老化・老年病に対する栄養学的・薬理学的・分子遺伝学的手法による干渉に関する総合的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000157A
報告書区分
総括
研究課題名
老化・老年病に対する栄養学的・薬理学的・分子遺伝学的手法による干渉に関する総合的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
木谷 健一(国立療養所中部病院長寿医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 井上正康(大阪市立大学)
  • 大星博明(九州大学大学院)
  • 大澤俊彦(名古屋大学大学院)
  • 横澤隆子(富山医科薬科大学和漢薬研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
加齢(老化)及び加齢関連疾患(いわゆる老年病)の発症機序に対する酸化的ストレスの役割の解明に努めると共に逆に栄養学的・薬理学的・分子遺伝学的各種抗酸化ストラテジーの効果を検討することにより酸化ストレスの役割を明らかし、その結果に基づいてヒトに応用可能な介入方法を確立することを目的としている。
研究方法
加齢への介入:加齢齧歯類の生存曲線を指標としてデプレニル(DP)投与効果の確認とその作用機序としての抗酸化酵素活性上昇、各種サイトカインの動態を検討した(木谷)。テトラヒドロクルクミン(TC)0.2%含有食を加齢マウスに投与し、生存曲線への効果を検討した(木谷、大澤)。別に老化促進マウス(SAM)にカルニチンを経口投与し、その生存曲線を対照と比較した(井上)。加齢関連疾患への介入:コレステロール負荷家兎の動脈硬化に対するTCの効果、アポE欠損ラットに対する昨年度のセサミノールに次いでセサモリンの効果を検討した(大澤)。井上はシスプラチンによる消化管毒性に対するカルニチンの効果を検討した。腎虚血によるoxygen crisisへの地楡の防御効果をin vivoで検討すると共に有効成分の分離同定を行った(横澤)。大星は高齢者脳虚血疾患の遺伝子治療を目的とし、アデノウィルスベクターを用い、E.coli β-galactosidaseの脳内発現のラット月齢差を検討した。
結果と考察
DP0.25mg/kg週3回皮下注を18月齢からのF344/Du両性ラットに開始したところ、投与群は生食投与の対照群に比し、有意な寿命延長を示した。TC0.2%含有飼料を13月齢より与えた雄C57BLマウスは対照群に比し30月齢で2倍以上の生存率を示した(木谷、大澤)。セサモリン0.2%含有食を与えたアポE欠損マウスで肝ヘキサノニルリジン(HEL)及びdityrosin濃度を有為に減少させた(大澤)。高コレステロール血症家兎に0.5%TC食を与えることにより腎TBARSを低下させ、また肝HEL濃度を低下させ、更に動脈硬化の進展を抑制した(大澤)。地楡エキス投与はラット腎oxygen crisisにおいて3-ニトロチロシン濃度を著明に低下させ、腎組織中のDNA断片化を軽減させ、腎機能低下を防止した。又、地楡中の主要有効成分はエラージタンニンであるsanguiin H-6であることを同定確認した(横澤)。老化促進マウス(SAMP8)にカルニチンを経口投与することによりその寿命を有意に延長させた。又、カルニチンはシスプラチンの消化管毒性を著明に低下させた(井上)。脳虚血後、E.coliβ-galactosidase遺伝子を組み込んだアデノウィルスベクターを導入し、脳室壁に薬入されたβ-galactosidaseの発現は虚血ラット脳でも対照(偽手術)ラットと同じく6時間で認められ、12時間でピーク値となったが、4~7日後の発現は、対照ラット脳に比しむしろ高かった。又老齢ラット大脳皮質への遺伝子導入では虚血辺縁部及び中心部で若齢ラットに比しむしろ発現が増強しており、高齢者の脳梗塞に対する遺伝子治療の可能性の高いことを示唆した(大星)。寿命に対する介入:DPによる寿命延長には有効とする報告を無効とする報告に分かれているため、その信憑性に疑義がもたれていたが、我々の研究の結果、至適量を用いるならこの効果の再現性は極めて高いことがわかった。又、強力な抗酸化剤であるTCがマウスのみかけの寿命に介入する可能性を示唆し、カルノシン投与もSAM寿命を延長させ、薬理学的・栄養学的な加齢への介入の可能性が示唆された。加齢関連疾患・病態への介入:地楡エキス、TC、セサモリンらの研究はいずれも実験的酸化ストレスにこれらの物質
が介入している可能性を強く示唆する。更にいずれも人体投与可能な物質である点、このような研究の成果は臨床応用への道を示す。カルノシンの消化管毒性防止作用は、特に高齢者の癌化学療法への新しい道を切り開くものと期待される。大星の遺伝子療法は、全く別のアプローチであるが、脳血管病変という高齢者に圧倒的に多い疾患に対する従来と全く異なったinterventional therapyとしてその将来への期待が増す。
結論
我々の研究は栄養学的・薬理学的・分子遺伝学的介入のいずれも適切に行われるなら、単に加齢関連疾患に対するのみならず、動物のみかけの寿命(加齢)そのものへの介入が可能であることを示唆している。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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