包括的社会保障制度に係る国際比較と国際協力戦略に関する研究

文献情報

文献番号
200000112A
報告書区分
総括
研究課題名
包括的社会保障制度に係る国際比較と国際協力戦略に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
川口 雄次(WHO健康開発総合研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 石井敏弘(国立公衆衛生院)
  • 西村周三(京都大学大学院経済学研究科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 社会保障国際協力推進研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
4,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、アジアの中進国を中心とする各国の社会保障制度の実状を把握・比較・分析し、日本を含めたアジアの将来的な包括的社会保障制度の構築を目指した国際協力のあり方を提言することである。本研究初年度に明らかとなった「個人の自立」を支援する社会保障制度構築の必要性は、今後の各国における社会保障制度改革の試みにおいても共通する課題であると認識される。医療保険、年金、公衆衛生などを含める社会保障分野全体を視野においた国際協力を効果的に実施するためには、まとまった形で現存していないアジアの中進国の社会保障制度の情報・資料を収集・整理し、その検証・比較により導き出された「共生」への具体的な戦略を提言することが重要となる。3年にわたる本研究の中間年度となる平成12年度は、分析の対象を中進国に定め、各国の国際比較を指標の分析を中心におこない、研究初年度に引き続き各国の現行制度により一層の分析・考察を加えると同時に、日本の社会保障制度の発展の歴史およびその制度の中進国への汎用性を探ることで、最終年度に予定されている国際協力戦略策定への礎石とする。
研究方法
アジアの中進国の社会保障制度に視点を定めた各分担研究の報告の場として、研究班会議を開催した。中進国の社会保障制度と日本の制度との比較を行い、各国の健康指標および制度の持つ独自性および汎用性を、歴史、経済・政治状況・文化的背景を考慮した上で分析し、国際的な相互補完を実現する包括的社会保障制度の構築を提議した。UNDPのHuman Development Index〔人間開発指数〕を用いた国際比較を試みると同時に、分担研究として石井が、東アジア・東南アジア地域の主要国について、国際連合人口部、WHO、各国の政府統計部局および保健省による公開資料などから、人口、経済、保健医療に係わる指標を抽出し、比較をおこなった。また西村は、OECD、世界銀行、WHOなどの国際機関の資料を用いて、主に中進国を対象とし、各国の教育水準、所得格差、医療保障の財源調達メカニズムの差異などと各国の健康水準との関連を検討した。
結果と考察
研究班会議の一環として、UNDPのHuman Development Index〔人間開発指数〕による国際比較を試みた。石井の分担研究においては、研究地域を東アジア、東南アジアに絞り、その地域における主要8カ国について公衆衛生の動向を分析した。人口等に関する基本統計指標、一国内における都市部と非都市部の格差、一人当たりGDPと0歳平均余命(平均寿命)の関係、更には保健医療の専門家数に関して指標の比較をおこなった結果、分析の対象とした各国は発展段階の相違があるものの、過去の日本と類似する多くの状況が確認された。中国に関する分析において、都市部と非都市部では主要死因が大きく異なることが認められた。日本の死亡統計との比較では、中国都市部は1980年前後、一方で非都市部は1950年前後の日本の状況と類似することが認められた。このような一国内の都市部と非都市部における格差は、インドネシアの乳児死亡率の推移においても顕著であった。西村の分担研究において、中進国の教育水準、所得格差、医療保障の財源調達メカニズムの差異などと各国の健康水準との関連を検討した結果として、最貧国のみならず中進国に関しても、教育水準の高さが平均寿命などの健康水準と密接な関係にあることが、新たに明らかになった。一方では、対GDPの公的保健医療費支出の全体的な大きさと健康水準には密接な関係があるが、財源調達の方法の差異はほとんど関係がないことが明らかとなった。日本に関しては、地域別データを分析した結果、保健
支出や医療費と寿命との関係は特に認められなかった。
結論
UNDP人間開発指標を用いた比較において、ある程度の段階までは、経済成長と健康状態の改善に強い正の相関関係があることが認められるが、ある段階を過ぎるとその関連は薄れ、むしろ教育水準が健康状態の改善に大きな影響を与えることが窺える。成熟した情報社会においては、公的部門の役割は、国民の教育レベルをあげ、国民が自主的な判断の基で自己の健康の管理をおこなう制度の構築にあると考えられる。同様の結論が、西村の中進国を対象とした研究においても導き出され、教育水準の高さが平均寿命などの健康水準と密接な関係にあるという結果により、情報通信革命の進展により各国間の情報ギャップが狭まるなかで、健康に関する情報の収集能力の差異が、今後の医療保障制度のありかたに大きな影響を及ぼすことが示唆された。石井の分担研究では、アジアの主要8カ国の指標分析の結果、過去の日本と類似する状況が多く認められ、今後の本研究における国際協力戦略の策定に際して、この点は大いに考慮されるべきであり、日本の過去の経験が各国が今日直面している問題の解決に役立つ可能性が示唆された。一方、経済の急成長期にある各国においては、国内における都市部と非都市部に大きな格差が生じている現状が明らかになったことから、今後の研究分析において、国全体としての観点に加えて、国内の地域格差にも目をむける必要性が認識された。

公開日・更新日

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