文献情報
文献番号
200000121A
報告書区分
総括
研究課題名
新しいがん免疫療法の研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
山口 建(国立がんセンター研究所)
研究分担者(所属機関)
- 若杉尋(国立がんセンター研究所)
- 峯石真(国立がんセンター中央病院)
- 河上裕(慶應義塾大学医学部)
- 伊東恭悟(久留米大学医学部)
- 珠玖洋(三重大学医学部)
- 岡正朗(山口大学医学部)
- 望月徹(静岡県立大学薬学部)
- 福島雅典(京都大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
125,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究では、難治がん治療成績の向上を目指した新しい免疫療法を開発することを目的とし、研究内容としては、免疫担当細胞を用いた「がんの細胞療法」と抗原ペプチドを用いた「がんのワクチン療法」を2本の柱とする。がんの細胞療法では、樹状細胞やCTL療法の治療効果、骨髄非破壊的同種造血幹細胞移植(ミニ移植)の有効性の評価、NK様T細胞の培養増幅技術の確立などを行う。がんのワクチン療法としては、進行上皮がんに対するHLA-A24拘束性ぺプチド(SART-1, SART-3, Cyclophilin-B, Lck)、乳がんに対するHER2p63-71ペプチドやCHP-HER2(HER2タンパクと疎水化多糖類の複合体)によるペプチドワクチン療法につき第I相臨床試験を実施し、その安全性の評価を行う。さらに新しいがん抗原の探索として、Serological identification of tumor antigens by cDNA expression cloning (SEREX)法によるメラノーマおよび膵がんなどの難治がんの新しいがん抗原の単離同定、プロテインチップ法による膵がん抗原の単離同定、また膵がん抗原であるMUC1ペプチドを化学合成し、抗腫瘍活性を強く誘導できるものを探索する。
研究方法
難治がんを対象とした細胞免疫療法に関する研究では、進行メラノーマを対象とした腫瘍特異的樹状細胞療法の臨床試験計画書を作成し、すでに国立がんセンター倫理審査委員会にて承認を受けている。本計画書の中で使用予定であるHLA-A2またはA24拘束性のメラノーマ腫瘍関連ペプチドをそれぞれ5種類ずつ合成し、健常人由来の樹状細胞およびT細胞を用いて、CTLの誘導実験を行った。次に膵がん切除例を対象として、膵がん培養細胞を用いてCTLを誘導し、術後1週間より投与を行い、再発形式および生存期間への効果を検討した。また、骨髄非破壊的同種造血幹細胞移植(ミニ移植)に関する研究では、造血器腫瘍の患者では通常の同種移植の適応とならない高齢の患者や臓器障害のある患者において、また固形腫瘍では通常の治療法で治癒の望めない転移性の患者を研究対象とした。HLA一致または1抗原ミスマッチのドナーからG-CSF投与によって動員した末梢血幹細胞の採取を行い、免疫抑制を中心とする副作用の少ない前処置(フルダラビンまたはクラドリビンおよびブスルファン±抗ヒト胸腺細胞ウサギ免疫グロブリン)によって同種造血幹細胞移植を行った。移植後は移植片対腫瘍効果(GVT)を誘導するため免疫抑制剤を減量中止し、生着、合併症、抗腫瘍効果および血液のキメラの状態を定期的に調べた。NK様T細胞の増幅および移植免疫での役割に関する研究としては、G-CSFにて動員し成分採血で採取した単核球を用いて、interleukin (IL)-2およびNK様T細胞リガンドであるα-galactosylceramide(α-GalCer)の存在下にて培養を行い、TCRVα24陽性NK様T細胞の増幅につき検討した。またNK様T細胞がミニ移植の系でどのような影響を及ぼすかを解明するため、急性GVHDモデルマウスの系を用いて、α-GalCer投与の効果を検討した。がんのワクチン療法の開発に関する研究では、進行上皮がんに対してHLA-A24拘束性ぺプチド(SART-1, SART-3, Cyclophilin-B, Lck)、乳がんを対象としたHER2p63-71ペプチドやCHP-HER2(HER2タンパクと疎水化多糖類の複合体)を用いたペプチドワクチン療法の第I相臨床試験を行う。HLA-A24拘束性のCTL誘導可能なペプチド分子については、gwd manufacturing practices (GMP)グレードで臨床応用可能なペプチドを不完全フロインドアジュバンドと共に皮下投与
を行った。エンドポイントは有害事象の有無及びCTL誘導能の有無とした。CHP-HER2については、天然多糖プルランに疎水基としてコレステロール基を導入した疎水化多糖とヒトHER2の組み替え蛋白(N末端より147アミノ酸残基を含む)を用いて作製した。次に新しい免疫療法の開発を目的とした基礎的検討では、SEREX法を用いて、新規ヒトがん抗原の単離を行う。方法は、各種がん細胞からcDNA発現ライブラリーを作製して、がん患者血清抗体を用いたスクリーニングによりがん抗原遺伝子を単離した。単離した抗原については、組織特異的発現性を検討して、新しい診断法や免疫療法に有用となる可能性のあるがん抗原を同定して行く。次に膵がんに対するペプチドワクチンの開発を目的として、膵がん培養上清中に産生されるごく微量のがん抗原のプロテインチップ法を用いての単離同定や免疫原性の強い長鎖MUC1ペプチドの化学合成を行い、CTL活性の誘導につき検討する。さらに、免疫遺伝子治療開発の一環として、レトロウイルスを用いてサイトカイン遺伝子を導入したマウスの樹状細胞を作成し、B16メラノーマ腫瘍担がんマウスへの投与を施行し、抗腫瘍効果を検討した。倫理面への配慮については、ヒト由来の試料を用いる場合には、研究計画の倫理審査委員会による承認、被験者のインフォームド・コンセントの取得、個人情報の保護につとめ、新しい免疫療法のプロトコール(第I相試験)に関しては、各施設の倫理審査委員会での承認とインフォームド・コンセントを得て実施することとした。
を行った。エンドポイントは有害事象の有無及びCTL誘導能の有無とした。CHP-HER2については、天然多糖プルランに疎水基としてコレステロール基を導入した疎水化多糖とヒトHER2の組み替え蛋白(N末端より147アミノ酸残基を含む)を用いて作製した。次に新しい免疫療法の開発を目的とした基礎的検討では、SEREX法を用いて、新規ヒトがん抗原の単離を行う。方法は、各種がん細胞からcDNA発現ライブラリーを作製して、がん患者血清抗体を用いたスクリーニングによりがん抗原遺伝子を単離した。単離した抗原については、組織特異的発現性を検討して、新しい診断法や免疫療法に有用となる可能性のあるがん抗原を同定して行く。次に膵がんに対するペプチドワクチンの開発を目的として、膵がん培養上清中に産生されるごく微量のがん抗原のプロテインチップ法を用いての単離同定や免疫原性の強い長鎖MUC1ペプチドの化学合成を行い、CTL活性の誘導につき検討する。さらに、免疫遺伝子治療開発の一環として、レトロウイルスを用いてサイトカイン遺伝子を導入したマウスの樹状細胞を作成し、B16メラノーマ腫瘍担がんマウスへの投与を施行し、抗腫瘍効果を検討した。倫理面への配慮については、ヒト由来の試料を用いる場合には、研究計画の倫理審査委員会による承認、被験者のインフォームド・コンセントの取得、個人情報の保護につとめ、新しい免疫療法のプロトコール(第I相試験)に関しては、各施設の倫理審査委員会での承認とインフォームド・コンセントを得て実施することとした。
結果と考察
進行メラノーマに対する樹状細胞療法については、HLA-A2またはA24拘束性のメラノーマ腫瘍関連ペプチドが、すべて同種のclass I分子を発現する標的細胞に対するCTL活性を誘導し得ることを確認した。さらに、ペプチドカクテルをパルスした樹状細胞を用いて誘導したCTL細胞では、一部のメラノーマ培養細胞に対する障害活性を認めた。今後、メラノーマの樹状細胞療法においてその誘導活性ならびに抗腫瘍効果を検討する。次に膵がん切除12例においてMUC1-CTLを用いた細胞療法を行い、術後肝転移再発はコントロール群に比べて完全に防止されることを認めた。問題点は、局所再発であり、これに対しては拡大郭清と術中放射線療法の線量増加により現在症例を重ね検討中であるが、免疫療法が膵がん外科切除の補助療法となりうる可能性が示唆されたと考える。骨髄非破壊的同種造血幹細胞移植(ミニ移植)に関する研究では、造血器腫瘍27例、固形腫瘍9例においてミニ移植療法を施行した。この36例のうち34例が移植後早期にドナータイプの完全キメラを達成し、2001年3月末の時点で、造血器腫瘍においては22例が(うち18例が完全寛解を現在まで維持)、また固形腫瘍においては6例が生存中である。また固形腫瘍のうち腫瘍縮小効果が腎癌の1例で、また腫瘍の増大が停止しNCとなっている例が4例認められた。この研究により骨髄非破壊的移植法は高年齢あるいは臓器障害のある患者においても安全に実施しうることが示された。NK様T細胞の増幅に関する研究では、G-CSFにて動員し成分採血で採取したヒト単核球を用いてIL-2とα-GalCerの存在下で培養すると10日前後の短期培養期間中にNK様T細胞を約1000倍程度増殖させ得ることを見いだし、NK様T細胞療法の臨床応用の可能性を示した。また、急性GVHDモデルマウスの系でα-GalCer投与により、コントロ-ル群では約90%の細胞がドナ-タイプの細胞であるのに対し、α-GalCer投与群ではドナ-細胞の生着が殆ど認められなかったことより、ドナ-リンパ球の生着拒絶にはNK細胞あるいはNK様T細胞が関与していることが示唆された。がんのワクチン療法の開発に関する研究においては、上皮性進行がんの患者に対して投与したHLA-A24拘束性のペプチドによる有害事象は局所の発赤、腫脹以外認められていない。また、がん細胞及び投与ペプチドに対して特異的認識を示すCTLが6割の症例においてペプチド投与後増加(もしくは誘導)していることが確認された。しかし、PR以上の腫瘍退縮はペプチドワクチン単独では得られず、今後の最大課題として残されている。組み替えHER2蛋白と
コレステロール疎水化多糖類プルランの複合体(CHP-HER2)により処理したHLA-A2402陽性樹状細胞が、HLA-A2402拘束性HER2p63ペプチド特異的CD8+CTLクローンにより殺傷され、HER2p63ペプチドが樹状細胞に抗原提示されることが認められた。またCHP-HER2免疫BALB/cマウス由来のCD4+T細胞株を用いた検討により、HER2蛋白中には少なくとも5種類のCD4+T細胞に反応するエピトープが存在することが明らかとなった。このことはCHP-HER2はMHCクラスⅠ結合性エピトープペプチドのみならず、ヘルパーエピトープをもMHCクラスⅡと共に提示し得ることを示している。SEREX法を用いた新規ヒトがん抗原の単離に関する研究では、がん培養細胞株から作成したcDNAライブラリーからメラノーマおよび膵がん患者の血清を用いて、新しい遺伝子KU-MEL-1とKU-PAN-1が単離同定された。これらの遺伝子mRNAは、正常組織には発現を認めず、メラノーマや膵がん腫瘍組織での発現が確認された。今後SEREX法を他の様々ながん種にも応用して、より多くの臨床応用可能ながん抗原を同定していく予定である。プロテインチップ法を用いた膵がん抗原の探索については、膵がん培養細胞株34例中5株に膵がん特異的な抗原ペプチドのピークが検出され、アミノ酸配列の解析が進行中である。次に膵がん抗原である長鎖MUC1ペプチド(並列型, 100mer)の化学合成を施行した。今後健常人の樹状細胞を用いたCTLの誘導活性や膵がん患者でのペプチドワクチンとしての有効性が検討される。免疫遺伝子治療のアプローチとして、レトロウイルスを用いてサイトカイン(IL-2, IL-12)を産生する樹状細胞を作成し、抗腫瘍効果を検討した。サイトカイン遺伝子を導入した樹状細胞の腫瘍内投与を受けたメラノーマ担がんマウスでは、コントロール群(PBS, 遺伝子導入していない樹状細胞)に比較して著明な腫瘍縮小効果が見られ、また長期生存でも有意に生存期間の延長が認められた。樹状細胞を利用した新しい免疫遺伝子治療としての可能性が示唆されたと考えている。
コレステロール疎水化多糖類プルランの複合体(CHP-HER2)により処理したHLA-A2402陽性樹状細胞が、HLA-A2402拘束性HER2p63ペプチド特異的CD8+CTLクローンにより殺傷され、HER2p63ペプチドが樹状細胞に抗原提示されることが認められた。またCHP-HER2免疫BALB/cマウス由来のCD4+T細胞株を用いた検討により、HER2蛋白中には少なくとも5種類のCD4+T細胞に反応するエピトープが存在することが明らかとなった。このことはCHP-HER2はMHCクラスⅠ結合性エピトープペプチドのみならず、ヘルパーエピトープをもMHCクラスⅡと共に提示し得ることを示している。SEREX法を用いた新規ヒトがん抗原の単離に関する研究では、がん培養細胞株から作成したcDNAライブラリーからメラノーマおよび膵がん患者の血清を用いて、新しい遺伝子KU-MEL-1とKU-PAN-1が単離同定された。これらの遺伝子mRNAは、正常組織には発現を認めず、メラノーマや膵がん腫瘍組織での発現が確認された。今後SEREX法を他の様々ながん種にも応用して、より多くの臨床応用可能ながん抗原を同定していく予定である。プロテインチップ法を用いた膵がん抗原の探索については、膵がん培養細胞株34例中5株に膵がん特異的な抗原ペプチドのピークが検出され、アミノ酸配列の解析が進行中である。次に膵がん抗原である長鎖MUC1ペプチド(並列型, 100mer)の化学合成を施行した。今後健常人の樹状細胞を用いたCTLの誘導活性や膵がん患者でのペプチドワクチンとしての有効性が検討される。免疫遺伝子治療のアプローチとして、レトロウイルスを用いてサイトカイン(IL-2, IL-12)を産生する樹状細胞を作成し、抗腫瘍効果を検討した。サイトカイン遺伝子を導入した樹状細胞の腫瘍内投与を受けたメラノーマ担がんマウスでは、コントロール群(PBS, 遺伝子導入していない樹状細胞)に比較して著明な腫瘍縮小効果が見られ、また長期生存でも有意に生存期間の延長が認められた。樹状細胞を利用した新しい免疫遺伝子治療としての可能性が示唆されたと考えている。
結論
メラノーマの樹状細胞療法ついては、CTL誘導活性のあるペプチドが選択され、平成13年6月から臨床試験が実施される。膵がんCTL療法については、術後肝転移の抑制効果が認められた。ミニ移植については、その安全性が示され、また化学療法抵抗性の固形腫瘍での有効性を示唆する成績を得た。ヒトNK様T細胞を短期間で一挙に1000倍程度増殖させる方法が開発され、この細胞を利用する新しい免疫療法の検討が可能となった。がんのペプチドワクチン療法では、HLA-A24拘束性の7つの異なるペプチドワクチンの第Ⅰ相臨床試験を開始し、その安全性が確認され、60%にCTLの誘導が認められた。さらにCTLエピトープとヘルパーエピトープの両者を含むHER2組み換え蛋白と疎水化多糖類の複合体(CHP-HER2)をワクチンとして利用し、マウスにおいてCTLとヘルパーT細胞の両者を活性化し得ることを明らかにし得た。新しいがん抗原の探索については、SEREX法を用いて、新規メラノーマ抗原と膵がん抗原の単離同定に成功した。これらの抗原は、その組織発現特異性および免疫原性から、がんの診断および免疫療法の標的抗原としての有用性が示唆される。プロテインチップ法による検討では、膵がん培養細胞より産生される膵がん特異的な抗原ペプチドのピークが同定された。また膵がん抗原ペプチドとしてMUC1非天然型並列ポリマー(100 mer)が化学合成され、膵がんに対するペプチドワクチンとして期待された。新しい免疫療法の開発を目的とした免疫遺伝子治療については、サイトカイン(IL-2, IL-12)遺伝子を導入したマウス樹状細胞の移植腫瘍に対する有効性が確認された。
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