国立病院・療養所呼吸器ネットワークを利用した、肺癌に対する新しい治療法(癌ワクチン療法を加えた)の開発

文献情報

文献番号
200000147A
報告書区分
総括
研究課題名
国立病院・療養所呼吸器ネットワークを利用した、肺癌に対する新しい治療法(癌ワクチン療法を加えた)の開発
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
森 隆(国立療養所近畿中央病院)
研究分担者(所属機関)
  • 岡田全司(国立療養所近畿中央病院)
  • 清水哲雄(国立療養所道北病院)
  • 力丸 暘(国立療養所盛岡病院)
  • 毛利昌史(国立療養所東京病院)
  • 加古健(国立療養所東名古屋病院)
  • 杉和郎(国立療養所山陽病院)
  • 西村一孝(国立療養所愛媛病院)中野昌弘(国立療養所福岡東病院)
  • 柳内登(国立療養所晴嵐荘病院)
  • 川城丈夫(国立療養所東埼玉病院)
  • 西條長宏(国立がんセンター)
  • 松島綱治(東京大学)
  • 七條茂樹(久留米大学)
  • 野村達次(財団法人実験動物中央研究所)
  • 河原正明(国立療養所近畿中央病院)
  • 井内敬二(国立療養所近畿中央病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
肺癌は癌の中でも死因のトップである。当病院は呼吸器疾患の準ナショナルセンター(高度専門医療施設)に厚生省より指定され、最新の化学療法を日本の先端をきって施行するも、大多数は根治し得ず、大きな問題となっている。したがって、全く別の視点からの新しい治療法の開発が必要で、これらの研究は緊急を要し、社会的意義が高く、国民・患者から極めて要請の強い最重要研究課題の一つである。したがって、①新しい分子標的治療薬の開発 ②肺がん細胞に対する生体防御機構、特に肺がん拒絶抗原に特異的なキラーT細胞による生体防御機構を解明する。 ③逆に肺がん細胞が免疫担当細胞を殺傷(RCAS1抗原)し、免疫監視機構からエスケープする機構の解明を行う。 ④これらの解明に伴う新しい肺癌ワクチン療法及び遺伝子治療の開発 ⑤最も強力な集学的治療法(新しい化学療法剤・外科療法・放射線治療のみでなく、最新の肺がんワクチン治療を含めた)を確立する。 ⑥国立病院・療養所の呼吸器ネットワーク(全国54施設)を利用し、国立がんセンター研究所及び大学との共同研究により新しい治療の開発を行うことを目的とする。
研究方法
[1]抗RCAS-1抗体を用いて、肺癌患者の免疫組織染色を行った。
[2]肺癌発症マウス(C-Ha-ras遺伝子導入マウス)にウレタン投与した後IL-6関連遺伝子(IL-6遺伝子+ IL-6レセプター遺伝子+gp130遺伝子)治療を行い、肺がん発症の予防治療効果を解析した。[3]ヒト肺癌拒絶抗原MAGE-3を用いた新しい肺癌ワクチン療法モデルマウスの確立:Cancer Res 1997に我々が報告したSCID-PBL/huモデルを用いた。すなわち、肺癌患者Tリンパ球とヒト肺癌、癌拒絶抗原又は抗原geneを投与し、担ヒト肺癌SCID-PBL/huに、上記のIL-6関連遺伝子治療(i・p)を行い、自己肺癌に対するヒトキラーT細胞の分化誘導を解析した。[4]サイクロンフィリンB(CypB)等によるペプチドワクチン第I相臨床試験をHLA-A24陽性の患者(肺癌12症例を含む)に対して久留米大学付属病院で開始した。[5]「切除不能局所進行型非小細胞肺がんに対する導入化学療法+胸部放射線療法同時併用後の追加化学療法の臨床第I相試験」を国立病院・国立療養所呼吸器ネットワークを利用し、多数の施設に参加を募り、多施設のグループで第I相試験を遂行するように計画した。
結果と考察
[1]抗RCAS-1抗体を用い、ヒト肺癌の悪性度・進行度と肺癌細胞上のRCAS-1発現と相関があり、予後診断法となることを明らかにした。平成13年度はこれを用い、極めて早期の肺癌悪性度診断法を確立するとともに、肺癌治療を目指す(岡田、森)。[2]国立病院・療養所呼吸器ネットワークの作製とこれを利用した、「切除不能局所進行型非小細胞肺がんに対する導入化学療法+ 胸部放射線療法同時併用後の追加化学療法」の臨床第Ⅰ相試験を開始した。さらに参加施設を増やし、多数の症例で解析する。[3]肺癌患者Tリンパ球とヒト肺癌が生着したSCID-PBL/huヒト癌治療モデルマウスを用い、MAGE-3ペプチド生体内投与でMAGE-3特異的なヒトキラーTを誘導しうる画期的な系を確立した。さらに、アデノウィルスベクターにCEA-geneを導入し、注射することにより肺腺癌遺伝子治療の系を確立した。さらに、これにMAGE-1geneを投与してより強力な遺伝子治療の系を確立する。[4]肺がんワクチンのPhase I studyは七條・伊東らによりなされ、がんに特異的なキラー活性は90%の症例で増強された。今後は複数のペプチドより、患者本人の末梢血Tリンパ球が強く反応するペプチドを選び肺癌ワクチンに用いる第Ⅰ相臨床試験を行う(七條、森)。[5]新しい肺癌拒絶抗原(Corixa研究所S.Gillis博士がクローニングした種々の抗原)、およびそれらに対するモノクローナル抗体を用い、本邦の肺がんの特異性を解析し、肺がん特異的な抗原、及びDNAを明らかにした。この研究は極めて発展性があることより、約5種の肺癌特異的抗原の中から、最も強くCD8+T細胞と反応する抗原を選択し、phaseⅠstudyを目指す。[6]肺癌発症マウス(c-Ha-ras遺伝子導入マウス)にIL-6関連遺伝子治療を行い、肺がん発症の予防効果を示す画期的な発見をした。さらに、治療効果を解明するとともに、他のサイトカイン遺伝子治療も組み合わせ、最も強力な治療法を開発する。一方、soluble TRAILを注射して、肺腺癌の治療モデルを開発する。[7]肺がんを対象とした分子標的治療の臨床評価法に関する研究が西條Drを中心に進展している。ひきつづき、種々の抗悪性腫瘍薬を用いた肺がん化学療法第Ⅰ/Ⅱ相試験を行い、国立病院・療養所のネットワークを活用した比較試験を展開する基礎データを得る。
結論
[1]抗RCAS-1抗体を用い、ヒト肺癌の悪性度・進行度と肺癌細胞上のRCAS-1発現と相関があり、予後診断法となることを明らかにした。[2]肺癌患者Tリンパ球とヒト肺癌が生着したSCID-PBL/huヒト癌治療モデルマウスを用いた。MAGE-3ペプチドでMAGE-3特異的なヒトキラーTを誘導しうる画期的な系を確立した。さらに、アデノウィルスベクターにCEA-geneを導入し、これを注射することにより腺癌特異的キラーTを誘導する肺腺癌遺伝子治療の系を確立した。[3]新しい肺癌拒絶抗原(Corixa研究所S.Gillis博士がクローニングした種々の抗原)、およびそれらに対するモノクローナル抗体を用い、本邦の肺がんの特異性を解析した。その結果、肺がん特異的な抗原、及びDNAを明らかにした。[4]肺癌発症マウス(c
-Ha-ras遺伝子導入マウス)にIL-6関連遺伝子治療(IL-6 gene + IL-6レセプターgene + gp130 gene)を行い、肺がんの治療効果・予防効果を解析した。その結果肺がん発症の予防効果を示す画期的な発見をした。[5]肺がんワクチンのPhase I studyは七條・伊東らによりなされ、がんに特異的なヒトキラーTのfrequencyの増加を明らかにした。[6]政策医療の国立病院・療養所呼吸器ネットワークの作製とこれを利用した、「切除不能局所進行型非小細胞肺がんに対する導入化学療法(MVP又はMnap)+ 胸部放射線療法同時併用後の追加化学療法(ドセタキセル)」の臨床第Ⅰ相試験を開始した。[7]肺がんを対象とした分子標的治療の臨床評価法に関する研究が西條Drを中心に進展している。[8]キラーTのTRAIL pathwayは肺腺癌を殺すが、扁平上皮肺癌や小細胞肺癌を殺さないこと、一方FasL pathwayは扁平上皮癌も殺した。小細胞肺癌に対するキラーT活性はTRAIL pathwayもFasL pathwayも有効ではなかった。すなわち、肺癌組織型とキラーT活性発現pathwayの画期的な相関を発見した。[9]肺がん合併率が非常に高い肺線維症において、ケモカインレセプターCCR1抗体により肺線維症の進展が抑制された。このことよりこの抗体を用いた肺線維症合併肺癌の治療予防が示唆された。

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