骨量の2要因を併せ持つ骨折のハイリスク群、すなわちMultiple Risk Factor群の特徴を調べた。骨量測定は踵骨超音波法(AOS100,アロカ社)にて施行し、音響的骨評価値(OSI)の%T-score値(若年時骨量を100とする)により骨量低値、非低値を決めた。さらに、転倒の有無を調べ、転倒者における骨量低値者と非低値者を比較検討し、Multiple Risk Factor群の特性を明らかにした。
結果と考察
65歳以上高齢者において(宮城県三本木町のみ75歳以上)過去一年間に転倒した人の割合は、宮城県三本木町では男性(n=189)22.2%、女性(n=318)28.0%、静岡県浜松市広沢町では男性(n=119)13.5、女性(n=175)22.3、合計(n=294)18.7%、高知県大月町では男性(n=164)8.5%、女性(n=316)19.3%、合計(n=480)15.6%、長崎県西彼杵郡大島町では男性(n=318)13.2%、女性(n=339)21.8%、合計(n=657)17.7%、沖縄県国頭郡今帰仁村では女性(n=394)12.2%であった。いずれの地域においても、転倒者割合は10~20%前後、また、一部の例外はあったが、日中、屋外、「歩行中」の転倒が多い、転倒原因としては外因の関与が大きく骨折は転倒の10%弱に伴うなど、1回目調査と同様の結果であり、在宅高齢者における転倒の一般的な傾向と考えられた。昨年度も指摘したことだが、今年度も沖縄地域の高齢者における転倒者割合が低い傾向がみられた。今年度は、転倒の関連要因に関する分析も実施した。この研究班による調査が始まってからのデータでは横断的な分析しかおこなえなかったが(宮城県三本木、静岡県浜松、長崎県大島町)、いくつかの慢性疾患既往、転倒の既往、視力や眼科的手術、握力や歩行などの運動機能の低値が、転倒と関連していた。また、高知県大月町、沖縄県今帰仁村では、過去の調査結果を利用し転倒の危険要因についての縦断的分析を実施した。大月町では、睡眠障害と低い身体活動度が、修飾可能な転倒危険要因として注目された。また今帰仁村では、低握力、転倒既往、健康度自己評価不良が、危険要因として指摘された。これらの結果は、過去に転倒の関連要因として報告されているものと矛盾するものではない。特に、転倒の既往、低握力は主任研究者が以前から注目している要因であり、興味深い結果である。また、眼科関連の要因、睡眠習慣などは、これまでそれほどデータのないものであり、さらに詳しい分析が必要と思われる。来年度は全ての地域で2回目以降の調査が実施される予定であり、可能な限り縦断的な分析をおこない、転倒の危険要因をより明確にできるだろう。
今年度は、転倒と低骨量の2要因を併せ持つ骨折のハイリスク群、すなわちMultiple Risk Factor群の特徴を調べた。転倒者の検討では,骨量低下群(Multiple Risk Factor群)は,非低下群に比べ,年齢調整後、痩せ、筋力低下、体力低下、活動能力低下、他者との交流頻度低下、転倒時の傷害が重い、という特徴がみられた。今後,転倒/骨量と筋力・体力・活動能力などとの関連の検討が一層重要になると考えられる。
結論
複数の地域において在宅高齢者の転倒調査を実施・継続し、転倒の関連要因についても検討した。転倒者の割合、発生状況は昨年とほぼ同様の結果であった。転倒の関連要因としては、地域によりやや異なる要因が示されたが、活動能力の低下、身体疾患、転倒の既往、低握力などいずれも既存の報告と比較し矛盾のないものであった。一部の対象者について、転倒と低骨量の両者を併せ持つ骨折のmultiple risk factor群の特徴を横断的に調査した。年齢調整した転倒者の検討では、骨量非低下群と比較して,骨量低下群では痩せ、筋力低下、体力低下、活動能力低下、他者との交流頻度低下、転倒時の傷害が重い等が特徴的であった。

公開日・更新日

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