生活習慣病の中枢制御に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000166A
報告書区分
総括
研究課題名
生活習慣病の中枢制御に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
木山 博資(大阪市立大学)
研究分担者(所属機関)
  • 和田圭司(国立精神・神経センター神経研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
13,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
加速的な超高齢化に向かっている日本の社会にとって、高齢者が健康で活力ある生活を送るためには、加齢に伴って多くの人が直面し寿命に多大な影響を及ぼす疾病、成人病を克服しなければならない。肥満、高血圧、脂質・糖代謝障害などのいわゆる成人病は生活習慣にもその原因があるとされ、「生活習慣病」とも云うことができる。最近の遺伝子欠損動物を用いた研究から、脳に限局するペプチド受容体のファミリーメンバーを欠損させると、「生活習慣病」の症状を呈する動物が得られることが明らかになってきた。このことはいわゆる成人病の原因として中枢由来のファクターが関与しうること、すなわち神経ペプチドを中心とした中枢制御の存在が明らかになったことである。脳の老化・加齢により中枢制御がうまく作動しなくなることが、成人病を惹起もしくは増悪させる一つの要因ではないかとの仮説が立てられる。本研究ではこのような仮説に基づいて成人病の中枢制御のメカニズムを解明することにある。解明の糸口として本研究組織で得られたBRS-3欠損動物が有効であると考えられる。また、神経特異的に局在し、かつニューロペプチドに関連する分子を新たに同定し、生活習慣病の中枢制御の新たな機構を解明し、それをモデル動物として生活習慣病の新しい治療法の開発を行うことも目的の一つである。平成12年度は、摂食との関連性が指摘されているボンベシン受容体BRS-3欠損動物の行動学的解析、GRF受容体欠損動物のインスリン応答性について検討した。また、遺伝子探索により得られた視床下部に局在する新規分子の機能探索と欠損モデル動物の作成や神経特異的遺伝子発現系の開発を行った。
研究方法
以下の5つの点について研究を行った。1.ボンベシン受容体(BRS-3)の解析を通した生活習慣病の分子機序解明及び予防・治療薬の開発。1)BRS-3の内因性リガンド並びにBRS-3機能に関連した遺伝子群の同定。2)BRS-3欠損マウスの社会的刺激剥奪試験。2.ニューロテンシン受容体の生体機能の解明と老化研究への応用。1)ニューロテンシン受容体(NTR2)欠損マウスの作製。3.新規遺伝子のコンディショナルノックアウトベクターコンストラクトの構築と欠損マウスの作成。4.TC10遺伝子の解析。5.遺伝子導入法の開発。(倫理面への配慮)本研究ではヒトを対象としない。また、実験動物の取り扱いは旭川医科大学、大阪市立大学及び国立精神神経センターの動物取り扱い規程に準じた。
結果と考察
分担研究者の和田は遺伝子欠損マウスの作製を通してBRS-3がエネルギー収支、血圧維持において実は極めて重要な分子であることを世界に先駆けて示した。今年度はさらに、個別飼育のBRS-3欠損マウスがより過食ならびに体重増を示し、さらに自発活動性の亢進を示さず社会的相互作用も低下することを見出した。ヒト肥満においても社会的刺激の剥奪が肥満を形成する因子の一つであるかもしれないという可能性を示す貴重な結果である。またこれまで肥満との関連性が低いと考えられていたGRP受容体欠損マウスにおいてグルコース負荷時のインスリン反応性の低下と耐糖能障害を示したことは極めて重要である。ヒトの生活習慣病において、BRS3のみならず GRP受容体も関連している可能性が高まった。BRS3やGRP受容体遺伝子のSNP解析などをとおしてヒト生活習慣病の発症機序解明と予防・治療薬の開発が進展することが期待される。生活習慣病の中枢制御にとって最も重要な領域である視床下部に特異的に発現し、メタロエンドペプチダーゼ様活性を有するDINEは、神経ペプタイドのコンバーティングやプロセッシングに極めて重要な役割を有するものと考えられており、現在欠損動物の作成が進行
中である。また本年度は、神経細胞のグルコースの取り込みに関与していると考えられるTC10が得られたが、最近本遺伝子が末梢の脂肪細胞にも発現しており、生体の糖代謝に関与しているのではないかという報告が出はじめている。従って、本遺伝子は神経系におけるグルコース制御に関与している新たな分子として位置づけることができる可能性がある。神経細胞特異的発現を得るために我々は神経特異的分子であるSCG10のプロモーターをコアに用い、さらに神経特異的サイレンサーエレメント(NRSE)を複数付加した。これにより極めて神経特異的な遺伝子発現が可能になった。このような神経系細胞種特異的な発現のためのツールを用いることにより、中枢神経系において生活習慣病を制御していると考えられる遺伝子の発現制御を可能にし、治療への道が開けるよう、さらに研究を展開してゆきたい。
結論
新規の生活習慣病モデルマウスであるBRS-3欠損マウスにおいて社会的刺激剥奪時の行動変化が野生型と異なること、GRP受容体欠損マウスがインスリン反応性と耐糖能に障害を持つことを見出した。DINEのコンディショナルなノックアウトマウスの作成が進行中である。TC10と呼ばれる新たな分子が、神経細胞でのグルコースの取り込みに関与していることが明らかとなった。アデノウイルスを用いた神経特異的発現のためのシステムがほぼ確立した。

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