ME機器の進歩に基づく新しい診断法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200000126A
報告書区分
総括
研究課題名
ME機器の進歩に基づく新しい診断法の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
森山 紀之(国立がんセンター中央病院)
研究分担者(所属機関)
  • 吉田茂昭(国立がんセンター東病院)
  • 大山永昭(東京工業大学工学部)
  • 向井 清(東京医科大学)
  • 牛尾恭輔(国立病院九州がんセンター)
  • 落合淳志(国立がんセンター研究所支所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
87,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、医療診断用ME機器の開発を行い、これらの開発された機器を用いた新しいがん診断法の確立を行うこと、がん診断画像情報転送についての管理、運営効率の良いシステム化の構築を行うこと、新しく開発された診断方法と総合画像管理システムの体系化によって臨床画像、病理画像のレファレンス化を行うことによって、画像診断における画像診断の精度・効率の向上を目指すものである。
研究方法
01)ヘリカルCTを用いた肺がん検診の継続と検診内容の解析を行った。解析内容は検診結果、胸部X線写真とヘリカルCT画像との対比、ヘリカルCTによってのみ発見可能であった病変の病理学的所見と画像との比較、経過症例についての経時的な画像所見の変化である。
02)本研究で開発されたヘリカルCTによる肺がん検診システムを用いた肺がん検診を米国においてメイヨークリニックとの協同で開始し、米国でのデータの解析を行った。
03)ヘリカルCTの肺病変画像データをコンピューター支援自動診断システムを用いて診断を行い、このデータと画像診断専門医、および画像診断の初心者による読影データとの比較検討を行った。
04)ヘリカルCTを肺がん検診に導入した後に発見された肺がん群の5年生存率の算出を行い、ヘリカルCT導入前の5年生存率との比較を行った。
05)新しいタイプのマルチスライスヘリカルCTの開発と臨床応用を行った。
06)経静脈的な造影剤の投与に際して大動脈のCT値を自動的にモニターすることによって
最も適した条件での撮影が自動的に行えるシステムの開発を行った。
07)がん画像レファレンスデータベースの構築を行い、国際的な観点から使用できるシステムの導入を行った。
08)内視鏡画像上の青色波長における短波、長波の解析により腫瘍部を検出するシステムの開発を行った。
09)内視鏡画像上の青色波長の解析と同時に拡大内視鏡による観察が可能なシステムの開発を行った。
10)保健医療分野での利用形態を考慮した本人認証ICカードの実現方策についての研究を行った。
11)画像検診データの電子保存における原本確保の適応可能・共有化についての具体的な使用に関してのシステムの開発を行った。
12)コンピューターモニター上で視野を変化させたり、視野に収まらない標本の分割表示が可能な顕微鏡システムの開発を行った。
13)X線画像、内視鏡、切除標本、病理組織像をスキャナーで取り込み、データベース化し、キーワード、部位、疾患、モダリティー別に検索できるシステムの構築を行った。
14)放射線治療が行われた扁平上皮がんに対して増殖、アポトーシス、および血管新生と放射線感受性との関係についての解析を行った。
結果と考察
A.結果
01)ヘリカルCTによる肺がん検診の結果、従来の胸部単純X線撮影で発見できる肺がんは全体の19.2%のみであり、胸部単純X線撮影で発見不能な肺がんが数多く存在することが明らかとなった。
02)ヘリカルCTでのみ発見可能な早期の肺がんの多くはがん細胞が肺胞上皮に沿って広がっており、CT画像上淡い影として見られる特徴があり、これらの肺がんの予後が良好であることが判明した。
03)メイヨークリニックでのヘリカルCTによる肺がん検診でもコンピューター支援自動診断システムが有用であることが明らかとなった。
04)CT画像のコンピューター支援自動診断システムは画像読影専門の医師をしのぐ診断能を有することが明らかとなった。
05)新しいタイプのマルチスライスCTは従来のヘリカルCTに比較して、存在診断、質的診断において優れていることが明らかとなった。
06)大動脈の経時的なCT値をコンピューターで認識させることによって、最も適した条件での造影CTが安定して撮影できるようになった。
07)がん画像レファレンスデータベースを国際的な視野から構築し、インターネット上に公開した。
08)内視鏡画像上の青色波長の解析を行うことによって質的診断能が向上した。
09)青色波長の解析とともに拡大内視鏡を用いることによってがん診断能が向上した。
10)医療分野でのICカードシステムの構築を行い、セキュリティおよび原本確保の精度が向上した。
11)コンピューターと連絡した顕微鏡システムの開発によって遠隔病理診断能が向上した。
12)扁平上皮がんの放射線治療による感受性を個々の症例での病理解析から明らかとすることが可能となった。
B.考察=
01)胸部単純X線撮影の診断能意外にも低いことが判明し、今後の肺がん検診での使用に際しては胸部単純X線撮影のみでは不十分と考えられる。
02)早期の肺がんでは、がん細胞が肺胞表面に沿って広がっており、病変内部に多量の空気を含むために胸部単純X線撮影では正常肺と区別することが不能であったものと考えられる。
03)海外におけるヘリカルCTによる肺がん検診も我が国における結果と同様であり、今後、国際的な観点で肺がん検診を見直す必要があるものと考えられる。
04)コンピューター支援自動診断によるヘリカルCT画像の読影能は画像読影専門医をしのぐレベルにまで達しており、今後どのように実用化するかを検討すべき時期に入ったと考えられる。
05)新しいタイプのマルチスライスCTは従来型ヘリカルCTよりも優れた診断能を有していることが明らかとなった。今後、各臓器がんに対する撮影方法、画像表示方法の確立が必要と考えられる。
06)造影剤の投与後に大動脈のCT値をモニターすることによって自動的に最適な条件での撮影が可能となった。さらに、各臓器における最適条件の検討を進め、臨床に広く応用するべきと考えられる。
07)がん画像レファレンスデータベースをインターネット上に公開することによって、グローバルな範囲での診断能が向上するものと考えられる。
08)消化管内視鏡画像における青色波長のコンピューター解析を行い、さらに拡大内視鏡における青色波長から見た病変部の画像解析を行うことによって診断能が向上するものと考えられる。
09)医療分野における個人情報の原本確保とセキュリティの精度を向上させることは大切なことであり、今後さらに精度向上を計る必要があるものと考えられる。
10)がん標本の顕微鏡画像のコンピューターデジタル操作を行うことは病理診断能の向上につながり、特に病理遠隔診断においては著しい診断能の向上が得られるものと考えられる。
11)個人の症例に対する放射線感受性の診断が可能となることによって放射線治療の適応が明らかとなり、良好な治療効果が効率よく得られるようになるものと考えられる。
結論
01)ヘリカルCTによる肺がん検診では従来の胸部単純X線撮影では発見することのできなかった予後の良好な早期の肺がんを発見することが可能であり、今後肺がん検診には積極的にヘリカルCTを導入すべきであると考える。
02)肺がんは全世界において最も頻度の高いがんであることより、グローバルな視点から見るとヘリカルCTによる肺がん検診を我が国だけのものに止めず、広く世界に広める必要があると考える。
03)新しいタイプのマルチスライスヘリカルCTは従来のヘリカルCTよりも基本的に優れた診断能を有している。今後各臓器別にマルチスライスヘリカルCTの撮影方法、画像表示方法を確立させる必要があると考える。
04)がん画像レファレンスデータベースの構築を行い、これをインターネット上で公開することは、がん画像読影の教育および臨床における診断上有用なものと考える。
05)医療分野における個人情報のセキュリティの管理、原本の確保は今後の医療における情報交換、情報公開を行う上で非常に大切であると考える。
06)コンピューター制御による病理顕微鏡システムによって病理診断精度の向上、特に遠隔病理診断精度の向上が得られた。
07)個々の病変の病理的な解析からがん細胞の放射線感受性が明らかとなることによって、放射線治療への適応の判断が容易となり、放射線治療の精度、効果の向上が得られるものと考える。

公開日・更新日

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