浸潤・転移の分子機構に基づいた転移の予防及び新しい治療法の開発

文献情報

文献番号
200000139A
報告書区分
総括
研究課題名
浸潤・転移の分子機構に基づいた転移の予防及び新しい治療法の開発
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
竜田 正晴(大阪府立成人病センター)
研究分担者(所属機関)
  • 明渡均(大阪府立成人病センター)
  • 向井睦子(大阪府立成人病センター)
  • 飯石浩康(大阪府立成人病センター)
  • 伊藤和幸(大阪府立成人病センター)
  • 亀山雅男(大阪府立成人病センター)
  • 中泉明彦(大阪府立成人病センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班では(1)浸潤を定量化したin vitro浸潤モデルと(2)ヒトにみられるような発癌から転移に至る過程を研究しうる転移動物モデルを開発した。浸潤モデルを用い、がん細胞の浸潤、転移の分子機構とシグナル伝達系の解明を行い、基礎研究により得られた成果に基づき、浸潤・転移抑制物質を検索し、さらに新たに開発した転移動物モデルを用い、その有効性を検証するという一貫した研究システムを構築した。この一貫した研究システムを用い、本年度は、さらに強力な浸潤・転移抑制作用を有する薬剤を検索し、その抑制機序を解明するとともに、転移動物モデルを用い、その有効性と安全性を確認しヒトがん転移の予防に臨床応用した。
研究方法
(1)浸潤抑制物質の検索とその抑制機序の解明:これまでに、リゾフォスファチジン酸(LPA)が強力な浸潤誘発物質であること、及びその誘導体であるcyclic PAがcyclic AMPの上昇を介して浸潤を強く抑制することを示した。本年度は、cyclic PAの浸潤抑制作用のシグナル伝達系を検討した。浸潤の程度は、我々が既に開発したin vivo浸潤モデル(単層培養浸潤モデル)を用い測定した。この培地にcyclic PAやフルバスタチンなどの薬剤を添加し、MMI細胞(ラット腹水肝癌細胞)の浸潤に及ぼす効果を検討した。(2)動物転移モデルを用いた転移抑制物質の検索:Wistar系雄性ラットに発癌剤azoxymethane(7.4 mg/kg)を週1回、10週間皮下注射するとともに、同時にオリーブ油に懸濁した消化管ホルモンであるボンベシン40 μg/kgを隔日に投与すると、実験開始45週目に腹膜播種性転移が高率に認められる。選択的cyclooxygenase-2阻害剤nimesulideを実験開始16週目から実験終了まで経口投与する。すべてのラットを45週間目に屠殺し、大腸・小腸腫瘍の有無、腹膜播種性転移の有無について、肉眼的および組織学的に検討した。
結果と考察
(1)これまでにリゾフォスファチジン酸(LPA)が強力な浸潤誘発物質であること、及びその誘導体であるcyclic PAが浸潤を抑制することを示した。本年度はcyclic PAがRho Aの活性化を抑制することにより、浸潤を抑制することを明らかにした。(2)これまでに、Rho A及びその標的蛋白であるRho kinase(ROCK)が浸潤、転移に密接に関与していることを示した。本年度は、Rho-ROCKの下流でcofilinのリン酸化を介してactin dynamicsを制御しているLIM kinase(LIMK)が浸潤能を亢進させることを明らかにした。(3)Bombesinを用いた大腸癌腹膜播腫モデルにおいて、選択的COX-2阻害剤nimesulideが転移を抑制することを示した。(4)大腸癌の肝転移症例では高ガストリン血症がみられ、ガストリンが大腸癌肝転移の増殖を促進することを実験的に示した。ガストリン拮抗剤proglumideと制癌剤を肝転移根治切除後の患者に投与し、retrospectiveに転移を抑制する成績を得た。本年度から、肝転移根治切除後の抗ガストリン剤 + 制癌剤の効果を、Randomized Control Trialにて検証する治験を開始した。(5)高脂血症治療薬であるHMG-CoA還元酸素阻害剤FluvastatinがRhoの活性化を阻害し、膵癌の浸潤、転移を抑制することを実験的に明らかにした。この成績に基づき、膵癌術後の肝転移予防効果に関する臨床治験(パイロットスタデー)を開始した。(6)骨粗鬆症治療薬オステン(Ipriflavone)が乳癌の骨転移巣の増大を抑制することを明らかにし、既に形成されたがん転移巣の治療が可能であることを示した。
結論
in vivo、in vitroの浸潤転移モデルを用
い、浸潤・転移の分子機構を解明し、その成果に基づき新しい浸潤・転移抑制物質シロスタゾール、Y-27632、ゲニスティン、アピゲニン、フルバスタチン、プログロミド、ニメスリドを見出し、プログロミドおよびフルバスタチンによる転移予防に関する臨床治験を開始した。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)