骨粗鬆症における原因遺伝子の検索と遺伝疫学的解析(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000169A
報告書区分
総括
研究課題名
骨粗鬆症における原因遺伝子の検索と遺伝疫学的解析(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
折茂 肇(東京都老人医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 江見 充(日本医科大学老人病研究所)
  • 鈴木 隆雄(東京都老人総合研究所疫学部門)
  • 川口 浩(東京大学医学部整形外科)
  • 小川 純人(東京大学医学部老年病学)
  • 細井孝之(東京都老人医療センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
14,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
骨粗鬆症とは骨量の減少により骨の脆弱性が進み、骨折の危険性が増す疾患である。骨粗鬆症の発症には複数の遺伝子の関与が示唆されており、疾患関連遺伝子を同定するためには、ゲノム上の多型マーカーを用いることにより、骨量の減少機序、骨粗鬆症の発症、進展に関与する遺伝子を探索し、早期の予防、治療へ用いることを目的とした。
研究方法
1. 骨代謝候補遺伝子座マイクロサテライトマーカーとSNPの同定、ならびにそれらを用いた解析:内分泌および骨代謝に関わる種々の候補遺伝子に注目しその近傍のCA反復配列多型マーカーを用いて、遺伝子型とその頻度を検出した。遺伝子型とその頻度を検出したのち、骨密度と遺伝子型との相関を統計的に解析する相関研究を行った。次に連鎖解析の一つである「sib-pair(同胞対)解析」を行い、連鎖を示す遺伝子座の同定を試みた。
2. 骨粗鬆症の病態形成に関与する遺伝子群を遺伝子多型性を用いて解析してきたが、さらに検討する遺伝子群とその多型性を増やすとともに、効率よくタイピングする必要がある。新しいsingle nucleotide polymorphisms (SNPs)を検出しタイピングする方法としてdegenerative HPLC (dHPLC)法の有用性を検討した。
3. 核内受容体遺伝子等の多型性に関する検討:エストロゲン受容体のうちERβが骨形成に及ぼす影響を調べるため、ERβ遺伝子の染色体位置と遺伝子多型を同定し、解析した。さらに、多方面で重要な役割を果たすことが知られているPPARγ (peroxisome prolif-erator-activated receptor γ)やβ3-Adrenergic Receptor(β3-AR)遺伝子と骨代謝との関連についても検討した。
4. 老化関連遺伝子に関する検討:老化関連遺伝子として注目されているヒトklotho遺伝子について、ゲノム解析を行って検討した。インフォームドコンセントに基づいて抽出したDNAを用いて、single nucleotide polymorphisms(SNPs)を検索した。また、同様のSNPsスクリーニングを英国在住の白人においても行い、2民族に共通のSNPsにつき、各疾患群との間のassociation studyを行った。
5. 高齢者の骨密度変化における遺伝子的要因に関する検討:地域在宅高齢者を対象とした大腿骨近位部の骨密度を測定し、追跡調査によって縦断的に同部位での骨密度の変化を観察した。さらに同密度の変動に関連する要因として、生活習慣、運動能力および遺伝的要因を広汎に分析し、大腿骨頸部骨折との関連性について考察した。
結果と考察
1. 骨代謝候補遺伝子座マイクロサテライトマーカーとSNPの同定、ならびにそれらを用いた解析:IL6遺伝子、ERβ遺伝子、ERα遺伝子、MGP遺伝子、カルシトニン遺伝子、TNFα遺伝子、カルシウム感受性受容体遺伝子、プロゲステロン受容体遺伝子、IL6受容体遺伝子、NFKB1遺伝子座より各々CAリピートマーカーを単離した。さらに、染色体遺伝子ゲノム構造および染色体マッピングを、SREBP-cleavage activating protein(SCAP), site-1 protease(S1p), HMG-COA還元酵素, EBAG9, ELKS, MAD2, アドレノメデュリン受容体の各遺伝子について決定した。また、日本人集団16?24名のゲノム・リシーケンシングにより、インターフェロンα遺伝子、インテグリンβ4遺伝子、CSF2遺伝子、NFKB遺伝子、IL6遺伝子、アドレノメデュリン受容体遺伝子、カスパーゼ9遺伝子において多数のアミノ酸置換を伴うSNPを同定し、その対立遺伝子頻度を確定した。すべてのマーカーで各々の対立遺伝子に対し相関解析を行ったところIL6・CASR・MGPのマーカーに相関が認められた。IL6対立遺伝子A134を持つ群では平均BMDは0.294,持たない群では平均0.313で対立遺伝子A134を持つ群で有意に骨密度が低くP =0.022。CASR対立遺伝子A228を持つ群では平均BMDは0.303,持たない群では平均0.317で対立遺伝子A228を持つ群で有意に骨密度が低くP =0.031。MGP対立遺伝子A212を持つ群では平均BMDは0.315,持たない群では平均0.302で対立遺伝子A212を持たない群で有意に骨密度が低くP =0.038であった。候補遺伝子座におけるCA反復配列多型に対する骨粗鬆症群とのノンパラメトリック連鎖解析においてIL6遺伝子座とTNFA遺伝子座は強い連鎖を認めた。さらに、骨代謝病態解明のための体系的遺伝子発現解析に向けたcDNAマイクロアレイ解析実験の条件を検討した。
2. degenerative HPLC (dHPLC)法を導入し、骨粗鬆症に関連する遺伝子群を特定するためのシステムとしての有用性を確認した。
3. 核内受容体遺伝子等の多型性に関する検討: ERβ遺伝子多型(ERβCAリピート多型)と腰椎骨骨密度との関連を解析したところ、特定の遺伝子型をもつ群において有意に高値を示した (Z score; 0.674 vs. 0.128; p=0.027)。同様にPPARγ exon6内に存在する遺伝子多型、β3-ARコドン64に存在するTrp64Arg置換の遺伝子多型をと骨量との関連を検討した。
4.老化関連遺伝子に関する検討:ヒトklotho遺伝子の全塩基配列を決定し、このヒトklotho遺伝子座の最終exonの下流にCAリピートによるマイクロサテライト多型が存在することを見出した。また、閉経後女性をマイクロサテライト多型によって解析したところ、klotho遺伝子が高齢者における骨量の減少、若年者における変形性腰椎症の重症度に強く関与していることが明らかとなった。さらにヒトklotho遺伝子座においてその遺伝子の機能に直接関連のある領域(全5つのexonとその近傍のintron、およびpromoter領域)におけるSNPsのスクリーニングを行った。本研究は、民族による遺伝的背景の差を除外するために、日本人と英国在住白人女性より採取した末梢白血球DNAサンプルを用いて行った。その結果、日本人においては6カ所、英国人においては8カ所のSNPsが同定され、そのうちの3カ所は共通であった。この共通の3カ所のSNPsに関して、日本人閉経後女性364例、英国人女性1,187例においてそれぞれ骨密度(BMD)とのassociation studyを行った。日本人閉経後女性においては、-395G->Aおよび1818C->TがBMPと有意な相関を示した。一方、英国人においても同様の結果が見られ、1,187例全体では相関がなかったが、明らかな閉経後女性に対象を絞ると1818C->T SNPとBMDの間に有意な相関が見られた(p=0.029)。さらなる解析の結果、ヒトklotho遺伝子が人種差を超えて加齢に伴う骨密度の変化に直接関与している可能性を示唆するものと言える。
5. 高齢者の骨密度変化における遺伝子的要因に関する検討:高齢骨粗鬆症患者の合併症としてもっとも重要な骨折である大腿骨頚部骨折の発症要因における遺伝的素因の位置付けをすべく、地域在宅の高齢女性172名(68-84歳;平均73.1歳)における大腿骨近位部(大腿骨頸部、転子部、およびワード三角部)の骨密度の加齢に伴う変化とその要因を分析した。観察期間は4年間である。各部位とも加齢に伴い骨密度は減少したが、特に最も低骨密度領域であるワード三角部での減少率が最大であった。さらに各年齢階級で減少率を比較した場合、80歳以上の群で減少率は最大であった。またそれらの変動に対する要因分析からは、歩行速度をはじめとする身体運動能力と一部の遺伝的要因が有意に関連していたが、生活習慣は関連が認められなかった。
結論
本年度の研究により、骨代謝関連細胞の発生分化・病態生理に関わる遺伝子のネットワークの解明にむけて重要なステップが得られ、cDNAマイクロアレイ法による遺伝子発現プロファイル解析の可能性も高まった。また、高齢骨粗鬆症患者の合併症としてもっとも重要な骨折である大腿骨頚部骨折の発症要因としても遺伝的素因が重要な位置を占めていることが確認された。

公開日・更新日

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