SNPs(Single Nucleotide Polymorphism)を用いた相関解析による家族性卵巣癌関連遺伝子の単離と解析(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000133A
報告書区分
総括
研究課題名
SNPs(Single Nucleotide Polymorphism)を用いた相関解析による家族性卵巣癌関連遺伝子の単離と解析(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
田中 憲一(新潟大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 谷上信(大塚GEN研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
卵巣癌は、非常に予後が悪い疾患であると同時に近年増加傾向にあり、本疾患の原因究明、予防法の確立、治療成績の向上は、本症患者のみならず国民的な課題となっている。近年、家族性乳癌卵巣癌の原因遺伝子としてBRCA1、BRCA2が分離されたが、家族性卵巣癌家系への関与は約半数程度の家系に認められるのみであり、残りの卵巣癌家系における原因遺伝子の究明が強く求められている。本研究の最終目標はBRCA1、BRCA2以外の家族性卵巣癌原因遺伝子を新規に単離、同定することであり、また同時に、本邦におけるBRCA1、BRCA2両遺伝子の卵巣癌への関与を解明することも目的として研究を行ってきた。本年度は新規原因遺伝子単離に向けて確実な候補領域の限定を行い、その領域内から候補遺伝子を限定するために、以下のことを目的とした。1、全国より集積した卵巣癌家系を対象としたノンパラメトリック連鎖解析により、全染色体領域から確実な候補領域を限定する。2、さらに候補遺伝子を限定するため、同領域に約200kbごとのマイクロサテライトマーカーを設定し、case-control association study(患者-対照相関解析)による詳細な原因遺伝子領域の限定を行う。以上、本研究の成果は、家族性症例における遺伝子診断、発症予防、早期発見に寄与するだけでなく、悪性腫瘍における発症メカニズムの解明、治療モデル、発症予防システムの確立に重要な知見をもたらし、さらに疾患原因遺伝子を単離するポジショナルクローニングの方法論確立においても大きく貢献するものである。
研究方法
1、家系集積とBRCA1、2遺伝子異常の解析。姉妹・叔母姪など家系内に2名以上の上皮性卵巣癌患者が存在する家系を全国的に集積し、患者を含め同意の得られた家系構成員(両親、同胞)の末梢血もしくは唾液、および手術時摘出組織よりDNAを抽出。このうち卵巣癌患者についてはBRCA1、2両遺伝子の変異解析を直接シークエンス法にて行った。2、ノンパラメトリック連鎖解析。BRCA1、2遺伝子に異常が認められなかった家系のうち母娘発症を除く28家系を対象に、X染色体を含む全染色体領域を網羅した410個のマイクロサテライトマーカー(平均距離9.0cM)を用いて、PCRにて増幅。そのPCR産物の長さの多型をオートシークエンサーにて検出した。この多型を示す対立遺伝子の家系内患者間での共有度をもとに、multipoint analysisのGENEHUNTERおよびtwopoint analysisにはSIBPALの2つのプログラムによりノンパラメトリック連鎖解析を行い、Non-parametric linkage(NPL) score、p-valueを計算した。3、患者-対照相関解析。連鎖解析にて連鎖を認めた領域については,家族性卵巣癌患者120人,卵巣癌の家族歴、既往歴を認めない健常女性180人を対象に,NCBI(National Center for Biotechnology Information)のシークエンスデータベースから約200kbごとのマイクロサテライトマーカーを設定(共同研究)。その多型解析を行い,患者群、健常群におけるアレル頻度の差をχ2検定により比較した.4、LOH(Loss of Heterozygosity)解析。LOHの判定は、マイクロサテライト多型により行い、正常DNAにおいてピークを2ケ所認める症例(heterozygosity)において、腫瘍DNAでの一方のピークの他方に対する相対的な割合が正常DNAよりも30%以上減少している場合をLOHと定義した(倫理面への配慮)検体収集にあたっては、主治医によるインフォームドコンセントを実施し、患者および家族の同意を得て行っている。
結果と考察
1、家系集積とBRCA1、BRCA2遺伝子解析。本年度は11家系の家族性卵巣癌家系を新たに集積し、直接シークエンス法にてBRCA1に加えBRCA2の異常を調べた結果、3家
系にBRCA1、1家系にBRCA2の突然変異を認め、BRCA2が本邦の家族性卵巣癌にも関与することを明らかにした。これまでの累計では、家族性卵巣癌82家系中40家系にBRCA1、5家系にBRCA2の突然変異を認めた。BRCA1では24種の突然変異を認め、そのうちT307Aは7家系、C2919Tは8家系に認められ、ハプロタイプ解析からも本邦のcommon founder mutationと考えられた。臨床的特徴の検討では、BRCA1、BRCA2に変異を認めない患者群での発症年齢が、散発性に比べて有意に若く(49,7才vs54.2才)、BRCA1、BRCA2変異患者では漿液性腺癌が約80%を占め、散発性に比べ有意差を認めた。臨床進行期ではBRCA1、BRCA2変異患者でIII、IV期の進行例が散発性に比べ有意に多かった。以上より、我が国の家族性卵巣癌におけるBRCA1、2の関与と臨床的特徴は、欧米のものと比較し、発症年齢以外はほぼ同一であることが明らかとなった。2、連鎖解析。BRCA1、2両遺伝子に突然変異を認めない28家系を対象に、X染色体を含むゲノム全域について解析を行った結果、multipoint analysisにてNPL scoreが2.0以上を示した領域は、3p22-25領域(NPL=2.7、LOD=3.5)、17p12-13領域(NPL=2.1、LOD=0.6)であった。同領域において高密度なマイクロサテライトマーカーを設定し、twopoint analysisを行い、連鎖の確認を行ったところ、17p12-13領域でp-valueが0.05以下を示したのは、スクリーニングに用いた2マーカーのみであったが、3p22-25領域においては同領域19cM内の11マーカーでp-valueが0.05以下を示し、連鎖の存在が確認された。3、LOH解析。以上の結果より、3p22-25領域を新規原因遺伝子の候補領域と考え、同領域内に設定した高密度なマーカーによるLOH解析を行った。その結果、同領域内にて解析した27マーカーすべてにおいて30%以上、うち13マーカーでは50%を越える頻度で遺伝子欠失が確認され、癌抑制遺伝子の存在が示唆された。4、相関解析。3p22-25領域からさらに候補領域を限定し、候補遺伝子を選定するため患者-対照相関解析を行った結果、同領域の19cM内に約200kbごとに設定、解析した145マイクロサテライトマーカーのうち、24マーカーにおいてアレル数で補正後のPc-valueが0.05以下を示した。さらにそのうち7マーカーではPc-valueが0.01以下と、疾患との間に強い相関を認め、同マーカー近傍に新規原因遺伝子の存在する可能性が示唆された。本研究による新規原因遺伝子の候補領域限定では、連鎖解析にて有望なスコアが得られ、今後の関連解析から変異検索へと単離へ進む確証が得られ、遺伝子同定の可能性が高まった。今後は、SNP(Single Nucleotide Polymorphism)を用いた相関解析(association study)にて、候補領域を数100kb程度まで限定し、候補遺伝子のピックアップより原因遺伝子の単離へと進む計画である。具体的には、ノンパラメトリック連鎖解析、Association study、LOH解析の結果を総合して候補領域を数100kbの範囲まで限定し、さらにその候補領域内から機能予測、あるいは発現解析等により候補遺伝子を選定し、連鎖を認める家系内の卵巣癌患者において変異の検索を行い、原因遺伝子を同定する予定である。
結論
1、我が国の家族性卵巣癌におけるBRCA1、BRCA2の関与、その臨床的特徴における、欧米との相違点が明らかとなった。2、BRCA1、BRCA2に突然変異を認めない家族性卵巣癌28家系の連鎖解析にて新規原因遺伝子の確かな候補領域(3p22-25領域)が得られ、さらに患者-対照相関解析により候補領域が限定され候補遺伝子の選定が可能となり、遺伝子単離への可能性が強まった。3、本年度は、相関の認められたマーカー近傍より候補遺伝子を選定し、マイクロサテライトに加えてSNPを用いたassociation study、および患者群における突然変異の検索を行い、新規原因遺伝子の同定を目指す。

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