院内がん登録の整備拡充とがん予防面での活用に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000141A
報告書区分
総括
研究課題名
院内がん登録の整備拡充とがん予防面での活用に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
津熊 秀明(大阪府立成人病センター)
研究分担者(所属機関)
  • 味木和喜子(大阪府立成人病センター)
  • 井上真奈美(愛知県がんセンター)
  • 岡本直幸(神奈川県立がんセンター)
  • 南優子(宮城県立がんセンター)
  • 松田徹(山形県立成人病センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がん予防研究にあっては、がん死亡だけではなく、がん罹患をも把握する必要があり、これには、病院及び地域(府県)レベルの高精度のがん登録が不可欠である。本研究では、これまでに院内がん登録の標準案を一般病院用とがん専門診療施設用に分けて示し得たことを踏まえ、標準案の普及をはかるとともに、集積されるデータの協同利用を推進する。具体的には、1)がん専門診療施設でのがん診療の実態とその成果を、院内登録データをもとに協同集計・公表してゆくための調査研究、2)院内登録と連携を保った形でのライフスタイル等の疫学情報データベース構築と活用によるがん予防研究の推進、3)院内登録に基づく新しい診断・治療技法の評価、4)前がん性病変・状態の患者登録とリスク定量・修飾要因の分析、5)院内登録と各専門科診療データベースとの連携に関する研究開発を実施する。本年度はこれらの内、1)、2)、4)の課題を中心に研究を進めた。
研究方法
1.分担研究者が所属する5つの全がん協施設で、標準方式による院内登録の構築を進めるとともに、がん診療の実態とその成果を協同集計し、公表する為のパイロット研究を行った。登録対象、収集項目・定義の異同、標準方式との相違点などを事前に調査した上で、5施設が協同して収集・分析が可能な項目を設定した。各施設で必要な手続きを経た後、5年目の予後調査が終了している1993年診断の、主要5部位(胃、大腸、肺、女性乳房、及び子宮頚部)の浸潤がんの診断・治療・予後情報を、個別データとして中央に集め、予備解析を行った。院内がん登録における個人情報の安全保護対策、及び登録資料の利活用についてのガイドラインを起草し、討議を経て、研究班ガイドラインとして策定、公表した。
2.昨年度に引き続き、効果的な肝がん対策の提言を行うべく、院内がん登録のシステムとデータを駆使して次の研究を行った。1)ウイルス性慢性肝疾患の肝発がんに対する長期予後調査結果に基づく予測式の考案:大阪府立成人病センターでは、一定の基準を満たす外来のウイルス性慢性肝炎・肝硬変患者について、肝がん早期発見・早期治療の評価事業を実施している。これに登録された1,588人のデータを用いた。肝がん発生の危険因子を抽出するとともに、登録から5年以内の肝がん発生予測式を考案した。これには最短5年の観察期間が保証される1994年診断までの1,392例のデータを用い、ロジスティック回帰分析から得た回帰式に基づき、肝がん罹患確率を求める式を導いた。2)C型慢性肝炎に対するインターフェロン治療短期効果予測式の作成:既報の6施設協同調査で集積したインターフェロン治療実施のC型慢性肝炎581例について、ロジスティック回帰分析を行い、これより得た回帰式からインターフェロン治療に対して著効が得られる確率を予測する式を作成した。3)外来通院中のウイルス性慢性肝疾患患者を対象とした肝がん早期発見・早期治療の比較対照試験:一定の基準を満たすウイルス性慢性肝炎・肝硬変患者を検診部門で登録し、誕生日が奇数の患者には検診部門で肝エコー・血清AFP値を、病態により予め定めた3ないし6ヶ月の間隔で行い、未受診の場合は受診勧奨を行う(定期検診群)。一方、誕生日が偶数の患者には通常の外来診療を行う(対照群)。両群の肝がん・慢性肝疾患死亡率をIntention-to-treatの枠組みで比較する。肝がん死亡の減少を指標として中間解析を行った。
結果と考察
1.院内がん登録協同集計の為のパイロット研究:5施設合計の部位別登録数は、胃1,052、大腸613、肺712、乳房696、子宮頚部230であった。入院割合は、施設により72~100%に分布した。この差は「外来のみで終了した患者」を登録対象に含めているかどうかの違いに起因していた。なお標準方式では外来患者も含めるべきとしている。臨床進行度不明の割合が7~19%に分布した。標準方式では必須項目ではなく、推奨項目としているが、参加施設により直接には収集していなかったり、登録対象に外来患者を含む場合に情報が欠落しがちであった。乳がんの「手術と放射線療法」の併用割合を取り上げたが、2%~21%と大きく開いた。乳房温存手術後の放射線治療が外来で実施されることが多いため、この割合が低い施設では情報の把握漏れがあると推測される。5年目の生死不詳割合は、2施設の16%、6%を除けば1%以下で、院内登録として一括して予後調査を行っている場合には判明率が極めて高かった。5年相対生存率は、胃62~81%、大腸64~86%、肺19~36%、乳房80~91%、子宮頚部45~99%と、どの部位も予想以上に大きな差が検出された。これには、臨床進行度、登録対象、予後不詳割合、年齢分布、また、部位・施設によっては少数例故の単なるバラツキ等の影響があると推測した。
2.1)ウイルス性慢性肝疾患の肝発がんに対する長期予後調査結果に基づく予測式の考案:登録された1,588人(男969名、女619名)の平均年齢は56.5才、登録時の臨床診断は、慢性肝炎75.8%、肝硬変24.2%、ウイルスマーカーは、HBsAg(+)10.8%、HCV-Ab(+)73.5%であった。平均観察期間は8.1年、観察締切日において生存74.7%、死亡24.4%、生死不明0.9%であった。なおこの間の肝がん発生数は342例であった。5年の観察期間が保証される1994年診断までの1,392例のデータを用いてロジスティック回帰分析を行った。その結果、性、年齢、喫煙習慣、肝硬変の有無、もしくは血小板数、AFP値の6つの変数が予測因子として同定された。これらを使って、5年間の肝がん罹患確率を求める式を導いた。なおこれには、肝硬変の有無に関する判断を含むものと、これを含まず、代わりに血小板数を用いる、2つの方式を作成した。これより各要因の回帰係数と説明変数の値を回帰式に代入することで、肝がん罹患確率を算出できるようになった。例えば40歳代の慢性肝炎の男性で、AFP高値の場合は、現喫煙者で18 %、過去喫煙者で13 %、非喫煙者で9 %と計算された。2)
C型慢性肝炎に対するインターフェロン治療短期効果予測式の作成:回帰分析の結果、HAI score IV HCV-serotype、HCV-RNA量の3変数が予測因子として同定された。これらを使って、例えば、門脈域の線維拡大のある場合、HCV-serotype が2型で、RNA量が低値なら著効確率が52%、一方、同じ門脈域の線維拡大のある患者でも、serotypeが1型で、RNA量が高値なら10%と計算された。3)外来通院中のウイルス性慢性肝疾患患者を対象とした肝がん早期発見・早期治療の比較対照試験:研究を開始した1992年以降98年末までの登録数は、定期検診群567人(検診参加拒否25例を含む)、対照群513人の計1,080人となった。平均観察期間は48ヶ月であった。観察締切日での生死不詳は検診群2人、対照群4人と少数であった。検診群での死亡数は37人、対照群では26人であった。肝疾患死についての5年累積死亡率は、前者で5.5%、後者で4.0%と、有意差はないがむしろ検診群で高くなった。ただしこれには検診群に男性、肝硬変とAFP高値例が若干高かったことが影響していた。すなわち、両群の背景因子の違いを調整した肝疾患死についての死亡ハザード比は0.98と僅かに1を下回った(有意差なし)。Subcategory解析では、HBs抗原陽性例に限定した場合には0.68と小さくなる傾向があった。しかしHCV関連では1.0と全く差がなかった。検診群から55例(検診外発見の3例を含む)、対照群から38例の肝がんが診断されたが、肝がん症例の5年生存率は、検診群47%に対し、対照群31%と検診群で高くなっていた。中間解析結果ではあるが、以上は、肝がんの早期診断には一定の成功を収めているが、死亡減少効果は認められず、早期診断・早期治療の効果を支持する根拠はないことを示す。
結論
1)院内がん登録の整備拡充については、分担研究者が所属する5つの全がん協施設で、標準方式による院内登録の構築を進めるとともに、がん診療の実態とその成果を協同集計し、公表する為のパイロット研究を実施し、次年度以降の本格調査に備えた。また、院内がん登録における個人情報の安全保護対策、及び、登録資料の利活用について、ガイドラインを策定し、WEBで公表する他、冊子としてまとめ、全がん協等の関係施設に配布した。
2)院内がん登録のがん予防面での活用の分野では、肝がん対策・C型肝炎対策が保健医療分野の火急の課題となっていることから、院内がん登録のシステムとデータを駆使して、ウイルス性慢性肝疾患の肝発がんに対する長期予後調査結果に基づく予測式の考案と、C型慢性肝炎に対するインターフェロン治療短期効果予測式の作成した。さらに、外来通院中のウイルス性慢性肝疾患患者を対象とした肝がん早期発見・早期治療の比較対照試験を実施し、肝がん死亡の減少を指標とした中間解析を行った。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)