保健医療プロジェクトの事前・中間評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000117A
報告書区分
総括
研究課題名
保健医療プロジェクトの事前・中間評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
三好 知明(国立国際医療センター国際医療協力局)
研究分担者(所属機関)
  • 兵井伸行(国立公衆衛生院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 社会保障国際協力推進研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
保健医療分野におけるプロジェクトに関する評価が改善し、ひいてはプロジェクトが効率的かつ有効に行われるため、その評価手法と評価を用いたプロジェクト・マネージメントの改善を目的とする。
研究方法
具体的方法としては実際に行われているいくつかの保健医療分野の技術協力プロジェクトに対して、聞き取りやアンケートにて、事前、中間評価がどのように行われたかの調査を行い、現実に起こっている問題点を事前、中間評価と連携付けて考察する。この際、プロジェクト実施側のみならず、カウンターパートやその裨益者も対象とし、その視点からもより問題点を明確にする。また、すでに終了した保健医療プロジェクトについても資料を整理し、その分析をおこなう。さらには、先進各国の援助機関による事前、中間評価の取り組み方についても調査を行う。
また、他のセクターでの事前、中間評価についての研究成果についても検討し、保健医療分野の特徴を考慮に入れながらその適応を検討する。ここでは経済的評価の導入についても触れる予定である。
分担研究者は「迅速評価法や参加型評価法の適用に関する研究」を行うが、これは迅速評価法や参加型評価法をいかに実際のプロジェクトに応用していくかというもので、主任研究者の行う総括的な研究をより具体的に適応させようとするもので、ガイドラインの重要な柱となるものである。
最終的にはワークショップなどを通じて、事前評価、中間評価の問題点とそのための対策を具体的に挙げながら、保健医療プロジェクトの事前、中間評価を標準化し、ガイドラインにまとめる。ガイドラインは評価自体の方法論に言及するのみでなく、その活用やフィードバックについても触れ、現地およびプロジェクトの支援側にも活用できるものとする。
結果と考察
1)保健医療プロジェクト評価の現状と問題点に関する研究:
・ 日本におけるODA評価の現状
プロジェクト評価は実施の状況や達成された成果、さらに広い意味での影響(インパクト)に焦点をあてて調査し、計画内容の修正に役立て、教訓を引き出すことが主たる目的であるが、当然、協力の実態や成果を国民に知らせ、理解を得るという意味でも評価は重要である。すなわち、ODAの説明責任(Accountability)を改善するために評価はより重要となってきている。
特に医療分野ではその専門性の高さからこれまで十分な説明責任が果たされていたとは言い難い。顔の見える援助として、広報や宣伝活動をこれまで以上に行うと共に、地方自治体における政策評価と同様に、国民の納得する形での評価が求められる。
最近、プロジェクト評価は成果(outcome)指向で行われる様になってきたが、保健医療セクターではこれに影響する因子が多く、さらにプロセスが複雑であり、実際のoutcomeである有病率や死亡率などの変化に長い時間がかかることが多く、その評価は困難な場合が多い。また、例えば妊産婦死亡率などは出生10万あたりの妊婦死亡を対象としており、その調査に非常に大きな費用と労力を要するという面もある。
医療の質に関してはその技術的判定は医療専門家の判定(peer review)によらねばならないこともしばしばであり、一般の人にはその評価が理解できない。また、医療の質の評価は質の改善活動の中で考えていく必要があり、医療におけるTQM(Total Quality Management)やCQI(Continuous Quality Improvement)など医療サービスの質のマネージメントをどのように評価していくかを考えねばならない。患者の満足度などによっても医療の質を測ろうとする試みはあるものの、医療の質自体の定義が不明瞭な点が残されており、今後の課題である。
一方、他のセクターでは多く試みられている費用効果分析などの経済的評価は、保健医療セクターでその分析が困難な場合が多い。これは保健セクターが完全な市場経済原理のみで動いていないこと、また、健康などの価値観が多様であり、保健医療分野の成果を経済的に表しにくいことによっている。死亡のみならず障害も考慮に入れたDALY(Disability Adjusted Life Years)などの新しい保健指標の開発なども試みられているが、依然、完全なものはなく、今後の研究課題となっている。
・PCM手法を用いたプロジェクト評価の問題点
PCM手法を評価に用いることは、カウンターパートを巻き込み、自分の立場の理解を促すという点で、一定の役割は担い得る。しかしながら、PCM手法によって評価を行なうことには限界があり、改善の余地があると思われる。さらに言えば、新しい評価手法を考える必要も考えられる。
・ODA関連機関および先進各国の援助機関による事前、中間評価の取り組み方
各機関ごとに評価手法を工夫し、ツール化しており、参考となるものが多い。日本のODAについてもこうした標準化された評価手法が必要である。
2)迅速評価法や参加型評価法の適用に関する研究:
保健医療プロジェクト立案とその評価のためにさまざまな迅速・参加型手法が示されている。これらの手法をツールとして活用するためには、各手法の特徴を把握する必要があり、文献や実際の適用事例を基に歴史的発展過程も含めその特徴を明らかにし、適用の方向性を検討することを目的とした。
まず、1970年代後半から開発への取り組みの考え方は、「住民のために」から「住民とともに」そして「住民による」へと変化してきており、これは手法としてのRapid Rural Appraisal(RRA)から Participatory Rural Appraisal (PRA) そしてParticipatory Learning and Action(PLA)の変化に対応していた。
保健医療分野では、プライマリ・ヘルス・ケア(PHC)を契機に、地域住民のニーズ把握と住民自らが自分たちの健康の向上に参画するという流れの中で、迅速・参加型手法が活用されてきた。
しかし、援助機関や関連機関においては、「参加」を開発の重要な構成要素と捉えるようになってきているが、いわゆるプロジェクト・アプローチから実証・実験や学習過程を重視したアプローチの移行は起こっていない。
プロジェクト・アプローチの制限や制約はこれまでも認められているが、それに替わる実際に適用可能な代替案は浮上していない。従来のプロジェクト・アプローチでは、厳格な予定表や支出計画、比較的短期間で測定可能な達成や成果などが特徴付けられてきた。しかし、これらは集合的な学習や相互作用に時間を要し、また、マネージメントの柔軟性を求める真の参加型プロセスに反するものである。したがって、実証的・実験的意味合いでしか、住民側がプロジェクト内容を検討したり、実施段階での参加やその責任の受容を認めていないという現状が明らかとなった。
同様に、評価についてもすべてのステークホルダーの参加を高めることにより、彼ら自身による主体的なモニタリング・評価が成し遂げられることになるが、プロジェクト・アプローチに基づく第三者による客観的評価という観点から、実証的・実験的意味合いにおいてのみ参加型評価が行われていなかった。したがって、プロジェクト・アプローチ自体、今後プロジェクト・サイクルを通じてさらに順応性を高め、参加度を深める必要があることが明らかとなった。
その具体的方策としては、今後特にすべてのステークホルダーが対話するという枠組みの中で、ニーズに関しては、地域住民の要求を把握する詳細なウオンツ・エイブル手法のような参加型手法を適用すること、また、プロジェクトの運営管理や組織の能力開発については、ISO 1006プロジェクトマネイジメントやPmbok をPCM手法とともに適用すること、乳児死亡率や妊産婦死亡率などのいわゆる保健医療指標がプロジェクトの評価指標として適切でないことが多く、サービス満足度、人材養成の効果、スーパービジョンなど質的データの検討を行うこと、などが示された。
これら迅速・参加型手法には、方法論としてコミュニケーション・スキルや質的データの信頼性など留意点もあるが、関係者のコミュニケーションの促進を図り、責任能力(accountability)や所有権(ownership)を自ら形成し、主体である地域住民のエンパワーメントを達成し、パートーナーシップを促進するツールという点で積極的に導入し、事例検討を重ねる必要があると考えられる。
結論
1)保健医療プロジェクト評価の現状と問題点について整理した。
2)現在行われているPCM手法を用いたプロジェクト評価には限界があり、改善が必要である。
3)迅速評価法や参加型評価法の適用はプロジェクト評価に有用であり、さらなる研究が必要である。

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