動物モデルを用いた発がん感受性に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000122A
報告書区分
総括
研究課題名
動物モデルを用いた発がん感受性に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
中釜 斉(国立がんセンター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 木南 凌(新潟大学)
  • 庫本 高志(国立がんセンター研究所)
  • 樋野 興夫(癌研究会癌研究所)
  • 日合 弘(京都大学)
  • 李 康弘(虎ノ門病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
70,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、発がんの動物モデルを用いた遺伝解析により、発がん感受性および抵抗性を規定する遺伝的要因を解明することを目的とする。発がん感受性および抵抗性を規定する遺伝的要因を明らかにすることは、がんの本態を把握し、個々人の発がん感受性に応じたがん予防戦略を確立するためにも不可欠である。本研究班では、胃、大腸、肺、肝臓、腎臓、リンパ組織などの種々の臓器を対象に動物個体の遺伝的背景の違いが発がん性に与える影響を解析し、個体レベルの発がん性を規定する遺伝子座を連鎖解析によりマップする。最終的には責任遺伝子を同定・単離し、感受性遺伝子のヒト発がんへの関与について解明する。さらに本研究の成果を最終的にはヒト集団に外挿し、個々人の発がん感受性に応じたがん予防や新規治療法の開発へと応用する。
研究方法
本研究班全体の研究は、基本的に下記の方法に沿って進められた。即ち、各臓器の発がんモデルを用いて発がん感受性および抵抗性を規定する遺伝子座を同定し、各々の遺伝子座についてコンジェニック動物を作成する。既にコンジェニック系統を作成したものについては、感受性及び抵抗性遺伝子間の相互作用について解析し、各感受性遺伝子の発がんへの影響力について正確に評価する。さらに、コンジェニック系統を起始動物としてリコンビナントコンジェニック動物を複数系統作製し、感受性及び抵抗性遺伝子座の局在をゲノムシークエンスが可能な1~2 cM以下に絞り込むというものである。
結果と考察
ラット第16番染色体上の大腸発がん感受性遺伝子Rcsを有するコンジェニックラットにおいて、大腸での遺伝子発現量が上昇あるいは低下しているものが30種同定できた。これら遺伝子群の発現量の差が発がん性に関与している可能性がある。MNNG誘発ラット胃がんに関しても、複数の感受性および抵抗性遺伝子のコンジェニック系統を作製中である。放射線誘発のマウスリンパ腫やウレタン誘発マウス肺がんの感受性あるいは抵抗遺伝子に関しても、コンジェニク動物の作製に成功し、候補遺伝子の検索を開始した。遺伝性腎がんEkerラットの腎発がんや早期の変異尿細管の誘発性に関しても、遺伝的背景の違いによりその誘発性が修飾されることが判った。
結論
コンジェニック系統の大腸粘膜において特異的な発現を示した30種の遺伝子群が複合的に作用することにより、大腸前がん病変であるACF誘発性を制御していることが示唆された。MNNG誘発ラット胃がんのコンジェニック系統を確立できたことにより、個々の感受性座位の発がんに対する効果を均一な遺伝的背景で評価可能となった。放射線誘発のマウスリンパ腫の遺伝解析が100頭以下のコンジェニック動物で判定可能であることが判り、その局在を数cM以下にまで狭めることが現実的となった。肺発がん抵抗性遺伝子Par2が約0.5cMのゲノム領域にマップできたことから、候補遺伝子の同定が可能となった。また、原因遺伝子が既に明らかな遺伝性腎がんにおいても、個体の遺伝的背景により発がん性が修飾されることを明らかにした。以上の研究成果は、今後、ヒトがんにおける発がん感受性の問題を解明するための基礎的な資料となる。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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研究報告書(紙媒体)