歯の生存率評価法及び要因改善による喪失リスク低下に関する研究

文献情報

文献番号
200000158A
報告書区分
総括
研究課題名
歯の生存率評価法及び要因改善による喪失リスク低下に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
安井 利一(明海大学歯学部)
研究分担者(所属機関)
  • 宮崎秀夫(新潟大学歯学部)
  • 尾崎哲則(日本大学歯学部)
  • 伊藤公一(日本大学歯学部)
  • 宮地建夫(鉄鋼ビル歯科診療所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
18,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成元年に提唱された8020運動は開始から10年が経過し、咀嚼機能を中心として口腔機能を保持増進しようとする運動の意義は、近年、健康への意識の高まりとともに、国民にも広く理解されるようになりQOLやADLとの関係の研究についても多くの努力がなされてきた。このように、歯あるいは口腔の機能の人間生活における意義が明らかになるにつれて、地域での老人保健法総合健診に位置付けられた歯周疾患検診あるいは独自の歯科検診が多数みられるようになってきた。しかし、その検診によって掌握できることは現症認識にとどまり、あるいは疾病治療や欠損補綴などの歯科医療行為へとつながっており、いわゆる健康増進のための自律的な行動変容を促しうるような情報提供源としては、自らの口腔保健状況の予測性という点において極めて不明確な部分のあることも否めない事実である。本研究においては、今後、我が国の国民が自らの積極的なQOL獲得活動のために、1)主として口腔内の現状から歯の喪失率を予測し、2)規格化された健康教育を受講した場合の生存延命率や、3)専門的な歯科医療が介入した場合の歯の喪失率の将来予測を行うことを目的とし実施した。
研究方法
調査は、分担研究者各自の大学及び調査フィールドを用いて実施した。調査時DMF歯数、CPI及びポケットの深さ、アタッチメントロスである。この際、CPIについては、代表歯を用いる方法によった。
結果と考察
1.喪失した歯種と初診時歯周ポケット深さあるいは補綴物の有無には相関関係は認められなかった。喪失した歯種と抜歯にいたる期間では若干の相関があるものの有意な差は認められなかった。また、隣在歯の有無と喪失期間については、隣在歯が存在しない場合には喪失期間が短くなる傾向があるものの有意な差は認められなかった。
2.調査対象歯のうち近心遠心あるいは両方の隣在歯が存在しない歯が62.0%に達しており(オッズ比1.63)その内訳は近心歯が欠損8.7%、遠心歯が欠損38.9%、および近遠心とも欠損14.5%であり、特に遠心の歯が欠損している場合、抜歯に至りやすい傾向が認められた。しかし、各欠損状態と喪失期間との間には何ら傾向は見出せなかった。
3.喪失歯のない人について歯周ポケット深に着目すると、2年間で0.5mm以下、13年間でも0.7mm程度以下と1mm未満の間で推移しており、同様の傾向は喪失歯を有する人のほかの歯を測定した場合にも認められた。またアタッチメントロスに着目すると、喪失歯のない人では0.3mm以下、13年間でも1mm程度の増加で推移しており、喪失歯を有する人におけるほかの歯の状況と同様の傾向が認められた。しかしながら喪失歯について歯群ごとにほかの現在歯と比較すると、ほぼ一様に歯周ポケット深化、アタッチメントロスの重篤化が認められており、また2年間の推移も大幅に増加する傾向がみられた。
4. 代表歯法を用いたCPIの個人最高Codeは、Mann-Whitney U検定の結果(p=0.011)5%の危険率をもって、歯周疾患予防事業参加群のほうが良好であるとの有意な差がみられた。
5.歯口清掃状態は全体でみると、良好24.0%、普通62.0%、不良14.0%であった。歯周疾患予防事業参加群は、良好23.8%、普通70.0%、不良6.3%で、一方非参加群は、良好24.1%、普通56.3%、不良19.6%であり、参加群の方が、若干良好であった。また、年齢別でみると、40歳では、全体で、良好25.8%、普通58.4%、不良15.7%、参加群では、良好22.9%、普通71.4%、不良5.7%で、非参加群では、良好27.8%、普通50.0%、不良22.2%であった。また、50歳では、全体で良好22.3%、普通65.0%、不良12.6%、参加群で良好24.4%、普通68.9%、不良6.7%で、非参加群で良好20.7%、普通62.1%、不良17.2%であった。両年齢でも、全体同様に参加群の方が、若干良好であった。歯の生存率評価について、平成11年度の検討結果から若干の傾向は見出せたが、その結果は必ずしも要因改善に結びつくようなものではなかった。成人の歯の喪失原因として歯周疾患の進行程度は重要な意義をもつが、本疾患の進行程度が臨床的診査項目で十分にその病態を表しているわけではない。成人性歯周炎において、歯周疾患の罹患および病変の進行はプラークによる歯周組織への感染症だけではなく咬合力が大きく影響を及ぼしていることは周知の事実である。特に臼歯部の咬合状態が悪化すると歯周疾患の進行はより速やかに進んでしまうことは一般歯科臨床医でも良く知るところである。
今回の検討結果から、歯が喪失に至った多くの症例で隣在歯が欠損していた。その結果、臨床的には咬合負担の増加、二次性咬合性外傷、歯の移動、臼歯部の咬合高径の低下といった症状を招き、より歯周疾患を増悪させていくものと考える。特に遠心に位置する歯が欠損している場合、その近心に相当する歯は抜歯に至る危険性が高く、残存歯の歯の延命を図るためにも欠損歯のいち早い補綴が必要であることが明らかになった。
喪失歯のない人について歯周ポケット深に着目すると、2年間で0.5mm以下、13年間でも0.7mm程度以下と1mm未満の間で推移しており、同様の傾向は喪失歯を有する人のほかの歯を測定した場合にも認められた。またアタッチメントロスに着目すると、喪失歯のない人では0.3mm以下、13年間でも1mm程度の増加で推移しており、喪失歯を有する人におけるほかの歯の状況と同様の傾向が認められた。しかし喪失歯について歯群ごとにほかの現在歯と比較すると、ほぼ一様に歯周ポケット深化、アタッチメントロスの重篤化が認められており、また2年間の推移も大幅に増加する傾向がみられることから、健診における歯周ポケット深およびアタッチメントロスの計測は各人の歯周疾患のリスクファクターとしてよりむしろ、各歯のリスクファクターとして有用であることが示唆された。
個別の歯周疾患予防事業は歯口清掃状況および歯周疾患の改善を図り、歯科保健行動の向上を図るために有効な手段であることも確認された。
今後われわれ歯周病研究班では、喪失リスク低下の糸口を把握する目的で、調査対象を一口腔単位から、一歯単位で調査し、近年注目されている各種歯周組織再生療法の後ろ向き調査を含め、どのような歯周治療が歯の生存率を向上させるか疫学的に検討したい。
結論

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