婦人科がんの発生・進展の分子機構解析に基づいた新しい分子診断・治療法の開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000142A
報告書区分
総括
研究課題名
婦人科がんの発生・進展の分子機構解析に基づいた新しい分子診断・治療法の開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
坂本 優(佐々木研究所附属杏雲堂病院婦人科 副部長)
研究分担者(所属機関)
  • 住浪義則(山口大学医学部産婦人科 講師)
  • 和気徳夫(九州大学生体防御医学研究所産婦人科  教授)
  • 大屋敷一馬(東京医科大学第一内科 教授)
  • 京 哲(金沢大学医学部産婦人科 講師)
  • 藤本次良(岐阜大学医学部産婦人科 講師)
  • 山田 亮(久留米大学医学部免疫学 助教授)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
(1)子宮頚癌分子診断・治療法の開発:検診は細胞形態に基づく細胞診によりほぼ確立しているが依然として偽陰性が問題である。また細胞診や組織診では異形成や進行癌の予後の正確な推定が困難で、それらを解決する新しい指標を用いた診断法開発が必須である。我々は、発癌・進展に関わる遺伝子、蛋白質等を検索し、それらを分子指標とする新規診断法と、それらを分子標的とした治療法の開発を目的とする。また末梢血中のSCC抗原mRNA を指標としたより低侵襲な扁平上皮癌診断法を開発し、さらに同抗原の腫瘍増殖への関与機構を解明し、新たな治療法を検索する。(2)テロメレースを標的とした遺伝子治療法開発:癌症例の9割以上で発現するhTERT遺伝子の転写活性化機構を解明するとともに、hTERTを標的とした、あるいは同遺伝子プロモーターを利用した極めて癌特異性の高い新規癌遺伝子治療法を開発する。(3)子宮体癌の分子診断・治療法の開発:ヒストン脱アセチル化(HDAC)阻害剤による癌分子標的療法の可能性を検討する。また内膜細胞におけるK-及びH-Rasを介するシグナル伝達機構を解明し、それらの発癌への関与機構を明らかにする。更に臨床検体のCGH、マイクロアレイ解析等により、発癌進展や組織学的グレードに関わる遺伝学的変化を解明し分子診断のための新たな指標を見出す。(4)卵巣癌薬剤感受性・耐性遺伝子の検索:卵巣癌における抗癌剤感受性・耐性の機構を解明し、化学療法個別化への応用を目指す。(5)血管新生制御:婦人科癌の増殖・進展に関わる血管新生因子の特徴を明らかにし、それら制御による制癌法開発を試みる。(6)癌免疫治療:予後不良である婦人科扁平上皮癌につき、癌退縮抗原遺伝子を単離して癌ワクチン標的分子を作製し、癌特異的免疫療法の開発を目指す。
研究方法
(1)子宮頚部癌化過程の各段階の細胞株、臨床材料に対し、 CGH 、FISH解析を行い遺伝学的変化を検索し、更に多数の癌関連遺伝子の発現をマイクロアレイ法により解析し、診断に有用な遺伝子を選択する。またSCC抗原遺伝子を導入した腫瘍においてSCCAアンチセンス導入、免疫組織学的検討等を行い、同抗原の腫瘍増殖における機能を調べる。更にSCC抗原 mRNAを標的としたasymmetric semi-nested RT-PCRによる末梢血中浮遊癌細胞の検出を多数の症例で検討し、有効性を検討する。(2)失活型 hTERT遺伝子 であるDN-hTERTを含むウイルスベクターを作製して腫瘍細胞に導入し、細胞増殖能、hTERT発現、テロメア長の経時的変化からその増殖抑制効果を検討する。またhTERT遺伝子活性化機構解明のため、プロモーターに作用する転写因子や、同領域のヒストンアセチル化状態を検索する。更に癌細胞特異的に転写活性を示すhTERTプロモーターを、自殺遺伝子やアポトーシス誘導遺伝子上流に配置した新規遺伝子治療用ベクターを作製して細胞導入し、細胞死誘導効果を検討する。(3)臨床検体に対しCGH、マイクロアレイ解析を行い、発癌・進展に関わる遺伝学的変化を検索し、既知の遺伝学的・臨床病理学的パラメーターとの相関を検討する。またHDAC阻害剤Sodium Butyrate(NaB)を体癌培養細胞に添加し、細胞老化誘導およびp21、pRbの発現を解析する。更に子宮内膜細胞に活性型K- 及びH-ras遺伝子を導入し、表現型変化と下流分子活性化を解析する。(4)抗癌剤感受性卵巣癌細胞株、およびそれから
分離した耐性株につきマイクロアレイ解析を行い、耐性獲得に伴い発現の変化する遺伝子群を検索する。臨床例についても同様に解析し、薬剤感受性に関わる遺伝子発現を検索する。(5)婦人科癌において、bFGF、VEGF、PD-ECGF、IL-8、HGF等の各種血管新生因子、またest-1、HOXD3、COUP-TF・等の血管新生に関与する転写因子につき、癌組織内での局在や密度、癌の脈間侵襲の有無や進展様式、予後との関連を解析する。(6)扁平上皮癌および腺癌由来のcDNAライブラリーより拒絶抗原遺伝子を単離し、CTLの認識するペプチド同定と、そのCTL誘導能を評価する。また既知の7種の癌拒絶抗原から婦人科癌に適用可能な分子を選択し、第I相臨床試験により、安全性と有効性を確認する。
(倫理面への配慮): 臨床場面で研究を実施する場合には、その目的を充分時間をかけ説明して患者さんの理解と同意を得た場合にのみ、健康を害する事のないよう充分な配慮のもとで検体採取した。第・相臨床試験は久留米大学倫理委員会で審査承認済みのプロトコールに基づき実施した。
結果と考察
本年度の主な成果は以下の通りである。
(1)坂本らはCGHにより明らかにした候補癌遺伝子ZNF217が子宮頚癌で高頻度に増幅することを見出し、更にマイクロアレイ解析により頚部発癌・進展に関わる遺伝子発現変化を見出しつつある。住浪らはSCC抗原発現腫瘍内で単核球の減少を認め、更にBoyden Chamber法による解析から、同抗原がNK細胞化学遊走能阻害作用をもつことを示した。またSCCA mRNAを指標とした末梢血中浮遊癌細胞検出では、10コピー/μgRNA以上を陽性とすると、感度80.6%、特異度93.3%で癌症例を検出でき、治療後 4 週目、また半年後で再発を認めない症例では陰性となることから、癌早期診断、再発予知への応用可能性を示した。(2)大屋敷らはDN-hTERT遺伝子を導入した細胞においてテロメレース活性の低下、テロメア長短縮に続き、細胞増殖停止、アポトーシス誘導、造腫瘍性の著しい低下を認め、増殖抑制効果を確認した。また京らは、ER、MZF2等がhTERTプロモーターに直接結合し転写制御することを見出し、更に同プロモーター領域のヒストン蛋白質が癌細胞で特異的にアセチル化されていることを示した。また2-5AアンチセンスhTRによる子宮頚癌細胞の増殖抑制に成功し、さらにcaspase8およびBAX遺伝子上流にhTERTプロモーターを配置したベクターを作製して細胞導入し、癌細胞特異的にアポトーシスを誘導でき、正常細胞への毒性が殆ど無いことを確認した。(3)和気らは NaBは癌細胞においてpRbの活性に関わらずp21の発現を伴い細胞老化を誘導することを示した。また子宮内膜細胞において K-Ras はアポトーシス誘導、H-Rasはアポトーシス回避と、別々の機能を有することを示した。(4)坂本らはタキソール耐性卵巣癌細胞においてmdr-1の他にIGFBP3やGDI遺伝子の発現増加を見出した。(5)藤本らは子宮頚癌においてPD-ECGF、IL-8およびets-1が、卵巣癌ではVEGF165が予後と相関し、有用な予後マーカーとなることを示した。更に体癌ではbFGFが臨床進行期と相関し、癌増殖進展に関与する血管新生の誘発分子となることを示唆した。(6)山田らは癌拒絶抗原6種につき、高度進行・再発婦人科癌患者に癌ワクチン臨床第・相試験を実施し、注射部位の発赤・腫脹以外の有害事象を認めず、末梢血中CTL前駆細胞頻度の増加を認めた。
結論
1)子宮頚癌のマイクロアレイ解析により頚部の発癌・進展に関わる遺伝子発現変化が明らかになりつつあり、今後は、それらの変化と細胞形態との相関を検討し、予後推定可能な細胞診断法確立と検診精度向上を目指す。また扁平上皮腫瘍マーカーであるSCC抗原の、抗癌剤、放射線等によるアポトーシスの抑制作用およびNK細胞の化学遊走能抑制作用を見出し、同抗原の腫瘍増殖への関与機構を示した。更にSCCAmRNAを指標とする末梢血中腫瘍細胞検出法により、高感度・特異的に癌症例を検出した。
2)テロメレース活性に重要なhTERT遺伝子のプロモーター領域を単離し、その発現調節機構を解明した。特に、hTERTプロモーター領域のヒストン蛋白のアセチル化状態がテロメレース活性化を決定することが判明した。さらにhTERTを標的とするDN-hTERTを用いた遺伝子治療法、hTERTプロモーターを利用した遺伝子治療法を開発しin vitroで有効性を確認、極めて癌特異性の高い新規治療法開発の可能性を強く示した。
3)NaBにより発現誘導されるp21はpRb依存性及び非依存性の経路を介し細胞老化を誘導することを示し、NaBが分子標的療法の手段となりうることを示した。
4)卵巣癌において抗癌剤耐性と相関する遺伝子発現変化を見出し、遺伝子情報による感受性薬剤選択や耐性予測の可能性を示した。
5)子宮頚癌で血清PD-ECGFの発現が臨床進行期や予後と相関し、診断マーカーとなりうることを示した。この発現は血管新生の転写因子であるets-1の発現とよく相関した。
6)癌拒絶抗原6種につき高度進行・再発婦人科癌患者に癌ワクチン臨床第・相試験を実施、注射部位の発赤・腫脹以外の有害事象を認めず、末梢血中CTL前駆細胞頻度の増加を認めた。

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