がん情報の体系化に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000129A
報告書区分
総括
研究課題名
がん情報の体系化に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
山口 直人(国立がんセンター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 福田治彦(国立がんセンター研究所)
  • 新海哲(国立がんセンター中央病院)
  • 若尾文彦(国立がんセンター中央病院)
  • 大橋靖雄(東京大学医学部)
  • 田中英夫(大阪府立成人病センター調査部)
  • 宇都宮譲二(順心会家族性腫瘍研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
69,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がん診療レベルの向上のためにがん情報を有効活用する具体的方法を確立すること、そのために必要ながん情報の体系化を進めることを目的として研究を行った。コンピュータ・ネットワークの進歩によって着実に整備されつつある技術基盤の上で、がん情報を有効活用するためには、内容面でのがん情報の体系化が急務であり、がん患者データベースをはじめ、各種のデータベース構築とその活用を推進する必要がある。本研究が構築を目指すがん患者データベースは、臨床研究、疫学研究の基盤となるものであり、臨床試験データ管理システムとともに、我が国におけるがん臨床研究の推進に大きな力を発揮することが期待される。さらに、内外の臨床研究の成果等を、がん情報サービス、医用画像レファレンスデータベースとして広く国民及び医療従事者に提供することにより、最新かつ最善の治療が一部のがん専門診療施設だけでなく、全国の医療機関において提供されることが期待できる。
研究方法
がん専門診療施設でのがん患者の日常診療と治療経過に関する情報を標準化された形式で収集、整理して、全国的ながん患者データベースを構築し、がん診療の実態把握のための臨床研究・疫学研究の基盤整備を目指す。第1段階として、各施設で行われている院内がん登録の品質向上、そのために必要なデータ項目の標準化を進める。第2段階では、各診療グループが構築・管理する診療グループデータベースの品質向上のための検討を行う。さらに第3段階では、院内がん登録と診療グループデータベースを連携させて、施設全体の総合がん患者データベースを構築する具体的方法検討する。第4段階としては、施設の業務系データベースに蓄積される情報を総合がん患者データベース構築に活用する方法を検討する。また、既に実施されている地域がん登録等との連携を保ちつつ、地域レベルでのがん患者データベースの構築も検討する。家族性腫瘍については、その研究と診療における情報活用の重要性から、遺伝子・形質・家系関連データベースの構築を進める。多施設共同臨床試験の業務を支援する臨床データ管理システムシステムの設計・開発を行う。本年度はケースレポートフォーム収集管理ツール、追跡調査用紙作成ツール、月次症例登録数報告書作成ツールを開発して、その有効性を検証する。また、汎用性のある自動症例登録・割付プログラムを作成する。国立がんセンターがん情報サービスにおいて提供すべきがん情報の体系化を進める。典型的な症例、希な症例などの医用画像をデータベース化し、解説も加えて情報提供することによって、医師のがん画像診断を支援する画像レファレンスデータベースのために画像データベースの体系化を進め、それを利用者が参照しやすい形式で提供するためのアプリケーションを開発する。本研究では、個人情報保護への配慮を第一に考え、データベース構築にあたっては、個人情報を切り離して匿名化する等の措置を施すと同時に、隔離されたコンピュータでの厳重な管理を行う等、万全を期す。さらに、コンピュータシステムにおいて、情報保護を確立するためのシステム上の方策を検討すること自体も本分担研究の重要課題と位置づける。臨床試験の安全性と倫理性をシステム面から担保することを最重点課題として位置づける。情報サービスによる情報提供では、審査機構を整備して、内容の妥当性を十分に検討し、誤った情報提供による医療過誤等を防止する措置を取ってい
る。
結果と考察
全国がん患者データベースの基礎となる院内がん登録、診療グループデータベースの問題点を検討した。国立がんセンターにおける院内がん登録の全がん患者48,745名のデータを整理し、生存率向上の実態把握のための基盤データベースを構築した。さらに、主要部位別に5年生存率の経年変化の分析を行い、男女とも大きな改善が認められた。診療グループデータベースの品質向上では、データマネージャによる情報収集と医師による確認の組み合わせが最善であること、情報収集にはケースレポートフォーム(CRF)を用いることが有効であることも明らかとなった。さらに、院内がん登録データベースとのレコードリンケージにより、院内がん登録の持つ患者追跡情報を診療グループデータベースに活用することが有効であることが確認できた。これらの検討結果を基に診療グループデータベース用に拡張性の高いデータベース管理システムを構築した。地域がん登録、院内がん登録、全国臓器別がん登録の有機的な連携と、それに基づく精度良好な患者情報の集積・活用の仕組みとして、大阪府をモデル地区として、大阪がん患者データベースを構築、試用、評価した。この仕組みで7,619件の患者情報が大阪府がん登録に届けられ、医療機関からの1年間の届出総数の27%を占めた。
臨床データ管理システム(CDMS)の構築の一環として、各種のツールを作成した。CRF収集管理ツールは、CRFにプリントされたバーコードを読み取り、未回収CRFリストを簡便に作成し、督促状作成に必要なデータとリンクしてデータベース化するツールである。追跡調査用紙作成ツールは、既報告の患者の転帰データをデータベースから抽出して症例毎の追跡調査用紙をプリントするツールである。月次症例登録数報告書作成ツールは、各研究事務局・臓器グループ代表者・委員会等に定期的に登録数を報告するツールである。JCOGの活動紹介や研究者間の情報共有促進を目的とするWebサーバーを立ち上げホームページの運用を開始した。臨床試験で用いられる症例登録用紙を調査した結果を基に症例自動登録・割付プログラム作成した。
国立がんセンターがん情報サービスの提供情報の体系化を進めた。国立がんセンターがん情報サービスへのアクセス件数は、インターネットは月35万件を超え、アクセス件数が月毎に増えている。提供する情報量の増加によるものであり、情報データベース開発・構築の目的にかなった結果と考えられた。アクセス件数の増加に比例して国立がんセンターがん情報サービスへの問い合わせ件数も増加し、平成12年度は850件を超えた。医用画像レファレンスデータベースをインターネット上で提供して、医師の画像診断を支援するためのシステム、特に必要な画像を選択するための仕組みを検討し、必要な開発を行った。
本研究では、がん情報データベースとして、全国がん患者データベース、がん臨床試験の臨床データ管理システム、提供情報のためのがん情報データベースなどについて研究を行ってきた。院内がん登録データベースの整備はほぼ完了できた。他の主要がん診療施設と協議の上、院内がん登録データベースの標準化を進めてゆく基礎ができたと言える。また、診療グループデータベースの品質向上についても、基本要件の整理が完了した。本研究で開発した診療グループデータベース用の管理システムは、多くの診療科に共通して利用できる可能性があるため、今後、他の診療グループへの拡張を通じて、さらに問題点の洗い出しを進める。全国で毎年新たにがんと診断される患者数の約15%を占めると推定される主要がん診療施設のがん患者を集めた全国がん患者データベースを構築することで、我が国におけるがん診療をかなりの確度で把握することが可能である。
多施設共同臨床試験のための臨床データ管理システムも順調に開発が進められている。その成果を数字で示すことは困難であるが、臨床試験の安全性をチェックするための定期モニタリング調査等の質が着実に向上しており、さらに、情報の品質を確認するための施設監査等にも蓄積されたデータが活用されるようになりつつある。
情報提供のためのがん情報の体系化も、ほぼ予定通りに進められており、それを反映して利用者が特にインターネットを通じての利用者が増加している。日本の医療および社会環境に対応したわが国独自のデータベース開発を目指しており、画像情報もデータベースに加えている。
結論
がん治療成績の向上のためにがん情報を効果的に活用することを目的として、がん情報の体系化に関する研究を行った。主要がん診療施設におけるがん患者データベース構築の一環として、院内がん登録データベースの品質向上、診療グループデータベースの品質向上、両者の連携、業務系データベースの活用が重要であることが明らかとなった。さらに、地域単位でがん登録を連携させることの重要性が明らかとなった。多施設共同臨床試験のための臨床データ管理システムの開発と評価を継続して実施した。また、情報提供のためのがん情報の体系化として、国立がんセンターがん情報サービスの体系化を進めた。画像レファレンスデータベースによる画像情報提供のための体系化を行った。がん患者データベースによるがん診療の実態把握、臨床試験による標準治療法の確立、そして、内外の研究成果を情報提供するためのがん情報の体系化の3者が有機的に連携することによって我が国のがん治療成績を向上させるためにがん情報を有効活用してゆく基盤の整備を進めることができた。

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