中枢神経細胞におけるコレステロールの果たす役割およびその代謝機構解明に関する研究

文献情報

文献番号
200000150A
報告書区分
総括
研究課題名
中枢神経細胞におけるコレステロールの果たす役割およびその代謝機構解明に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
道川 誠(国立療養所中部病院・長寿医療研究センター 痴呆疾患研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 福山隆一(京都府立医科大学脳血管系老化研究センター)
  • 伊藤仁一(名古屋市立大学医学部第一生化学講座)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国をはじめとした先進諸国においては急速に人口の高齢化が進み、様々な社会的課題が生じている。医学面では老年人口の増加に伴い高齢者特有の疾患に対する予防法ならびに治療法の確立が求められている。本研究はアポリポ蛋白E4が、老化関連疾患(アルツハイマー病、 前頭側頭痴呆、レビー小体病、運動ニューロン疾患等)の危険因子であることが報告されていることから、アポリポ蛋白Eのコレステロール代謝における役割に焦点をあて、その発症機構を分子レベルで明らかにすることを目的とする。
研究方法
神経細胞培養:
(道川)神経細胞培養は、妊娠17-18日目のラット胎仔脳から準備し、DMEM/F12の無血清培地で培養した。アストロサイト培養:上記で得られた細胞を10%ウシ胎児血清入りのDMEMによりフラスコで培養し、2週間後に蒔き換え、さらに1-2週間後に12well dishにまき直したものを用いた。アイソトープラベル:細胞は[14C]acetateで48時間ラベルし、human recombinant Aァ1-40で処理した。クロロフォルム:メタノール法により脂質を抽出し、コレステロールおよびリン脂質を定量した。また密度勾配法により12のフラクションを得、それぞれに含まれるコレステロールおよびリン脂質を定量し、Aァ量をウエスタンブロットにより評価した。Aァによって形成されたHDLを培地中に添加し神経細胞の受容体結合を定量した。
(伊藤)(1)ラットアストロサイトの培養は胎生期17日目のラット胎児脳より既報の方法により準備した。(2)3H-CE/LDLをserum非存在下でラットアストロサイトに24時間投与してコレステロールをloadした。(3)脂質分析cholesterol (Cho), sphingomyelin (SM),phosphatidylcholine (PC) 合成には3H-acetate を、SM, PCの合成は14C-choline chlorideを取り込ませてそれぞれの合成を分析した。また、細胞の Cho, SM, PC, CE 量はキットを用いて定量した。培地中に分泌されるHDLの分析はsucroseによる密度勾配法により得られた密度 1.2 - 1.08 をHDL 画分とした。(4) 細胞内 lipoprotein particle (ILP) の分析:ラットアストロサイトに 40 uCi/ml の 3H-acetate を2時間取り込ませてコレステロールを代謝的に3H 標識した.細胞を洗浄して、5 ug/ml のapoAI を90分作用させ、低張液で細胞を処理し、300,000 x g, 30 min の超遠心で細胞質を得た.これを 1.19 g/ml, 1.07 g/ml のショ糖水溶液に上層して、150,000 x g, 24 時間超遠心して、12の画分に分画した.各分各の密度、脂質組成、蛋白組成を分析した.
(福山)昨年度報告した研究(業績はFukuyama et al. 2000a、b)において用いたCSFサンプルを使用した。。GFAPの定量にはサンドイッチELISA法を、痴呆度測定にはミニメンタルイグザミネーション(MMSE)を用いた。CTXの解析には昨年度報告した研究(業績はSiga et al. 1999)において用いたプライマーのセットを使用し、PCR-SSCP法、direct sequencingにて患者CYP27遺伝子変異を同定した。MtDNA変異解析はGoto et al. (BBRC, 1996)にもとづいて行った。MtDNA欠失細胞作製において、ヒト神経芽株細胞腫由来(SILA)、ラットアストロサイト由来(RNB)、およびマウスシュワン細胞由来(IMS32)株細胞を用い、エチジウムブロミド処理法によってmtDNAを除去(r-0化)、クローニングした。R-0化の検定としてクラーク型電極を用いる呼吸活性測定とPCR法によるmtDNAの定量を行った。樹立した細胞のLDH活性、乳酸産生率、コレステロール量、GSH量、ATP量を測定し、形態を電顕にて観察した。酸化による細胞死を検討するため、H2O2で細胞を処理し、メディウム中のLDH活性、DNAの電気泳動パターンを観察した。さらに、遷移金属の関与を調べるため、deferoxamineの効果を検討した。(倫理面への配慮)健常者および患者のCSFおよびDNAに関しては昨年度報告の通り。また、CTX、PEO患者と家族については、本来、遺伝子診断についての要望を受けたものであり、インフォームドコンセントの後使用しており、本研究遂行上問題はないと判断した。
結果と考察
(道川)凝集Amyloid ァ-蛋白(Aァ)の中枢神経細胞における脂質代謝に対する作用を検討した。凝集Aァは神経細胞からコレステロール、リン脂質などを搬出しHDLを形成させる能力があることが明になった。そのHDLの大きさは通常のHDLに比べて約2倍の直径を有し、細胞への取り込みは認めなかった。またこの他に、凝集Aァは、細胞内コレステロール合成抑制作用を持ち、結果的に細胞内コレステロール量の低下を誘導した。これらの結果と、昨年度に我々が明らかにしたコレステロールの低下がタウのリン酸化を誘導するという事実を考えあわせると、凝集Aァがタウのリン酸化を誘導するメカニズムにコレステロールが重要な役割を果たすという全く新しい分子機構の存在が示されたことになる
(伊藤)ApoAI はアストロサイト細胞質での caveolin 1 レベルを一過性に上昇させた。また、apoAI は ER/Golgi で合成されたコレステロールやリン脂質の細胞質への translocation も促進した.細胞質に移行したコレステロールやリン脂質は密度 1.15 ミ 1.10 g/ml に分布する リポプロテイン様粒子 (ILP) として存在した.この画分には caveolin 1 や cyclophilin A (Cp-A) などのタンパク質も co-localize していた.Cp-A と特異的に結合する cyclosporin A (Cs-A) はこれらの apoA-I の作用およびapoAI で誘導されるコレステロール搬出を抑制した.しかしながら、抗 caveolin 1 抗体によって ILP の Cp-A は共沈せず、また closs-linker によって caveolin 1 と Cp-A の共有結合体は観察されなかった.一方、apoA-I 作用後 60 ミ 90 分にコレステロール合成に関わる酵素(HMG-CoA reductase など)の転写を制御する成熟型 SREBP2 の核内分布が増加し、2 ミ 3 時間後にはコレステロールの de novo 合成も促進された.また、Cs-A は apoAI で誘導されるコレステロール合成も抑制した.
(福山) PCR-SSCPの結果、患者はCYP27のエクソン7と8に、それぞれArg372GlnとArg441Trpの変異が見いだされた。また、PCR-SSCPの結果、父親はエクソン7の、母親はエクソン8の、姉はエクソン7の変異であることが確定できた(論文投稿準備中)。正常者CSFのGFAP濃度に加齢による顕著な変化はなかったが、AD患者のCSFでは有意に上昇しており、特異度93.3 %、感度66.7 %で診断上有効であることが示された(Fukuyama et al., Europ. Neurol., 2001, in press)。PEOの解析では、11.2 kb断片の増幅の際に5.3 kb断片が増幅され、約6 kbの欠失が推測された。画像解析の結果、バンドB、C、D、H(Goto et al., 1996参照)が欠失し、新たにバンドHに位置する異常断片が見いだされた。また、欠失断片の5ユ端はこれまで知られていない17 bpのパリンドローム、3ユ端はすでに報告のある5 bpのタンデムリピートであることがわかった(Saiwaki et al., Mol. Pathol. 2000)。ADやPEOおよび脂質代謝異常に関連した大脳疾患の細胞モデル作製を目指して、ヒト神経芽細胞腫由来SILA、ラットアストロサイト由来RNBおよびマウスシュワン細胞由来IMS32細胞から、それぞれSr-0細胞、Rr-0細胞、Ir-0細胞を数クローンずつ樹立できた。解糖系の活性化程度はそれぞれに異なっていた。電顕観察の結果、呼吸傷害を示すミトコンドリアの顕著な異常と、ガングリオシド代謝異常を示すmembranous cytoplasmic body (MCB)様封入体がどの細胞にも発見され、r-0細胞の脂質代謝異常には共通点があると考えられた。これらの細胞は酸化ストレスに高感受性であったが、細胞死のパターンはr-0細胞の由来によって異なっていた。また、r-0細胞の酸化ストレスに対する高感受性は鉄が触媒するフェントン反応によるものと考えられた。
結論

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