分子生物学、分子免疫学を駆使した微小残存、転移病変の評価ならびに適切な集学的治療と予後推測法の開発

文献情報

文献番号
200000137A
報告書区分
総括
研究課題名
分子生物学、分子免疫学を駆使した微小残存、転移病変の評価ならびに適切な集学的治療と予後推測法の開発
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
畠 清彦(財団法人癌研究会附属病院 化学療法科)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤良則(財団法人癌研究会附属病院 化学療法科)
  • 高橋俊二(財団法人癌研究会附属病院 化学療法科)
  • 國土典宏(財団法人癌研究会附属病院外科)
  • 山口俊晴(財団法人癌研究会附属病院外科)
  • 中森正二(大阪大学医学部第2外科)
  • 石坂幸人(国立国際医療センター難治疾患研究部)
  • 川上潔(自治医科大学生物学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
癌に対して多くの手術療法や化学療法、放射線療法が開発され、行われている。手術後や化学療法後に早期に再発する症例も依然として存在することも事実である。各種臓器の原発とするがんに対て特異的なマーカーである抗原や遺伝子の発見は、多くの期待を持って今後の癌の臨床経過や予後を推測させ、早期に対処できるようになることが期待される。しかし現実にはまだ多くの症例での検討や基礎的味付けの必要な部分が多く残っている。そこで社会のニーズに答えるような臨床的検討から、微小残存病変や微小転移病変の有無の評価やその結果を生かして予後を推測することに生かせれば患者さんへの恩恵や社会への貢献度が高いと考えられる。そのための基礎的および臨床的研究を行う。
1。微小残存病変、微小転移病変の評価
白血病や悪性リンパ腫においては転写因子を含む融合遺伝子の異常が、残存病変の検出に有用とされている。細胞周期やbcl-2ファミリーの異常が知られている。固形腫瘍の一つである乳癌では、brca1やp53遺伝子、サイトケラチンに対する抗体で検出される。また大腸癌細胞に対するモノクローナル抗体を作成、腫瘍細胞特異的に発現している抗原の認識部位のペプチド配列を決定することができた。この抗体を用いて残存病変や微小な転移病変は検出され、腫瘍周囲の破骨細胞や支持細胞との相互作用を検討できる。瘍組織の周囲の応答反応についても検討する。胃癌、大腸癌の臨床例では、糖鎖構造の変化を認識する抗体を用いてリンパ節、肝臓への転移の有無や予後との関係をさらに追求して、残存病変の検出を向上させる。今後胆のう癌、膵癌に対するモノクローナル抗体を作成しているところであるので、癌種を広げて検討する。臨床検体の使用については各施設のIRB、厚生省の遺伝子解析研究の倫理指針案に従う。
2。病変における細胞の特性の研究
p53ファミリーやアポトーシス関連遺伝子の発現の検討と早期再発する症例の予後を検討する。p53依存性または非依存性の細胞死は、多くの腫瘍疾患において予後を左右するような高リスク群の分類と早急な対処法を検討することが可能となる。細胞周期のチェックポイント機構に関係するホメオボックス遺伝子の発現、Histone Acetyl Transferase (HAT)の発現を腫瘍細胞および微小残存病変、転移病変における細胞で検討する。ヒストンのアセチル化は、現在白血病を始めとする癌に細胞死を誘導する薬剤の開発でも注目されているところである。
研究方法
白血病細胞を用いてアポトーシスに対して抵抗性の機序を研究する。化学療法や造血細胞移植術において、自己血では腫瘍細胞の混入のないことが前提である。しかしまだ十分に残存病変の評価がされているわけではない。腫瘍細胞の除去を目標として研究する。大腸癌細胞を免疫して得られた抗体は認識部位を示す7ペプチド構造が決定されたので、この抗体を用いて臨床検体での微少残存病変、微少転移病変の検出を試みる。内皮細胞に準じて腫瘍細胞との相互作用を研究する。これらの抗原性や悪性度、転写因子などの関連を基礎的に検討する。
結果と考察
研究結果=内皮細胞由来インターロイキン8による細胞死の抵抗性の機序としてCD13の高発現が見い出された。CD13抗原については、アミノペプチダーゼNとして活性を有する蛋白であり、白血病の中でCD13陽性群が、我々の見い出した内皮細胞由来インターロイキン8に対して耐性であり、アミノペプダーゼNに対する酵素阻害剤により細胞死を促進、耐性機序の回復ができた。また他にβ2-ミクログロブリンが細胞死の誘導因子である事がわかった。さらにこの蛋白の発現から薬剤耐性の機序のひとつに関係しているという報告があり、検討中である。
考察=CD13, _2-ミクログロブリンについては発現と薬剤耐性や予後を左右する再発を予測する因子であるかどうかは、今後の検討課題である。また腫瘍細胞由来上皮細胞や血管内皮細胞にCD13が発現している報告もあり、今後の課題である。また_2-ミクログロブリンについては大腸癌においても遺伝子発現、蛋白発現と薬剤耐性との関係を検討している。
結論
白血病においてはCD13抗原が発現していると、内皮細胞由来インターロイキン8による細胞死に対して抵抗性があり、このCD13はアミノペプチダーゼN活性が相関しており、阻害活性のある抗体または酵素阻害剤を添加すると、抵抗性であった細胞死が、克服されて、細胞死をおこすようになった。この現象を利用して、CD13が高発現している白血病では、酵素阻害剤を加えた化学療法によって寛解に導入できた。今後再発や予後との関係を示していく必要がある。

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