大規模地域・職域健診データに基づくがん予防とがん対策への活用と評価 (総括研究報告書) 

文献情報

文献番号
200000140A
報告書区分
総括
研究課題名
大規模地域・職域健診データに基づくがん予防とがん対策への活用と評価 (総括研究報告書) 
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
徳留 信寛(名古屋市立大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 永谷照男(名古屋市立大学医学部)
  • 武隈清(名古屋市立大学医学部)
  • 小嶋雅代(名古屋市立大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
某健診機関が実施している地域・職域健康診断時の身体計測値、問診票・生活習慣(食生活、喫煙、飲酒、運動習慣など)調査票調査、血清生化学検査値(肝機能、血清脂質、HbA1cを含む)などのデータを用いて、横断研究、症例対照研究およびコホート研究などを行い、がんを含む生活習慣病予防に資するものである。
研究方法
実際のアプローチとしては、各種健診データをコード化して入力し、同一人の照合、時系列併合などを行いデータベースの構築を行っている。データ形式が均一な過去5ヶ年間(1996年~2000年)の総受診者249,305名のうち、年齢20歳~80歳に限った延べ人数は243,278名(男145,599名、女97,679名)であり、ネット対象者数は87,726名(男49,451名、女38,275名)であった。この対象者に関して、食習慣、身体的特性、血液生化学的検査値に関する集計を行い、対象集団の概要の把握を試みた。今後、ネット対象者数87,726名について、地域・職域保健管理者への照会ないし住民票照会を行い、生死を確認する。死亡者については、死亡診断書を照会閲覧して原死因を特定する。がんを含む生活習慣病による死亡者を症例とし、生存者のなかから対照群を選択してコホート内症例対照研究を実施する。さらに、各種健診データに基づく、多要因およびその交互作用と疾病との関連を評価するコホート研究を展開する。これまでのデータ利用については職域・地域の長に承諾を得ている。なお、各個人からデータ利用への拒否ができるよう配慮している。今後は、当然ながら、各個人から調査参加へのインフォームドコンセントを入手する。データは主任研究者が責任をもって厳重に管理し、個人情報の漏洩がないように留意する。
結果と考察
まず、対象者の食習慣、身体的特性、血液生化学的検査値に関する集計を行ったので、ここにその概要を報告する。パン・麺類については、男女とも、約半数のものが週1-2回の摂取すると回答し、その比率は年代が進むにつれ増加する傾向が認められた。卵については、毎日食べると回答したものの比率が、男女とも年代が進むにつれ、増加する傾向が見られた。牛乳・ヨーグルトについては、毎日食べると回答したものの比率が、男女とも年代が進むにつれ、増加する傾向が見られた。肉類については、週3-6回摂取すると回答したものの比率が、男女とも60歳代、80歳代を除く全世代で最も高かった。魚介類については、週3-6回摂取すると回答したものの比率が、男女とも60歳代までは、最も高かった。大豆製品については、50歳代までは、週1-2回もしくは、週3-6回摂取すると回答したものの比率が男女とも最も高かったが、60歳代以降は毎日摂取すると回答したものの比率が最も高かった。緑黄色野菜については、40歳代までは、週3-6回摂取すると回答したものの比率が男女とも最も高かった。一方、60歳代以降は毎日摂取すると回答したものの比率が最も高かった。その他の野菜については、男性では、50歳代までは週3-6回の摂取と回答したものの比率が最も高く、60歳代以降は毎日摂取すると回答したものの比率が最も高くなった。一方、女性では、20歳代は週3-6回の摂取と回答したものの比率が最も高かったが、30歳代以降は、毎日摂取すると回答したものの比率が最も高くなった。海草類については、男性では20歳代から70歳代まで、週1-2回の摂取と回答したものの比率が最も高かった。一方、女性では、20歳代、30歳代では、週1-2回の摂取と回答したものの比率が最も高かったが、それ以降の世代では、週3-6回もしくは毎日食べると回答したものの比率が最
も高かった。果物については、男性では、20歳代から50歳代までは、週1-2回の摂取と回答したものの比率が最も高かった。それ以降の世代では、週3-6回もしくは毎日食べると回答したものの比率が最も高かった。一方、女性では、20歳代は、週1-2回の摂取と回答したものの比率が最も高く、30歳代、40歳代では、週3-6回の摂取と回答したものの比率が最も高く、50歳代以降は毎日食べると回答したものの比率が最も高かった。菓子・清涼飲料水の摂取については、毎日食べると回答したものの比率が、男性では20歳代32.4%、30歳代27.8%、40歳代23.7%、50歳代22.2%、60歳代26.6%、70歳代38.1%であり、40歳代、50歳代で低くなっていた。一方、女性で毎日食べると回答したものの比率は、年代の進行とともに漸減する傾向が認められた。油類については、男女とも全世代にわたって週3-6回の摂取と回答したものの比率が最も高かった。
次に、身体的特性、血液生化学的マーカーについて概説する。BMI25以上の男性肥満者の比率は、30歳代で21.0%、40歳代で20.2%、50歳代で18.1%であった。これは、平成10年度の国民栄養調査の結果(30歳代から50歳代でのBMI25以上のものは、約30%前後)と比較して低かった。一方、女性では、30歳代で13.9%、40歳代で19.5%、50歳代で23.5%であり、国民栄養調査の結果(30歳代:13.9%、40歳代:19.5%、50歳代:26.3%)とほぼ等しかった。一方、近年問題となっている若年女性のやせについては、20歳代で8.7%であり、国民栄養調査の結果(20歳代で20.3%)より低かった。
血圧異常者の頻度は、男性は20歳代より、女性では30歳代より増加が目立ち、これは国民栄養調査の結果と一致していた。尿蛋白、尿糖は、男女とも(-)のものが大部分であった。白血球が増加しているものの比率は、30歳代男性で5.0%、40歳代男性で5.9%と他の世代に比べて高かった。男性では、血色素量の低下したものの比率は、50歳代以降、漸増していた。一方、女性では30歳代、40歳代が高率で以後漸減し、70歳代から再び増加する傾向が見られた。総コレステロール値が231mg/dl以上のものは、男性では、30歳代から70歳代まで15から20%前後の比率で見られ、世代間で大きな違いを認めなかった。一方、女性では、40歳代では14.3%であったのが、50歳代以降では30%程度に認められ、世代間で違いが認められた。HDLコレステロール異常者の比率は、50歳代までは男女とも5%未満の低率であった。60歳代以降では、女性では5%以上であるのに対し、男性では依然として5%未満であり男女差が見られた。中性脂肪の高値異常者は、男性では30歳代で15.4%、40歳代で18.9%、50歳代で16.3%であった。一方、女性では、30から50歳代において10%未満であり性差が見られた。トランスアミナーゼの異常者は、GPTについては、男性では、30歳代で16.4%、40歳代で12.2%、50歳代で9.1%であり、他の世代に比べて高率であった。一方、女性では全世代にわたって比較的低率であった。γ-GTPの異常者は、男性では40歳代で28.1%、50歳代で29%であり、この世代が最も高率であった。女性では、全世代にわたって異常者の比率は高くなかった。尿酸は、男女とも全世代にわたって、正常者の占める割合が90%以上であった。血中尿素窒素は、男女とも正常者の占める割合が、全世代にわたって95%以上であった。クレアチニンは、男女とも正常者の占める割合が、全世代にわたって98%以上であった。血糖高値のものの比率は、男女とも50歳代、60歳代が最も高く、50歳代の男性で19.4%、女性で9.5%であり、60歳代では男性19.5%、女性10.8%であった。HbA1cの異常者は、男女とも高年代ほど高率の傾向を示し、男性では40歳代9.5%、50歳代14.7%、60歳代16.7%、70歳代15.5%であり、一方、女性では、40歳代7.6%、50歳代12.4%、60歳代13.9%、70歳代14.2%であった。
このデータベースの一部を用いて、各種健診データに関する横断研究を試みたが、コーヒー摂取量に比例してγ-GTPが低下すること、緑茶摂取量に比例して総コレステロールが低下すること、果物摂取に比例して収縮期および拡張期血圧が低下すること、男性喫煙者は牛乳、果物、緑黄色野菜の摂取が少ないことなどを観察した。また、喫煙者にHbA1c高値のものが多かったが、それは果物および野菜摂取が少ないことと関連していることが示唆された。
結論
わが国のがん疫学の分野では、特定の健診機関のデータを用いた横断研究、症例対照研究およびコホート研究はあまり実施されておらず、本研究はそのモデルとなりうる。この研究の短所は、対象者には職域労働者が多く健常労働者影響があること、食生活調査項目が少ないこと、この地域にはがん登録がなく罹患が把握できないところである。しかし、本研究の長所は、同一機関で血清生化学検査が行われ精度管理されており、大集団を研究対象としてエントリーできる点などであり、がん予防およびがん対策への貴重なデータベースとなりうる。

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