患者の視点も含めたがん診療情報ネットワークの有用性評価と機能向上に関する研究

文献情報

文献番号
200000144A
報告書区分
総括
研究課題名
患者の視点も含めたがん診療情報ネットワークの有用性評価と機能向上に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
江口 研二(国立病院四国がんセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 谷水正人(国立病院四国がんセンター)
  • 兵頭一之介(国立病院四国がんセンター)
  • 平家勇司(国立病院四国がんセンター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1)患者の満足度を指標とした通院・在宅がん医療の向上をめざして、介護センター・診療所・医師会・地域機関病院等をネット化し、通院・在宅がん患者の療養に有用なデジタル情報システムのモデルを構築し、患者・家族の満足度をそのシステムの重点的評価に加える。
2)愛媛県医療ネットワークを利用して医療従事者向けの遺伝医療情報の浸透をすすめ、遺伝性腫瘍を疑う患者・家族に対する対応相談システムを独自サーバーで開設し、がん遺伝子診断情報が患者側からどのような評価を受けるかを明らかにする。
3)がん画像診断・がん画像情報に関するネットワークの効率化として自動診断支援システム(CAD)を低線量CT検診車に搭載して、検診現場でのCAD支援診断の可能性と有用性について検討した。
研究方法
1)患者の満足度を指標とした通院・在宅がん医療の向上
定期抗癌剤化療および緩和治療がん患者の在宅療養支援として、四国がんセンターの病棟詰め所、かかりつけ医の外来診察室、四国がんセンターの薬剤科、訪問看護ステーション、松山市医師会、患者宅に多地点TV電話を設置した。入院患者から主治医の判断により対象を選択した。医療者側から定期TV回診を多地点を結んで行い、患者からは常時TV電話可能とした。 バイタルセンサでは、血圧、脈拍、体温、 尿回数、食欲睡眠の良否、呼吸困難の重軽等の質問を設定し1日1回自動送信させた。 研究計画は四国がんセンター倫理審査委員会の承認を得た。参加患者と家族に説明書を渡して説明し、同意書を得た。外部の研究参加者、NTT工事関係者には守秘義務遵守の誓約書の提出を義務づけた。
2)家族性腫瘍相談外来の運営上の問題点を洗い出しそれに対する対策を行なった。まず当院受診患者で家族性腫瘍を疑う患者を把握するために、当院入院データベースからretrospective な家族歴再調査を行うとともに、家系情報、患者診療情報を一括管理するプログラム・プロジェニーを立ち上げた。市販ソフトだが、使用者による機能拡張能がある。一般人向けと地域医師むけの2部構成の家族性腫瘍ホームページを開設した。家族性腫瘍相談専用のサーバーマシンを用意し、これを直接電話回線につなぐことでセキュリティー上問題の少ない家族性腫瘍相談用電子Mailシステムを構築した。
3)がん画像情報ネットワークの効率化モデル実験を開始した。CT検診車内で受診者1人毎に画像収録と同時にCADへ画像データを自動転送し解析結果をCRTモニター上に表示するシステムを利用して2名の読影医が撮影されてくるCT画像を逐一診断し、各々その直後にモニター上に表示されるCADの解析結果を記録して対比検討した。
(倫理面への配慮)
本研究では、研究計画を四国がんセンター倫理審査委員会の承認を得て実施し、かつネットワーク上のセキュリテイに関しては、ネットワーク上でのセキュリテイ管理を責任者を設けて守る。また、企業などの研究関与者には、個人での守秘義務遵守誓約書を文書として提出保管する。遺伝子診断情報に関しては、厚生労働省指針を遵守した。
結果と考察
結果=1)在宅電話は18例に実施した。在宅移行が不可能と思われた例(18名中12名)で、このシステムにより在宅への移行が実現した。18名の内5名は病院から100km以上離れた在宅患者であった。医療者の目から見てTV電話が有用であった事を要約すると、患者,家族の安心感.精神的安静はあきらかであった。患者の症状確認が容易で、対面診療とかわらず、TV電話では"もしもし"ではなく、自然に"こんにちは"の会釈ではじめられた。TV画面によるカテーテル操作指導、 薬剤の確認、服薬指導、発熱時,疼痛時の緊急度、重症度の判断などを行なったTV電話回診により 事前に予防措置の指示が可能であったため緊急電話は稀であった。実際に利用した患者、家族の意見については、一括解析を試みる予定である。
2) 院内で「病院受診中の大腸癌・卵巣癌・乳癌患者における家族歴再調査」及び「がんを多発する家系の検出のための家族歴調査」の病歴調査を実施した。現在までに、家族性乳癌を疑う患者34名、家族性大腸腺腫症を疑う患者3名、遺伝性非腺腫性大腸癌を疑う患者8名を認め、家族性腫瘍相談外来の対象例を抽出誌、同意の得られる例に関して家系・患者診療情報を一括管理するプログラム・プロジェニーに家系情報の入力を開始した。開設した家族性腫瘍ホームページは、一般用は遠隔地からも含めた相談窓口となり、地域医師向けは、医師会のサーバーと連動し医師の家族性腫瘍・遺伝知識の普及と、病診連携システムをもちいた患者の紹介・診療システムとした。電子メールによる遺伝相談として専用サーバーマシンと直接電話回線による家族性腫瘍相談用Mailシステムを構築した。
3)現在までに、約30例の車載型検診CTでのprospectiveなCAD性能に関する検討を行った。異常結節影の局在診断に関するCAD診断の成績は、検診の補助診断としては、耐えうるものであったが、処理時間などに改善すべき課題がある。
考察=1)現状でのTV電話の要求性能、機能は、640×480画素以上、14インチ 液晶程度のモニター、着脱可能なカメラヘッド、自動焦点および露光調節機能である。 多地点TV電話による病診連携は患者への説明や指導にズレが生じないように医療者間コミュニケーションの重要性を再認識させられ、医療者間情報交換はお互いの緊張を喚起し、医療の質の向上に寄与しうる。TV電話による診療の保険点数については現在外来診療での電話再診料として算定できるが診療報酬改訂で200床以上の病院では不可能である。TV電話は在宅患者を支援する連携医療であり、正当な評価と適正な保険点数化が望まれる。今回のTV電話システムをフルセット購入しようとすれば現状では1患者に70万円以上になる。次世代携帯電話IMT2000は、現在のISDNを上回る性能で1-2年後には稼働開始予定である。携帯TV電話の発展と普及により、将来的には外泊のような気軽に在宅医療に移行する状況が生まれるであろう、
2) 電子メールを用いた遺伝相談システムの構築と患者情報を一括管理した地域遺伝情報の管理、並びに患者情報をもとにした地域臨床治験システムの確立を目指している。家族性腫瘍相談外来を地域に解放し、地域からのクライアントの集積をめざす。また、各かかりつけ医にかかっている患者の家系情報を一括管理することによって、受診診療所の違いを越えた家系情報の統合を行い、家系情報全体を掌握するシステムを構築する。それによって、患者血縁者の全体像をつかみ、セキュリテイを確保しつつ、効率的な家族性腫瘍相談を行うことを進める予定である。
3)CADの車載型CADのメリットとしては、検診車内のCT技師にとっては異常影の存在に注目したうえで検診時に追加スキャンをおこないうること、従来の医師2重読影方式でなく、1名の読影医はCADの表示を参考にしながら迅速に検診結果を判定しうることなどの可能性がでてきた。
結論
1)については、がん医療における情報ネットワーク活用の在り方をモデルとして、患者・家族などの診療・療養に関する要望を実現できるがん診療体制を確立すべく、定性的には在宅医療に多地点電話システムの有用性が明らかになった。今後多数例での定量的解析をめざしている。画像伝送可能な携帯情報端末も導入を試みる。
2)に関しては、乳がん卵巣がん大腸がん患者などを対象とした院内家系調査と専用ソフトの立ち上げを行った。一般向けと地域医療連携との両面を備えたホームページの立ち上げと、セキュリーテイに配慮した遺伝相談メールシステムの設置をおこなった。今後ユーザーから見たそれらの評価分析を行う予定である。
3)に関しては、車載型CT とCAD のシステムに関する検討及び作成した調査票を使用して、今後デジタル検診での受診者の受診行動と情報ネットとの関連などに関するフィールド調査に入る予定である。

公開日・更新日

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